新章75 運命の人
NO.91運命の人
「あれ? 真宗くんどこに行くの?」
ドアを開いた先では、なぜか浮ついた様子のセリカが立ち尽くしていた。
「セリカこそ、なんでここに?」
やばい。申し訳なさで顔を直視できない! ってか、声震えてなかったよな? 大丈夫だよな?
「あの、セリカ。さっきは――」
「あのね、真宗くん! これ持ってきたの!!」
「へ?」
セリカの反応は、俺が想像していたものとは全く違っていた。ってか、怒ってない……のか?
チラッと顔を見てみると、特にそんな様子もなく、何やら分厚い本を胸に抱いたまま、コテンと首を傾げている。
くっそ、かわいいな……じゃなくて。
「えっと、とりあえず入ってもいい?」
「えっ? あぁ、悪い」
ってなわけで、ベッドへと逆戻りして、セリカはさっきリズが座っていた場所に座ってもらった。
ちなみに、別に寝ていなくてもいいと言ったにも関わらず、半ば強引に横にされた。
それはいいんだけど、今は何よりもこの気まずさをどうにかしたい。
「セリカ! さっきはごめん!!」
「え? なんのこと?」
「謝っても許されないのはわかってる! 許してくれなんていうつもりもない! ただ――」
って、今なんて言った?
「えっと、だからさっき俺、お前に酷いこと言って……」
「あっ、さっきのこと? 全然気にしてないよ」
そう言って、これまで見たこともないほど優しげに微笑むセリカ。その笑顔に若干見惚れそうになるものの、とりあえずは首を振って平生を保つ。
「まぁ、全く気にしてない。なんてことはないけど……あんな顔されたら、責めるなんてできないよ」
「俺そんな酷い顔してた?」
「うん。心配になるくらい」
なぁ、こいつ優しすぎない? 俺、殴られても文句言えないくらい酷いこと言ったのに、怒るどころか心配してくれてるとか、優しすぎてこっちが心配になるんだけど。
「なぁ、セリカ。やっぱりひとつ聞いてもいいか?」
「なーに?」
「なんでお前は、俺のこと好きでいてくれるんだ? 俺は何もしてやれてないのに」
今度は言い方に気をつけつつ、再び同じ問いかけをする。
すると、セリカは少し悩んだ後、ドアの前で見せてくれた一冊の本を差し出してくる。
読めってことか? だとしても、なんでこのタイミングで本なんて……
「――ッ!?」
セリカから手渡されたそれは、本ではなくアルバムだった。開いた最初のページに書いてあったから、そうなんだろう。
しかし、中には写真らしきものが見当たらず、若干シワになった白紙のページが続くだけだ。
何枚も何枚も、ページを捲る手に手応えは一切感じられないまま、最後のページへと辿り着く。
「なんだよ、これ」
分厚いアルバムに不相応な、たった一枚の小さな写真。
セリカによく似た女性が、赤ちゃんを抱えている。そんななんの変哲もない写真。
赤ちゃんの顔が、黒く塗りつぶされていなければ。
「私の写真は、それしか残っていないの。まぁ、当時は写真が貴重だったっていうのもあるけどね」
「そうじゃなくて! なんで、こんなことに……」
「私ね、北王の名家――いちおー名家の生まれなの」
「いや、一応って」
セリカは、少し躊躇いながらもポツリポツリと話し始める。
しかし、声音からも態度からも一切悲観した雰囲気は感じられず、あくまで人に話す話題でないことを気にしているだけみたいだ。
「代々、王様直属騎士団の団長を任されているような家系でね、魔力の多さと剣技の多彩さでのし上がったの。けどほら、私魔力ゼロだし、運動もからっきしだったから落ちこぼれ扱いされてたんだ」
若干目を伏せ、ベッドに横たわる俺の反応を伺うようにして、少し間置いてから、セリカは続ける。
「そのせいで、お母様やお兄様にちょっとした意地悪されててね。そんな時、支えてくれたのが真宗くんだったの」
「待て待て待て! 全っ然身に覚えがないんだけど? そもそも、北王なんて一回しか行ったことないぞ?」
黙って聞いていようと思ったてんだけど、流石に意味不明すぎてツッコミを入れざるを得なかった。
だって俺、17になるまで他国どころか、島の外にすら出たことないような箱入りだぞ?
