新章89 Good things come to those who wait
NO.105Good things come to those who wait
「約束、したじゃないですか!!」
晴れ渡る青空に反して、薄暗い部屋、薄暗い空気がのしかかるその場所に引き裂かれるような怒号が響き渡る。
いや、正確には怒り1割、悲しさ9割の悲鳴と呼んだ方がいいだろう。
ともかく叫び声が響く小屋で、声の主と相対する男の顔には、見ているものを不快にさせるような薄ら笑いが浮かんでいる。
そして、男の足元には解放すると約束されたはずの4兄弟が縛られたまま横たわっており、顔は痛めつけられたと一目でわかるほど、青く腫れ上がっていた。
「したなぁ、約束。けどよ、守るなんてひと言も言ってねぇぞ?」
「寝ぼけたこと言わないでください! 守ることが前提だから『約束』なんですよ!」
食い下がるルティスに対してビルは尚も不遜な態度を崩さない。どころか、より一層口元を歪めて凶悪に笑うのみだ。
「――ッ! これが大人のやることですか!」
「はんっ! ガキは主語がデケェなぁ! これが、“俺の”やり方だ。わかったかクソガキがぁ!」
そう叫ぶビルがルティスの腹を蹴り飛ばすと、年不相応に華奢な体はいとも簡単に宙に浮き、そのまま壁に追突する。
そして、対照的に太いビルの足がルティスの小さな頭を踏み砕かんばかりに上から押さえつける。
「うぇっ、ふぐぅ……」
再び静寂が訪れた小屋で、言葉にならない慟哭が静かに響く。
それは泣き声のようにも、怒りに震える呻き声にも聞こえ、声の主であるルティスの内心を嫌と言うほどに表していた。
「あっ、ごめんなさい。そのままじゃ苦しいですよね。今外します」
絶望に暮れながらも、真っ先に気にするのは子供達のこと。
そんなルティスだからこそ、売られてきた4人も彼に懐く。しかし、裏返せばそんなルティスだからこそ、つけ込まれて利用される。
正直な話、ビルが約束を守らないことなど、ルティスにはわかっていた。しかし、どうしても疑い切ることが出来なかった。
「お、おにいちゃ……ごめんなさい。僕たち――」
「大丈夫ですよ。元はと言えば僕の甘さが招いたことですから」
まだ何か言いたげだった様子の3男だったが、ルティスに遮られたことによりそのまま言い淀み、結局はなされるがまま。頭を撫でられて黙り込んでしまう。
何もできない自分たちにとって、せめて役に立てることと言えば邪魔をしないことだけだ。
大好きなお兄ちゃんの足枷になりたくない。心労をかけたくない。それ故に、ずっと黙って見つめることしか出来ずに居た。
(しかしどうしましょうか。もう考えるのも面倒になってきましたね。こうなったらいっそのこと――)
殺すしか、ない。
いや、楽にそれができるのならこんな苦労はしていないのだが、不可能というわけでもない。
実際、あらゆる犠牲を惜しまなければ現状から脱却する算段はあるのだ。
ただ、その“あらゆる犠牲”と言うものが問題だ。私物など全くないルティスにとって、あるモノと言えば自分自身と4兄弟だけ。
自分自身を犠牲にするのはなんの弊害にもならない。しかし、兄弟たちをとなると話は別だ。
もはや自分の命を勘定に入れることがなくなったルティスにとって、彼らは存在理由そのものと言える。
犠牲にするなど本末転倒だ。その選択肢だけは絶対に避けなければならない。
顎に手をあて、部屋の中をぐるぐると歩き回るルティス。そして、心配そうに見つめる兄弟たち。
だが、それももう限界だ。状況は何年も前から全く変わっていない。現れた一縷の望みも、儚く消えていった。
そうしてずっと張っていた一本の糸が、ついにぷつりと音を立てて切れた。
いくら歳不相応に精神が成熟しているとは言え、彼は10歳の子供だ。
のしかかる重みが過ぎたることなど、崩れ落ち地に着く膝が、華奢な肩から垂れる細い腕が、痛々しいほど示していた。
殺さないなら、いっそこのまま死んでしまおうかと、項垂れる頭にそんな考えがよぎった時、ふと視界が明るくなった。
比喩ではなく物理的に、薄暗い部屋へと光が差し込んだのだ。
窓もないこの部屋で、光が入る場所など一箇所しかない。
「おーい、ルティスー? 探しにきたぞーって、あぁ居た居た」
「おいコラてめぇクソガキ! よくも騙してくれやがったな!」
開ける視界に映ったのは、赤と黒の髪をした見覚えのある少年2人。
「迎えにきたぜ! ルティス!!」
その手には、だらしなく舌を出して気絶している憎き男の襟元が、しっかりと握られていた。
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To be continued
どもども!古ぶりでございます!作者です♪
ほんっとーに遅くなって申し訳ない!ただ、作者の私生活がひと段落したため、これから少しづつ(ここ大事)元のペースに戻していこうと思いますので、今後ともヘタレつをよろしくお願いします
ではでは、また会いましょ〜♪




