新章98 専属契約
NO.114専属契約
「頼むギルマス! そこをなんとか!」
「うーん、こればっかりは規則だからどうしようもないよ。僕としてはなんとかしてあげたいんだけどねぇ」
ギルド本部にある一室、クラスの執務室で、俺とリズは深々と頭を下げていた。
任務を終え、ギルドまで戻って来た俺たちは、ひとまずルティスは俺の部屋で、4兄弟はリズの部屋で寝かしつけた。その後、ギルマスにとあるお願いをするため、ここへと足を運んだわけだ。
そのお願いとは、ルティスをギルドに入隊させてほしいというものだ。
これは、ルティスたったの願いでもある。なんでも、
『やっぱり、ただ養ってもらうのは気が引けますよ。少しでいいから役に立ちたいんです!』
らしい。そんなこと気にする必要ないってリズと散々説得したんだけど、結局聞く耳は持ってもらえなかった。
「ごめんね。年齢制限もあるし、何より入隊試験をすっ飛ばす訳にはいかないんだ。うちの信用に関わることだからさ」
やっぱそうかぁ。だよな。もしかしたら、特例で許可してくれるんじゃないかって思ったけど、そういう問題じゃないらしい。
「よっこら小吉っと。うぃーす、ギルマス」
その時、場の空気にそぐわない間の抜けた声が、同じくらい気だるげな足音と共に部屋に入ってくる。
「って、ヒュートじゃん。もう体調は大丈夫なのか?」
「おー、兄貴と、ついでに赤毛じゃねぇか。奇遇だな。体は……まぁ、ぼちぼちってとこ」
帰りの馬車は大変だったからな。あれをまだ引きずってたら流石に気の毒だ。
というのも、ヒュートは魔力的に無理をすると、極端に体がガッタガタになるらしい。
俺が初めて話した時、ぶつかっただけで血を吐いてたのはそのせいだ。
「なについで呼ばわりしてくれてんだクソ勇者。つーか、赤毛言うな」
「堅いこというなよ。一緒に任務をこなした仲だろ?」
笑いながら近づいてきたヒュートが俺とリズの頭をわしゃわしゃと撫で回す。
「おい、マジのマジでやめろ。ハゲんだろうが」
「この程度でハゲやしねーよ」
俺はされるがままだけど、リズは不服だったらしく、なんとか引き剥がそうと抵抗している。
まぁ、そのまま押さえ込まれてるけど。
「俺たちまだもう少しかかりそうだけど、大丈夫か?」
「おー、急いでねーから、別に大丈夫だ」
もう撫でるのに満足したのか、ヒュートは俺の隣へとどっかり腰を落とす。
「兄貴たちはルティスの件か?」
「そう、どうにか隊員として認めてもらえないかギルマスに頼んでみたんだけど――」
「ダメだったと」
ヒュートの言葉を受け、ギルマスが気まずそうに頷く。なんか、だんだん申し訳なくなってきたし、やっぱりルティスには諦めてもらうしか――
「なぁ、正式入隊は無理でも、アレならいけるんじゃねーの?」
「アレ?」
「なんだアレって」
ヒュートの提案に、いまいちピンとこない俺とリズが首を傾げていると、ギルマスが『バンッ』と机を叩いて立ち上がる。
「それだ!」
「「だからどれだよ」」
♦︎♦︎♦︎
翌日、再びギルマスに呼ばれた俺たちは、執務室に来ていた。
それはいいのだが、昨日部屋に戻って以来、セリカがくっついて離れてくれない。
どうやら、任務で数日空けることを、ギルマスがあえて伏せていたらしい。その反動か、いつもよりもスキンシップが多めだったのだが、少し経った時には離してくれなくなってしまった。
「あのー、セリカさん? そろそろ離して――」
「ダメ」
そうですか。「嫌」じゃなくて「ダメ」ですか。じゃあしょうがないな。
「真宗くん成分を補給してるの。まだしばらくはこうしてないと、ダメ」
なんか、ヤバいフェロモンか何か出てるのかな俺。
そんなことを思いつつ、俺の頭に顎を乗せているセリカの頭を撫でてみる。
「んっ……」
ヤメロ。変な声出すな。
まったく、幸せそうな顔でゴロゴロ言いやがって。猫かよ。
「ってか、こんなんで俺と出会う前どうしてたんだよ」
「うーん、会う前と後に関係なく、真宗くんのことが絡まなければ優秀な子なんだけどねぇ」
「俺は呪いの装備か何かですか」
ギルマスの言うとおりだとしたら、なんでこんな残念系美少女になってしまったのか。
「おい、ルティス連れてきたぞ」
3人で和気藹々と話している中、ドアを開けて入ってきたのは、リズと、珍しく塩らしい態度のルティスだ。
「あれ? イナとルナは?」
「ルナを起こしてる」
なるほど。いつも通りか。
「ってか、どうしたんだよ。ルティス。緊張してんのか?」
「そりゃするでしょうよ! 僕の今後が決まるんですよ!?」
「大袈裟だなぁ」
なんでそんなに働きたいんだか。俺がルティスくらいの頃なんかスイカ穿って鼻くそ食べてたぞ……いや逆か。
まぁ、罪滅ぼしって今もあるんだろうけども。従うしかなかったとはいえ、結構酷いこともしてきてたみたいだし。
とはいえ、そんなに焦ることもないと思うけど。
「まぁ、とりあえず座って座って」
ギルマスが、ドア付近でもじもじしているルティスを手招きする。
「どれにするかはもう決めた?」
「はい、昨日真宗に聞い他時点で決まってました」
「じゃあ、ここの選択肢に丸つけて、名前書いてね」
ルティスに続いてリズも部屋へと入ってきて、順に座る。俺とリズでルティスを挟む形だな。
ちなみに、セリカはさっきまでと同じく、俺の頭の上に体重をかけてもたれかかっている。
「あのー、流石にもうそろそろ――」
「ダメ」
この分だと、今日一日離れてくれそうにないな。
頭の上はともかく、ルティスの方は大丈夫だろうか。
「まさ……リズ。ここの文字なんですけど」
「ん? ここか? 名前を書けって書いてあるだけだ」
「そうでしたか。ありがとうございます」
うんうん。順調に進んでるな。
「って、おい。なんで一瞬迷ってリズの方行った?」
「いやぁ……」
大事な書類を書いてる最中じゃなきゃぶっ飛ばしてたとこだ。
ちなみに、ルティスがさっきから書いているこの書類は、ギルドとの専属支援職契約の同意書だ。
歩合制な為、成果を上げなきゃ給料は貰えないものの、俺たちが寝泊まりしてる隊員寮に入れたりと、隊員と同じ待遇を受けられる。
ギルドの中でも幹部クラスしか知らない、一種の裏技みたいなものだ。俺たちも、絶対に口外しないように口止めされてる。
ただまぁ、あまりにも成果がなかったりすると、最悪契約解除ってことにもなるから、将来性に期待してって面も大きい。
で、いくつかある支援職の中からルティスが選んだのが――
「うん。ちゃんとかけてるね」
ひと通り書類に目を通りたギルマスが、うなづきながら続ける。
「じゃあ、専属技術者として、これからよろしく頼むよ。ルティスくん」
「はいっ!」
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To be continued
どもども!もはや月一投稿になっている雅敏一世です!
さて、今回は間話的な立ち位置のお話しなので、特に語ることも無いんですよね。ただ、留守番中のセリカとイナルナの話はちょっと書きたかったり……(書き上がるかどうかは現場未定です)
てな具合で、今回は失礼いたします。
ではでは、また会いましょ〜♪