どうやったら他の国の、名前も顔も知らないような奴の支えになれるんだよ。
しかし、そんな俺の疑問は案外あっさりと解消されることになる。
「ずーっと、夢に見てたの。黒髪で、前だけ金髪の男の子が、優しく『おはよう』って笑いかけてくれる夢」
「それって――」
「うん。真宗くん……君だよ。認証式で見た時はびっくりしちゃった」
つまり、どこの誰とも知らない夢の中でしか会ったことない奴と、たまたま似てたからってことか?
「――っ、あっははは!!」
「な、なんで笑うの!? 私今、結構いい話してたよね!?」
「だって……ぷっ、ははは!! なんだよそれ! 意味わかんねぇよ!」
そもそも、そんなの夢に出てきた奴が俺かどうかすらわかんないじゃんか。これが笑わずにいられるかっての。
「でも、それだったら俺じゃなくて別の奴でもよかっただろ」
「ううん。真宗くんがいいの」
まだ若干笑いを含みながら投げかけた問いを、セリカは優しげに、しかしはっきりと否定する。
「真宗くんは、強くて優しくて……でも、弱っちくて、ちょっぴりヘタレで。ずっと完璧を求められてたからかな。そんな完璧じゃない君がいいって思えたの」
そう言って微笑むセリカは、いつになく優しげで、どこか儚さすら感じた。
きっと、さっき伝えてくれた分だけじゃ全然足りない過去があったんだろう。
「それに、私さ、ほら。契約前と後でだいぶギャップがあるでしょ? 私と会った人は、みんながっかりした顔するの。でも、真宗くんは違ったから」
「それは! ……それは、俺がセリカのことを知らなかっただけで――」
「でも、今私が前みたいに戻っても、真宗くんは態度を変えたりしないでしょ?」
「当たり前だろ! どんな姿だって、セリカはセリカだし」
「うん。ちゃんとわかってるよ。だから私は君を選んだんだもん」
最後の方、少し歯切れが悪くなったけど、これは俺の本心だ。
今更容姿なんて関係ない。俺が好きになったのは全部ひっくるめたセリカ自身だ。
ん? 今何を思った? セリカのことが好きって――
「そっか。俺、セリカのこと好きなのか……」
「え?」
口の中でだけ呟かれたひと言に、セリカが前のめりで聞き返してくる。
ちょっと待て。聞き返されたって、俺も自分が何言ってるかよくわかってない。
いや、考えれば考えるほど、俺めっちゃセリカのこと好きじゃん。
逆に、なんでこれで今まで『好きかどうかわかんない』なんてよく言えてたなおい。
なぁ、昔の俺よ。確かに忙しくて自分の気持ちに向き合う余裕なんてなかったのかもしれないけどな。流石に鈍感すぎじゃないか?
ってか、これ言った方がいいのかな。いいよな! よし! ……でもなんて言おう。
ああもう!! 勢いで言わないとまたウジウジ悩んで言えなくなっちまうっての!!
「セリカ」
「――? どうしたの? 改まって」
「俺、お前のこと好きだわ」
勢い任せで放たれた言葉。
こんなかっこよさのかけらもない、情け無いにも程があるひと言が、人生ではじめての――そして最後の愛の告白だった。
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とぅーびーこんてにゅー
どもども!隔週投稿すら守れなかったクソ雑魚ブロッコリーの雅敏一世でございますよー!!
さて、今回やっとヘタレ野郎(主人公)が告白したところで終了。次回、セリカはどんな反応をするのか!
乞うご期待ください♪
ではでは、また会いましょ〜♪




