新章62 最恐の魔王VS最良の魔王
NO.78最恐の魔王VS最良の魔王
「……っぶねぇ」
振り下ろされた重い一撃を、すんだのところで受け止める。けど、それは俺が受け止めたんじゃなくて、念のため掛けておいた保険が役立った結果だった。
「ほう。受け止められるとは思わなかったな」
「万が一、入った瞬間の奇襲に備えて『朧月』発動させておいて正解だったな……」
メギドフォルンに魔力を込めて置いたおかげで、自動反射型の『朧月』が発動してくれた。
なんとか命拾いできて本当によかった。よかった、けど大事なのはそこじゃない。
『朧月』が発動した相手が問題だ。
「よりによってお前かよ!! 王花!!」
「その呼び名はよして欲しいものだな! 自分にはヒルデガルドという名前があるのだから!!」
「はぁっ!?」
どう言うことだ? 王花がヒルデガルド!? ……いや、なんとなく嫌な予感はしてたし、状況的に見ても疑いようはないんだけど、それでもやっぱり信じられない。
「うそ……だよな?」
「この状態でこんな嘘をつくとでも?」
そう言うと、王花――ヒルデガルドは語気を強めながらギリギリと上から抑えつけていた巨大な手裏剣で今度は横から切り付けてくる。
「――ッ!!」
なんとか愛刀で受け止めるも、あまりの力に軽々と投げ飛ばされて、長机に激突する。
「ってーな……」
「ふん。耐えたか。やはり――」
「は? 今なんて言った?」
「気にするな。ただの独り言だ」
言葉を交わしながら、ヒルデガルドは手裏剣の丸くなっている柄の部分についているレバーを半回転させる。
すると、丸い柄から出ている3本の刃は一直線に並び、まるで剣のようなその姿は、明らかに命を刈り取る形をしていた。
「そんなに信じられなければ、名乗ってやろう。自分が貴様と同じ“三魔王”の1柱。『主恩』のヒルデガルドだ……ほら、名乗ってやったぞ」
どこまでもやる気のなさそうな名乗りを受けても、まだ王花=ヒルデガルトだと信じきれない俺は、よろめきながらも立ち上がって、さっきまで仲間だった男を睨みつける。
風貌はさっきまでと一切変わってはいないが、王花だった頃の柔らかい雰囲気は無くなり、その蒼い瞳からは感情が消え失せて、貼り付けたような冷たい微笑を浮かべている。
……まるで別人みたいだな。ってか、こいつ本当にさっきまで話してた王花と同一人物なのか?
「まさか、乗っ取られてる……とか?」
「どこまでも甘いことだな。いや、裏切られたことが受け入れられないのか」
「でも、喋り方とか――」
「くどい! 今までの方が演技で、こちらが素だ。どうだ? これで満足か?」
ヒルデガルトはそこまで言い終えると、もう話は終わりだと言わんばかりに、距離を詰めて切り掛かってくる。
くっそ! 一撃が重いな!! それに、この手数だと『流』で受け流すにしても限界がある。
かと言って、まともに受けるのは身長差的にもきつい。
「ずっと騙してたのかよ!!」
「あぁ、その通りだ!! だったらどうする? 裏切り者は殺すか!?」
「ふざっけんな!! 誰がそんなこと!」
そんな応酬を繰り返しながらも、打ち合いはさらに激しく加速していく。
なんで! なんでだ! なんでずっと味方のふりをしてた? なんでこのタイミングで正体を明かした?
何もかも全然わかんないけど、考えてる余裕がねぇ!
「なんで裏切ったんだよ……」
叫びすぎて掠れてしまった俺の声も、ヒルデガルドには届かない。
凶悪な笑みを浮かべて残酷な言葉を紡ぎ、更に俺の心を抉ってくる。
「知りたければ、自分を倒すんだな。そうすれば、教えてやるかもしれんぞ?」
そこまで言い終えると、ヒルデガルドは止めていた攻撃を再開させる。話する気はないってか。
倒せば教えてやるって……ヒルデガルドを、王花を倒すって、んなこと――
「できるわけねぇだろ!!」
「ならば死ね!!」
お互いの意思の代弁となる打ち合いは、さらに速く、激しくなっていく。
このままじゃ拉致が開かないな。
「くっ……『雷斬り』!!」
一旦、剣を峰に持ち替えて魔力を込め、手加減しつつも1番隙の少ない『雷斬り』をぶっ放す。致命傷にはならないだろうけど、ゼロ距離だからそこそこダメージが入ってると思いたいが……
「どうした?こんなものでは自分は殺せんぞ?」
俺の期待は、ヒルデガルドの煽り顔によって、ものの見事に打ち砕かれる。
マジかよ。傷一つないってか。手加減したとはいえ、戦闘不能にするつもりで打ったから、そこそこの威力はあったはずなんだけどな。
「そりゃ、そんなつもりなんてないからな! こうなりゃ、お前を動けなくしてから、洗いざらい吐いてもらうぞ!!」
「やれるものならやってみろ! 大和真宗!!」
ヒルデガルドの太刀筋は、重く、正確無比だ。少しのブレも減速もなく叩きつけられる剣撃は、受け流すので精一杯で、まともに受け止めるのはまず無理だ、確実に押し負ける。
唯一救い所があるとすれば、相手が魔術や魔法の類を使ってこないってことだ。魔術のひとつでも撃たれたら、即刻負けが確定する。
「『光々刺突』!!」
ゼロ距離『雷斬り』で無傷だったんだ。『光々刺突』でも多分致命傷にはならないだろ。
「今、何か掠ったか?」
「うっそだろ!?」
ヒルデガルドのありきたりすぎる煽りが告げたのは、『一切攻撃が通じていない』という衝撃的な事実だった。
ちょっと待て、今のは全然手加減なんてしてないんだけど!?
あっ、やばい。動揺したせいで受け流せなかった!
くっそ、めっちゃ重い!! 意識外からの攻撃で、こんだけ一撃が重いと、体勢を崩すのは必至なわけで……って、これマジでピンチじゃない?
そんなことを考えている間に、王花の手裏剣が目の前へと差し迫り、死んだと思った矢先、虹色に光る眩い光の弾丸がヒルガルドを目掛けて押し寄せてくる。
こんなことができるのは、1人しかいない。期待を込めて弾丸が飛んできた方向を見ると、予想通り見覚えのある顔が立っていた。
「大丈夫!? 真宗くん!!」
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To be continued
どもども!雅敏一世でございまする。
いや〜、今回はわりと危なげなく間に合ってよかったですよ〜
さてさて、今回のお話ですが、とうとう始まった東共奪還をかけた決戦!魔王VS魔王!という、胸熱展開でございます!はてさてこの先どうなることやら……
東共奪還作戦編クライマックス。どうぞお楽しみください♪
ではでは、また会いましょ〜♪




