新章39 『嫉妬』の相談事
NO.55『嫉妬』の相談事
「へー。そっか。麗奈さん勇者だったのか」
「あれ!? いきなり反応がドライじゃない!?」
「そんなこと言われてもな……」
ここまで、色々衝撃展開がありすぎて、正直言ってもう既にちょっとやそっとじゃ驚かない領域まできてるんだよな。
いや、さっきは一応形だけ驚いてみたけどさ。
「今さら、実は勇者だったー。とか言われても、『ふーん』としか思わねえよ。ここの雰囲気の異様さで、なんかあるだろうなとは察しがついてたし」
「そ、そんなぁ」
そんな俺の感想に反して、本人は結構自信があったらしく、ショックを受けて項垂れている。
「ま、まぁまぁ。ってか、なんで俺が魔王だって知ってたんだ?」
場を取り直そうと話題を変えると、麗奈はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに、胸を張ってドヤ顔を決めている。
本当に忙しい人だな。落ち込んだり、突然元気になったり。
「なんでも知ってるよ。君の生まれた日付も、場所も好きなものも嫌いなものも。これまでの人生で何をしてきて、何を見てきたのか。全部、ね。ここはそのための場所だから……」
「俺のストーカーをする場所?」
「ちゃ、ちゃうわい!! なんてこと言うのさ!!」
流石に違ったらしい。よかった。本当だったらどうしようかと思った。
「ちぇっ。せっかく人がカッコつけてたってのにさ。ここは、世界の全てが知れる場所。世界中のありとあらゆる情報が、ここには本として揃ってるんだよ」
麗奈さんは舌打ちをし、唇を尖らせながらも、律儀に質問に答えてくれた。
「それって、まさかこの本全部が……?」
「そーゆーこと。まっ、別に変なところはないから、好きなだけゆっくりしていってよ」
そう言ってウインクする姿からは、「せっかくきたんだから暇潰し相手になれ」という意志が伝わってくる。
なんか、この感じ懐かしいな。ヴェストに会った時も、置いてかないでくれって駄々こねられたっけ。
しょーがない。少しだけ付き合ってやるか。
♦︎♦︎♦︎
数分後……
「なーるほどねぇ。それでそのあとどうなったのさ!?」
「そのあと? その後はな――」
特にすることもなく、暇を持て余した俺は、紅茶をもらったお礼にと、里を出てからの出来事を、麗奈さんに語って聞かせていたところだった。
「いやぁ! 外の世界ってのはすごいんだねぇ!! ボク、ここに篭りっきりだから、情報として知ることはできても、実際に見たり聞いたりはできないんだよね……憧れるなぁ」
あぁ、だから俺の話に興味深々だったのか。
「なら、何でここにいるんだ? 口ぶりからして、好きでいるわけじゃないんだろ?」
「そう……だね。でも、ボクはここから出られないから」
悲しそうに呟く麗奈さんからは、先ほどまでのふざけた雰囲気は感じられず、眼鏡のせいで分からないが、いつになく辛そうな顔をしていたと思う。
「でも、出たいんだろ?」
「いずれはね」
「んじゃ、俺にできることがあったらなんでも言ってくれよ。協力するからさ」
「えっ?」
俺にとっては何気ないひと言だったが、麗奈さんから見れば意外だったらしく、素っ頓狂な声をあげている。
「俺は麗奈さんに、匿ってもらったって借りがあるわけだ。なら、借りは返すのが筋ってもんだろ?」
「で、でも――」
「いいんだよ。俺がやりたくて言ってるんだから」
遠慮しようとする言葉を遮り、ウインクをかえすと、麗奈さんは一瞬、信じられないものを見たような顔をしたが、すぐに先ほどまでの調子で微笑んだ。
「ふふっ。そんなこと言われたのは初めてだよ。真宗くん、ありがとうね」
そう言って眼鏡を外し、笑いかけてくれる麗奈さんの笑顔は、俺の選択は間違っていなかったのだと実感させるには十分すぎるほど眩しかった。
「さてと、もう結構時間経ったし、そろそろ帰るよ。あいつらも心配するだろうし」
「そっか。気をつけて帰るんだよ」
「んなガキじゃないんだから……」
そんなくだらないやりとりをしながら、椅子から降りてドアに手をかける。
っと、お礼を言うの忘れてた。
「あっ、紅茶とクッキーごちそうさま!すごい美味しかった! ……それじゃ、また来るよ」
「うん。いつでもおいで。大体暇してるから」
手を振りながら茶化す麗奈さんを背に、入ってきた時と同じ手順でドアノブを回し、扉を開ける。
「今度こそ、外で会えるといいね。真宗くん……」
意味深にそうこぼす麗奈さんの声は、ドアが閉まる音に隠れて、俺に届くことはなかった。
さてと、どうやって帰ろうかな。
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To be continued
どもども、この度9000pvを達成した者、雅敏一世です!
皆さん本当にありがとうございます♪
さて、今回で麗奈のお話は終了となりますが、勇者関連の話はもう少しだけ続きます。
ではでは、今回はこの辺りで失礼します。
また会いましょー♪




