新章61 ワンダーランドの真相
NO.77ワンダーランドの真相
「ったく、無理矢理頭文字繋げてたせいでキャラ崩壊しかけたじゃねぇか」
「いや、元々あんなものだったわよ」
愚痴をこぼしながら『もう疲れた』と言わんばかりにへたり込むリズに、ぬいぐるみから抜け出したイナがツッコミを入れる。
「つか、お前そんなサクッと出てこれるんなら、あいつを倒さなくても出てこれたんじゃねぇの?」
「できてたら、最初からしてたわよ。今やっとでられたの」
既にいつもの調子に戻ったイナとリズを他所に、先程デスピナとプロテウスをまとめて消し飛ばした魔法は、黒煙を上げながら燃え続けている。
「んじゃ、そろそろ戻――」
その瞬間、黒煙の中から一体のぬいぐるみが凄まじい勢いで飛び出してくる。
「まだ残ってやがったか! ……やっべ!!」
立ち上がり迎撃しようとしたリズだが、引き抜いた瞬間に手が滑って剣を投げ飛ばしてしまう。それも、ぬいぐるみとは真逆にいたルナの方へ。
受け止めようとしたルナは、体に対して重すぎる剣に持っていかれ、体重を崩して前に倒れ込む。
「…………あ」
間抜けな声とは裏腹に、目の前で繰り広げられた光景は、信じがたいものだった。倒れ込むルナ。そして、剣の切っ先は石にぶつかり、無抵抗なルナの腕を引っ張り上げながら跳ね返る。
……ぬいぐるみともども巻き込みながら。
「っと、あぶねぇ」
勢いそのままに、後向きに倒れ込みそうになったルナを、すんでの所でリズが受け止める。
「マジかよ。お前」
リズと、駆けつけてきたイナにドヤ顔でグッドサインを送るルナに2人とも苦笑するしかない。
「すごいわよ、ルナ!! さすが私の妹ね!」
訂正。イナだけは本人にも劣らず誇らしげだ。
「あっはははは!! 見たかしらん☆プロテウスちゃん! あたくしたち、してやられたわよん!!」
「わかってる……わかってるから黙れ。頭に響く」
そんな間の抜けたやりとりも束の間、黒煙が晴れてデスピナとプロテウスがのっそりと起き上がる。
「てめぇら、まだ生きてやがっ――」
「ストップ! ストォーップ!! もう戦うつもりも、理由もないわよん!」
「あ?」
まだ信用ならないと睨みつけるリズに、プロテウスが必死で手を振って弁解する。
「向こうの試練もちょうど終わったみたいだし、時間稼ぎしなくても良くなったのよん♪だから剣をしまって!!」
「…………わかったよ」
まだ疑いの目を向けつつも、向こうに戦う意思がない以上、続けても無意味だと悟り、大人しく剣をしまう。
そのことはちゃんとわかっているのか、イナルナを反対はしない。
そんなこんなで休戦――
♦︎♦︎♦︎
「は? 最初のあれ、お前らだったのか?」
デスピナ曰く、この中央政府はデスピナのスキル『ワンダーランド』の支配下にあり、外観、設備、中にいる人々まである程度好き勝手にできるらしい。
最初の落とし穴も、謎にテンションの高いアナウンスも、全部2人のせいだったとのことだ。
今ではスキルは解除されて、元の会議室に戻っている。
そして、長机にイナ、ルナ、リズ。対面の机にデスピナとプロテウスが並んで座っている形だ。
「そうよん☆落とし穴作ったのがあたくしで、アナウンスはプロテウスちゃんが担当したのよん♪」
「うっそだろ……」
さっきまで戦っていたとは思えないほど緩んだ空気の中、突如投下された爆弾発言……もとい衝撃の事実に、思わずプロテウスを見つめて驚愕するリズ。
そんなリズに対して、プロテウスは無表情のまま顔の前でピースサインを作る。
「んで? お前らは結局何が目的だったんだよ」
「だーかーらー、時間稼ぎだって何度も言ってるでしょう? それもこれも、大和真宗が弱っちかったのが悪いのよん♪」
