新章104 救世主
NO.120救世主
作業開始から3日が経った頃、状況はまさに最悪だった。こんなの終わるわけがない。今日で作業時間は半分だっていうのに、まだ工程としては10%いくかどうかってところだ。
まぁ、この人数でこの規模の工事だ。初めから分かっていたこと……分かっていたとて、悔しいものは悔しいな。このままじゃ、メインの飛行制御部分への着手なんてとてもじゃないけどできない。
幸い、たまに様子を見にきてくれる勇者やその部下たちが手伝ってくれたおかげで外枠はほぼ完成してる。
けど、逆を言えば外装だけだ。内装はおろか飛行船の“飛行”に関わる部分に全くと言っていいほど手をつけられていない。
「こりゃもう、飛行制御は諦めてハウジングとして提出するしかないか」
まぁ、別に1週間以内に間に合わなかったところで、これまでの作業が無駄になるわけじゃないんだ。建国祭が終わった後でも、飛行船の作成はできる。
中途半端になるくらいなら、区切りのいいところで提出するべきなんじゃないか?
「やっ、皆んなしんどそうだねぇ」
そんな考えが脳裏をよぎった時、効き慣れた軽薄な声が遠くから聞こえる。
「ギルマス。今本当にしんどいんで、冷やかしなら勘弁ですよ」
「失礼な、冷やかしな訳ないだろ? 難航してるって勇者の子達から聞いてさ。僕も暇ができたから手伝おうと思って。救世主の登場ってわけさ」
「それ自分で言います? まぁ、いいや手伝ってくれるならあそこから――」
「セリカー!! なんかルナのペンキがグツグツなってるんだけどー!!」
「どうしたの? イナちゃん……ってなにこれ!? ルナちゃん何混ぜたの!? ま、真宗くん! ちょっと来て!!」
ギルマスにやって欲しい作業を説明しようと思ったのに……あいつら何やってんだ。
「待ってろ! 今行く! すみませんギルマス、作業についてはリズかルティスから聞いてください」
「はいよぉ」
「真宗ぇぇぇえ!!! ペンキが! ペンキがぁ!!
なんか光って……ああぁぁぁぁぁああぁあ!!!!!」
イナの悲鳴と共に、声の方角から爆発音が。爆発と同時に放たれた光が収まる頃、やっと思い出辿り着くと、そこにはひっくり返って白目を剥いたイナが居た。
「大丈夫か!?」
「う、うん。なんとか相殺が間に合ったから大丈夫だよ。イナちゃんもびっくりして倒れちゃっただけ」
「よかった……にしても、何があったんだよ。爆発するようなもの置いてなかっただろ」
流石に、イナとルナに危険な作業はさせられない。だから壁の色塗りをしてもらってたのに、何をどうしたらペンキが爆発するんだよ。
「……アサルト・ビックバン・カブトムシ」
ルナがポツリと呟く。
「なんだその物騒な名前のカブト虫は」
「……これ」
そう言って掲げるルナの手には、いかにも暴発寸前と言わんばかりに膨れ上がり、赤く発光するカブト虫。
「ちょ、まっ――」
火薬も何もない現場で、本日2度目の爆発事故。セリカが守ってくれたおかげで被害は最小限だったものの、用意していたペンキは跡形もなく消し飛んだ。
「変なもの見つけたらすぐペッてしなさい!」
「……はい」
そんな意味の分からない説教をしつつ、イナを一応医務室まで運ぶ。倒れた時に頭打ってたりするかもしれないしな。
「シーシャ居るか?」
「あら、お嬢の旦那とちびっ子じゃない。どうかしたの?」
医務室に着くと、目の下にクマを浮かべ、普段よりやつれて見えるシーシャが机に頬杖をつきながら待っていた。
「ペンキが爆発した。あと、まだ旦那じゃない」
説明を受けて、頭の上にハテナが浮かんでいそうな顔をするシーシャだったが、正直俺も何が起きたかよく分かっていないのでこれ以上説明のしようがない。
「って、爆発事故? 一大事じゃないの」
「あぁ、爆破事故って言っても小規模だし、セリカのおかげで怪我人も出てないから大丈夫。ただ、こいつが驚いて倒れたから、どこかぶつけてないか診てほしくてさ」
「なんだそういうことね。じゃあ、そっちに寝かせてちょうだい」
イナをベッドの上に寝かせると、シーシャは慣れた手つきで触診をしていく。そうして、しばらく頭を診察した後、安心したような顔でうなづく。
「どこも異常は無いみたいね。ただ驚いて気絶してるだけよ」
「よかったぁ。けど一応、しばらくここで安静にさせててもいいか?」
とりあえずはなんともないみたいだけど、凄い勢いでひっくり返ってたから一応な。これでイナに何かあったら、ルナも責任感じちゃうだろうし。
「別にいいわよ。ベッドは空いてるし」
「ありがとな。じゃあ任せた」
「はーい。ちびっ子は責任持って預かっておくから、さっさと作業に戻りなさいな。ヒュートから聞いたわよ。難航してるんでしょう?」
「あぁ、正直終わる気がしねぇ」
弱気な発言に苦笑するシーシャ。シーシャもちょこちょこ手伝ってくれてたから、終わるはずがないってことは分かっているんだろう。
「けど、やれるだけやってみるよ」
そう言い残し、イナをシーシャに預けて医務室を後にする。
その後作業場に戻って、ひとつ気づいたことがある。
「なんかめっちゃ進んでね?」
俺が医務室に行く前よりも、明らかに作業が進んでいるのだ。時間が経ってるから進んでるのは当たり前だろって? いや、そういうことじゃないんだよ。
ここ3日間、この飛行船を作り続けてきたからわかる。これは数十分の進行度じゃない。早すぎると言って差し支えないほどに、目に見えてタスクが片付いている。
これなら、もしかしたら――
「言ったでしょ? 救世主の登場だって」
もしかしたら、間に合うかもしれない。その屈託のない笑顔には、そう思わせるだけの頼もしさがあった。
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To be continued
どもども、久しぶりに久しぶりじゃない雅敏一世です!
さて、建国祭もそろそろ大詰め、後2〜3話ほどで終えて次のお話に行く予定……なんですけど、まぁ毎度の如く伸びるでしょうね。もはや自分で自分が信用できなくなってきた悲しき作者でございます。
と、言うわけで変な区切りですが今回はこの辺りで失礼。
また会いましょ〜♪




