新章60 分の悪い賭け
今回のお話は、一応縦読み推奨です。
NO.76分の悪い賭け
中央政府の最上階にて、状況は混沌を極めていた。
「何があってそうなったんだよ!!」
「わ、私だってわからないわよ!!」
敵地とは思えないほど呑気に問答を繰り返すリズとカエル――もといイナ。
「女の子だからねん☆可愛いカエルちゃんしてあげたわよん♪」
そして、喋り方に似合わずイカつい決めポーズをとるデスピナと、我関せずでぼーっとしているルナとプロテウス。
おそらく、この場を見て1発で戦闘中だと言い当てられるのは、同じ草薙小隊である真宗とセリカを除いてほぼいないだろう。
「じゃあ、なんでこんなにリアルなのよ!! テカテカして気持ち悪いんだけど!!」
「あら気に入ってもらえなかったのは残念だわねん☆まっ、別に見た目はどうでもいいのよん♪本来の目的は……こっちだからねん!!」
「わ、わわ!!」
デスピナの掛け声と同時に、イナの体が宙に浮き上がり、
リズに向かって突進していく。
ただ、速度だけで見ればかなりの脅威ではあるが、動きが直線的なため、いとも簡単に避けられてしまう。
「“ふ”ざけてんじゃねぇぞ、イナ!」
「おふざけで空は飛べないわよ!?」
「“る”せぇな……ただの冗談だ。けど、案外面白いな」
「ふざけてるのはそっちじゃないの!!」
(さてと、なんでこいつだけぬいぐるみになった?なんで俺らはぬいぐるみされねぇんだ?)
距離……は、イナが居たのはリズよりも後ろなため、関係ないだろう。それに加え、イナとルナに他の相違点は見当たらない。
となると他に考えられるのは――
「そういや、お前ら魔力最大値は?」
「…………10万くらい」
「平均くらいよ!悪かったわね!!」
なるほど。おそらくはこの差だろう。正直、一般人なはずのルナがなんでこんなに高いのかは意味が分からないが、これでイナだけがぬいぐるみにされた原因は分かった。
「けど、基本的に自分以外に影響するスキルって、触れねぇと発動できないはずなんだけどな……」
以前、父親に教えてもらった鉄則。自分以外に影響するスキルは、体のどこか、もしくはスキル毎に定められている影響範囲内にしか効果がないのだ。
「ん効果範囲?……って、まさか!!」
「あら、自分で辿り着くなんてなかなかやるわねん☆そうよ、あたくしのスキル、『ワンダーランド』の効果範囲はこの中央政府全てよん♪」
真相にたどり着いたリズに、デスピナが懇切丁寧に説明してくれる。その間、操作を失って暴走したロケランの弾のように飛び回っているイナは、当たり前のように放置だ。
「あぁもう、鬱陶しいなお前!!」
「あっ、切らない方がいいわよん☆中身の女の子ごと真っ二つにしたくないならねん♪」
「はぁ!?」
イナの顔は体のど真ん中、胸の少し下あたりについているため、そこから上なら大丈夫だと思い、迎撃体勢をとっていたリズだったが、デスピナの爆弾発言で動きを止めた。
そして、恐ろしい想像が頭をよぎる。もし、今まで倒してきたぬいぐるみたちが、イナと同様にもとは人間だったら?
そんな想像に若干血の気が引くも、平然を装いつつデスピナを睨みつける。
「――? あぁ、安心してちょうだい☆他の子たちは、切られたら元に戻るからねん♪その子が特別性なだけよん♪」
「そうかよ。ご丁寧に解説ありがとな……ついでにこのぬいぐるみどもも、止めてくれるとありがてぇんだけど!!」
「んーん☆それは無理ねん♪せいぜい、『試練』が早く終わるのを祈りなさいな♪」
そうして、問答は終わりだと言わんばかりに、デスピナが手を振り上げると、再び大量のぬいぐるみが襲いかかってくる。
「“ふ”ざっけんな!! 『試練』って、なんのことだよ!!」
「それは後でのお楽しみよん☆あたくしに勝ったら教えたげるわん♪」
「ちっ――!」
一体一体は大したことないものの、あまりの質量で押し寄せてくるぬいぐるみたちを前に、流石に押され始めるリズ。
そして、目の端に取り逃がした一体が映る。そいつは、ボーっと虚空を見つめていたルナ方へと向かっていて――
「…………あ、ありがと」
「“礼”はいい。最初に言っただろ。守ってやるって」
ぬいぐるみがルナに殴りかかる直前、間一髪で間に合い、そのまま切り捨てる。
「…………ん」
「ちょっと!? あたしの時と対応が違い過ぎない!?」
ルナの頭にポンポンと手を置くと、あまりの対応の違いにイナが憤慨して叫ぶ。
「“イ”ナも安心しろ。一応は気にかけてっから」
そんなイナにも、悪戯っぽく笑いかけると、気を取り直してデスピナを睨みつける。
「さて、時間稼ぎもそろそろ終わりかしらねん♪あっちももう決着がつきそうだし……」
「あ?なんつった?」
「なんでもないわん☆あんたがいい男って話よん♪」
「“ム”カつくなぁ、お前。マジのマジでよぉ」
悪態をつきつつも、先程まで険しかった顔はしたら顔で綻び、口元は緩く歪んでいる。
「ったくよぉ、分の悪い賭けだったけど、案外うまくいくもんだな」
瞬間、リズの手元に魔力が集約されていき、拳大の火の玉が出来上がる。
「――ッ!!」
慌ててデスピナがスキルを発動して掻き消そうとするも、既に完成されてしまったそれは消えることなく燃え盛っている。
「いくらお前のスキルが、限定的とは言え反則級でも、組み終わった魔法までかき消せねぇだろ!!」
「い、いつ詠唱なんて済ませたのかしら……?」
「縦読み詠唱だったか? 親父がイカサマをもみ消す時に使ってたテクニックだ。本来なら、無詠唱が使えたらよかったんだが」
信じられないと言った顔をしているデスピナに、これまで事細かく説明してくれていたお返しにと、今度はリズ側が種明かしをする。
ただし、その顔は渾身のドヤ顔で固定されており、そこに親切心など微塵もない。
しかし、『クズだなぁ』などと思いながら見ていた父親の裏技を、自分を使う羽目になったことに内心げんなりもしている。
まぁ、そんなことを言ってられる状況ではないので、大して気にしていないが。
「途切れ途切れで詠唱してたから不安だったが、うまくいってくれて助かったぜ――『フルフレイム』!!」
集約された魔力は、圧倒的なまでの熱量と暴力を伴って、揺れる草原を焼き尽くしながらデスピナへと一直線に進んでいく。
「まぁ、なんだ。なかなか面倒だったぜ」
リズの全く慰めになっていない慰めを持って、この珍妙な戦いに、一旦は幕が下ろされたのだった。
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To be continued
間に合いーましたー!どもども!毎週投稿二週目にしてサボった意思弱々ブロッコリー、雅敏一世です!!
さて、そろそろリズ側のお話も終わり、最終決戦へと動いていきます!久しぶりの真宗の戦闘描写…腕がなりますねぇ!!
おっと、これ以上は余計なことを喋りそうなので、この辺りで作者は失礼!また会いましょ〜♪