「マジのマジで何の話だかわかんねぇよ。いい加減勿体ぶるのはやめろ」
痺れを切らし、口調を強めて催促するリズに、デスピナは唇を尖らせて不服そうに応じる。
「ガルド様から命じられたのよん☆大和真宗を鍛えたいから時間が欲しいってねん♪」
「そこがわからねぇんだよ。なんでヒルデガルドが真宗を鍛える必要があんだ?自分が不利になるだけだろ。つか、肝心のヒルデガルドは今どこにいるんだよ」
「あら、あんたたち、まさか気づいてなかったのん?ガルド様は――」
リズの質問攻めに、デスピナは意外そうに目を瞬かせて答える。
その発言からリズが受けた衝撃は、先程アナウンスの正体がプロテウスだったと聞かされた時とは比べ物にならない。
イナはおろか、普段表情をほとんど変えることのないルナ
ですら顔を青ざめさせて絶句している。
「頼むから、無事でいてくれよ……」
全てを聞き終えたリズの憂いは虚しく、今まさに戦闘が始まろうとしていた。
♦︎♦︎♦︎
「なぁ、王花。セリカってどこに行ったんだ?何も言わずに行っちゃったけど」
「え? お花を摘みに行くっておっしゃってませんでした?」
「マジ? 全然聞こえなかった」
俺も歳かなぁ……とか冗談言ってられるくらいには余裕があるから、まだ大丈夫。ヒルデガルドがいるとこまで近くなってきたからって、全然緊張なんてしてないし。
「っと、もう着いちまったか」
のんびり与太話をしながら歩いていると、明らかに周囲から浮いている扉の前にたどり着く。
見ればわかる。ボス戦の匂いがプンプンするやつだ。
「そうみたいですね……どうします?」
「どうするって言われてもな」
セリカに関しては、なんとなくお互いに居場所がわかるから迷う心配はない。正直、さっさと終わらせるのであればセリカを待たずに強行突入するのが最善なんだろうけど……
個人的にはセリカを待ってから万全の状態で行きたい。でも、なんとなくセリカに頼りっきりってのも気が引けるんだよなぁ。
「しゃーない。ちょこーっとだけ様子見て、無理そうならセリカの所にダッシュって方針で」
「ははは……真宗様らしい作戦ですね」
「おい、それどういう意味だよ」
顔逸らしやがった。こいつもだんだん遠慮がなくなってきたな。まぁ、それだけ信頼してくれてるってことなんだろうけどさ。
「……えぇい! たのもー!!」
意味不明な掛け声と共に、豪壮な飾り付けが施された扉を勢いよく押し開ける。
その瞬間、先程まで草原の上にポツンと立っていたせいで違和感満載だった扉が、背景が元の建物に戻ったことで背景へと溶け込んでいく。
そして、その先にはヒルデガルドが待ち構えて――いなかった。
「あれ?ヒルデガルドらしきやつなんて居なくね?そもそも人っ子一人いない気が……」
きょろきょろと、部屋の中をひとしきり見回してみるも、それらしき影は一切見当たらない。
「いますよ。ヒルデガルドは」
「えっ? どこに――」
「ここですよ」
意味深な発言に振り返ると、そこでは先程までとなんら変わらない微笑を浮かべた王花が、自分の獲物を振り翳しているのが目の端に見え、今まさに振り下ろそうとしていた。
やっべ。俺死んだかも……
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To be continued
まーに合いましたぁー!いやぁー、ギリギリでしたなぁ〜。あ、ども雅敏一世です。
今回ですが、正直1番書きたかったとこをかけて作者としては大満足ですが、リズ編を三人称にしたせいで真宗の方に違和感ができてしまったのは本当に申し訳ない。作者の実力不足です……
次回ははてさてどうなってしまうのか!
それでは、また会いましょ〜♪次回もお楽しみに!!




