新章94 独白
NO.110独白
「僕は――」
「僕たちは、ルティスお兄ちゃんに着いていきます」
口を開きかけたルティスの言葉を遮り、先に意思表示をしたのは4兄弟の長男だった。
「マル……」
小さく、しかし力強い声に、真宗がゆっくりと頷き、ルティスを見る。さながら「お前は?」と改めて聞くように。
かと言って急かすような気配は感じられない、優しげな目だ。
言われるまでもなく、答えなど分かっている。そんな顔をしている真宗に対して、ルティスが出す答えはひとつだ。
「僕は……僕はやっぱりやめておきます」
そう言って、何でもないように微笑む。
真宗は、裏切られたような顔をするだろうか。せっかく無理を通して、受け入れようとしてくれていたのに。
「ほら、僕たち5人も居ますし、食費やら何やらお金もかかりますので、そんなに迷惑は――」
「ルティス。もういいんだよ。嘘つかなくても」
そう、微笑んだ。つもりだった。実際、普段のルティスなら完璧な演技で騙し切っていただろう。
「嘘だなんて、何を根拠に?」
「あのな、いくら俺が鈍くても、流石にそんな顔してれば気づくっての」
ズキリと心臓が痛む。心音が鼓膜をゆらし、脈打つ音が鮮明に聞こえる。
「けど、そうだよな。お前はずっとそうやって、平気なフリして耐えてきたんだよな。あいつらのために。お前が1番苦しかったはずなのに」
誰よりも苦しかった? 自分が? そんなこと考えたこともなかった。
いつだってルティスの行動原理は弟たちのためだ。
だから、今回の賭けとも言える最終手段が失敗しかけ、弟たちを巻き込みかけたことに絶望した。
けれど結局、それが1番楽だったのだ。抗う理由が自助ではなく他者のためならば、立ち上がるのが楽だった。ただそれだけの話。
「そんなことありませんよ。僕はただ、自分の願いをあの子たちに押し付けていただけですから」
「待て、そんな言い方――」
「黙っててくださいよ! 何も知らないくせに!」
あまりの剣幕に、何かを言いかけていた真宗が押し黙る。
「任務を受けただけ、ちょっと話を聞きかじっただけのあなたに何がわかるっていうんですか!」
溜まっていたものが、幼い身には有り余る汚い感情が、止めどなく溢れてくる。
「何か悪いですか? 別にいいでしょう!? 生きる理由を人に求めたって! 辛いんですよ! 自分のために頑張って報われないのは!」
自分でも最低だと思いつつ、それでも際限なく沸き続ける昏い思いの丈を、感情のままに早口で 捲し立てる。
「だから! ……だから、押し付けたんですよ。『救われたい』って言う自分の思いを、あの子たちに」
そこまで言って我に帰ったのか、いきなり失速し、うつむくルティス。
「助けて……欲しかった。ずっと、辛かった。あの子達だけは逃してあげたくて……でも、ひとりじゃ、何も……出来なくて」
先程まだ言葉として溢れていた感情が、今度は涙の粒となってこぼれ落ちる。
「あぁ、聞いたよ。ずっと頑張ってたんだよな。すげぇよお前は」
俯くルティスの頭に、少し硬くも暖かい感触がある。そして、頭の後ろに手を回されてようやく、自分が抱きしめられていることに気づいた。
「もういいんだよ、ルティス。ひとりで頑張らなくても」
優しく頭を撫でる手の中では、小さくすすり泣く声が聞こえる。多分、もうとっくに限界だったのだろう。
「それでもお前が迷惑だと思うなら、好きな時に出ていけばいい。けど、それまでは少し休め。ゆっくり休んで、また立ち上がれるくらい元気になったら、その時は好きにしたらいい」
「そんなワガママ、迷惑じゃ――」
「いいんだよ。ガキなんだから、そんなこと考えなくても。それに迷惑なんかじゃねぇよ。むしろ、今うちは超人手不足だから、こき使われるのを覚悟しとけよ」
噛み殺すような泣き声がやみ、ふと顔を上げたルティスの顔はすでに晴れていた。
まだ泣き腫らした跡は残っているものの、その表情は年相応の少年らしいものだった。
「ばか。台無しですよ」
「………なんだ、いい顔できるじゃねぇか」
そんなルティスの顔を見て、真宗も顔を綻ばせる。
「じゃあ、改めてもう一回。お前は今後どうしたい?」
「僕は……僕は真宗たちの所に行きたい、です」
後半、照れ臭くなったのか歯切れの悪い返事だが、その声にはしっかりとした意思がこもっていた。
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To be continued
どもども!お待たせいたしました!雅敏一世でございます!
いやぁ、難航しましたねぇ!まさか1ヶ月もかかるとは思ってませんでしたが……
今回の話は特に台詞が重要なので、時間がかかってしまったと言い訳だけしておきます。
さて、そろそろ本当に救出任務編クライマックス!残り2話(予定)お付き合いくださいませ!
ではでは、また会いましょ〜♪




