新章92 呆気ない決着
NO.108呆気ない決着
結果から言おう。圧勝だった。
まぁ、当たり前と言えば当たり前なんだけど。なんせ、こっちは魔王ふたり。対して、向こうはいくら戦闘経験に長けているとはいえ一般人の域を出ないわけだし。
前にバルトと戦った時は、俺が戦い慣れてなかったせいで苦戦したけど、今回は違う。
リズがやけにやる気だったり、俺も何度か任務をこなして強くなってたりで、負ける理由がなかった。
前は雷刃がほぼ手を出さなかったから、実質1対1だったのもあるだろう。
「俺らの勝ちだぜ。ヒル」
「だから、俺は……ヒル、じゃなくて――」
途中まで言いかけて、その場に倒れるヒル……じゃなかったらしい奴。
なんか申し訳なかったな。途中から抵抗する間もなくフルボッコだったし。
だからといって同情する気にもならないようなクズなのは、こいつの自業自得だろうけど。
ただ、こうなると少し面倒だな。俺もリズも現在位置がわからない以上、今この場で分かるのはこいつくらいだ。
「なぁリズ。これどうする?」
「起きるまで待つしかねぇだろ。これしか道知らねぇんだから」
だよなぁ。本当なら縛ってその辺に捨ててやりたい所だけど。
「おら。俺が足縛るから、お前は手ぇ縛れ」
「よっしゃ任せろ」
じゃあ、まずは縄を出して――縄? そんな物どこに? っていうか、持ってきた覚えもない。
「おいリズ」
「あ? どうした」
「俺、手ぶらで来ちゃった」
♦︎♦︎♦︎
「この際だから、正直に言うけどよ。俺はお前を一切信用してなかった」
モルドに案内されて襲撃した、ゾラークの本拠地。
積み上げられた木箱の上に座るヒュートが、気怠げに口を開く。
「本当に正直な物言いだな」
「信用できるような態度とってから言えよ」
「失礼な。こんな誠実さの塊みたいな男捕まえて……で? 何が言いたいわけさ」
「正直、さらに信用できなくなったわ」
余りにもあけすけな物言いに、モルドが何かを言おうとする。が、言葉にする前に何か思うところがあったのか、そのまま気まずそうに口をモゴモゴと動かしている。
なぜヒュートが信用ならないと言ったのか。その理由は辺りを見回せばすぐにわかる。どころか、足元の惨状でも十分だろう。
ふたりの足元には、つい先ほどまでモルドの同僚だった、ゾラークの隊員たちが血まみれになって伏している。
「お前なぁ。仮にも仲間だったんだろ?」
「いやぁ、ここで手柄を立てれば推薦してもらえるんじゃないかと張り切ってしまってなぁ!」
「……ちっ。白々しい」
元同僚達を容赦なくなぶるモルドの目は、猟奇的な狂気に満ちていた。これまで、勇者として幾度となく修羅場を潜ってきたヒュートが若干引くほどに。
「ふふっ、綺麗だからいいじゃないか」
元々「儲かるから」という同期で犯罪組織に属していた男だ。精神性がまともでないことはヒュートも分かっていたつもりだった。
だが、今回に関しては想定が甘かったとしか言いようがない。
足元でピチャピチャと不快な音を立てる液体を、恍惚とした表情で見つめるこの男は、まともどころの騒ぎではなく、もっと悍ましい何かだった。
正直、モルドをギルドに加入させるのは不安だ。
しかし、彼の助けなしではこの状況は作れなかった。そして、この状況が作らなければ、きっとルティスは救えない。
現状から救い出すことは出来るかもしれないが、それはあくまでも身体的な話。単なる現状打破ではルティスの心まで救うことはできないと、初対面ながらヒュートは見抜いていた。
否、それはモルドも同じこと。だからこそ、交渉を持ちかけた。
合法的な殺人。ただそれだけの為に。それがわかっているからこそ、ヒュートも野放しにはできない。結局、手元に置いておくのが1番安全なのだ。
(まぁ、俺の直轄にしていざという時は止めればいいか)
そんな軽い考えを、ヒュートは後々激しく、激しく後悔することとなる。
♦︎♦︎♦︎
「わかった! 分かったから! 言う通りにするし、抵抗もしない! だから、引きずるのをやめ……いだだだだだ!!」
「「却下」」
結局、リズも縄なんて持ってきていなかったため、俺が怒られることはなかった。
ただ、流石に少し可哀想になってきたのがこのおっさんだ。
縛って拘束できないなら、抵抗する気が無くなるまで引きずればいい。
そんな、悪魔みたいなことを思いついてしまったが運の尽き。もはや抵抗する気がなくなってもなお、足首をつかまれて森中引き回しの刑に処されている。
「やめてぇ! 背中! 背中無くなっちゃうからぁぁぁあ!!!」
と、もはや口調が変わってきたところで流石に可哀想になり、足首から襟元に持ち替え、交代で持つことになった。
「そこの木、左です」
戦う前の威勢はどこへやら。すっかり元気がなくなってぐったりしているが、道案内はしっかりしてくれている。どうやら引きずり回されたのがよっぽど堪えたらしい。
「お? あれじゃねぇか?」
「ほんとだ! 見えてきた! おっさんありがとな」
「いえ。あの、もうはなして……」
遠くの方にポツンと現れた見覚えのある小屋に喜ぶのもほどほどに、早足で向かう。
と同時に、急いだことで首が締まったのか、おっさんが「ぐえぇ」と鈍い声をあげて動かなくなった。
けど正直、そんなこと心配している時間はない。おそらく、ルティスは相当精神的に追い詰められてる。 行って、何ができるわけでもないのかもしれないけど、それでもルティスに言ってやりたい。
お前を苦しめた諸悪の根源は倒したって。もう傷つく必要何てないんだって。
だから――
「迎えに来たぜ! ルティス!」
とびっきりの笑顔で、ドアを開け放つのだ。
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To be continued
どもども!皆さんちょいお久しぶりです!雅敏一世でございますよ〜
さて、今回いよいよ点が線となりクライマックスとなってまいりました!それでは引き続き、救出任務編をお楽しみください。
ではでは、また会いましょ〜♪




