新章91 締まらない接敵
NO.107締まらない接敵
「ふと思ったけど、別に連れ出すだけだったらどっちかひとりで十分じゃね?」
「逆に言えば向こうに3人もいらないってことだろ。それに、あれでも勇者だからな。面子があんだろうよ」
そういえばあいつ勇者だったな。完全に忘れてた。
じゃあ心配要らないか。俺らはこっちに集中しよう。
……いや、ちょっと待て。なんかすごく大事なことを忘れてる気がする。
「なぁリズ」
「あ? どうした?」
ひとつ完全に失念していたことを思い出して足を止めると、少し前を走っていたリズも振り向きながら立ち止まる。
「お前、小屋の場所わかる?」
「はぁ? んなの当たり前――あれ? そういや、ここどこだ?」
何も気にせず真っ直ぐ走ってきたはいいものの、そういえば小屋の場所どころか現在位置すらわからない。
それも当然。意識のないまま運ばれ、そこで解散した挙句、場所すら聞いてないんだからわかるはずがない。むしろわかったら怖いくらいだ。
ただ、この場合だと怖くても分かってほしかったな。
なんせ森のど真ん中で絶賛迷子なんだから。
「どーすんだ! カッコつけて『了解!』とか言い残して出てきたのに迷子じゃねぇか!」
「落ち着けっての。別にさっきの洞窟まで戻りゃいいだろうが」
「いや、戻ってところでもう誰もいなくない?」
こうなるともう口論することすらなく、その場で2人して頭を抱えるほかない。まさかこんななんでもないところで詰むとはなぁ。
「おう、にいちゃん達こんなところで何やってんだ?」
なす術なく立ち尽くしていると、不意に後ろから声がかかる。
こんな森の中で誰が? という問いは、振り返った途端に解消されることになる。
「あんたは――」
凶悪な人相に、小太りでスキンヘッド。モルドから聞かされていた情報と完全に一致している。
間違いない。こいつがゾラークのボス、ボス……あれ? 名前なんだっけ? えぇっと、確か
「ヒル?」
「ちげぇよ。俺は――」
「おい真宗! 名前言ったら関係者だってバレるだろうが!!」
しまった! 言われてみればそうじゃん。バレてなければ不意打ちならできたかもしれないのに!
「ふん、もう遅――」
「こんのバカが! 少しは任務中だって自覚待て!」
「そこまで言わなくたっていいじゃんか! 大体、リズだってもう少し早く止めてくれれば良かったのに!」
リズの言うことはごもっともだし、苦しい言い訳なのもわかってるんだよ。けどさ、あんまりな言い方じゃん。
「ちょ、聞けっ――」
「止まる間もなかっただろうが! 大体てめぇはいつも余計な事しやがって。足手まといが!」
「はい超えたー。超えちゃいけない一線超えましたー! おい、そんなに言うならかかってこいよ。抗争だこーそー!」
一度火がついてしまったが最後、その後はすったもんだの大騒ぎ。
何か言いたげに佇んでいるヒル(?)を他所につかみ合いの大喧嘩だ。
「………やぁっかましいわ!!! いい加減しばくぞゴラァ!」
「「きったねぇ!」」
そんな状況に我慢の限界が来たのか、唾を撒き散らしながら怒鳴りつけてくるヒル。唾を避けるため、互いにほっぺから手を離す俺とリズ。
奇しくもこれで1対1プラス除け者の構図が、2対1に戻ったわけだ。
「おい真宗。とりあえず一旦休戦だ」
「あぁ。って、まだ続けるつもりだったのかよ」
どうやら相当不満が溜まっていたらしい。
最近、イナルナが懐いてきたから任せることが増えたもんなぁ。多分それだけじゃないだろうけど。
「てめぇらなぁ! 人様の前でごちゃごちゃごちゃごちゃ……名前間違いを訂正する隙もないじゃねぇか!」
清々しいまでのド正論だ。返す言葉もない。というか、流石に敵とはいえ初対面の相手の前で喧嘩は流石に見苦しいよな。
「ったく、油断して背中向けたらボコボコにしてやろうと思ってたのに、その気も失せたじゃねぇか……って、うぉあ!?」
「ちょ、リズ!? お前今日緩急おかしくないか!?」
まだ何かを言いかけていたヒルに、問答無用でリズが切り掛かる。
そのまま倒れたところに覆い被さり、顔の横に剣を突き立て睨みつけた。
「テメェみたいなクズの言葉、一言だって聞いてたくねぇんだよ。昔の親父を思い出して反吐が出る」
冷たく言い放つリズに、ヒルは倒された瞬間と違って余裕を取り戻している。
「あんま舐めるなよ? ガキの分際で」
「――ぐはっ!」
「リズ!!」
同じく低い声で呟くヒルによって、リズが蹴り飛ばされ、次の瞬間には俺の横に転がっている。
「大丈夫か!?」
「あぁ、悪い。油断してた」
頭を押さえながらも、リズはゆっくり立ち上がる。
よかった。とりあえず無事みたいだ。
「お前ら、ずいぶん好き放題してくれたなぁ」
雰囲気がさっきまでとまるで違う。やっぱりふざけてられる相手じゃないな。
「かかってこいよ。二度と舐めた口聞かないようにしてやる」
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To be continued
どもども!今回は割と早い雅敏一世です!
さてようやく佳境となって参りました、救出任務編。遂に姿を表したビル。任務は一体どうなっていくのか!
ではでは、また会いましょ〜♪




