新章88 だが地獄は終わらない
NO.104だが地獄は終わらない
物心がついた頃には、もう親と呼べる存在はいなかった。顔も名前も知らないし、興味もない。そんな親にひとつ抱く感情があるとするならば、恨み以外ないだろう。
最後の良心があったのか、申し訳程度の荷物と共に預けられていた孤児院では、子供が飽和状態になっており、お世辞にもまともと呼べる環境ではなかった。
そして、当時2歳だったルティスに転機が訪れる。転機……と言っても、もちろん良い方に転んだわけではなく、むしろ状況は孤児院よりも悪化することとなる、ゾラークによる孤児院の襲撃事件が起こったのだ。
その後は文字通りの地獄。日々繰り返される悪行の後始末をさせられ、時にはルティス自身が計画を立てさせられることもあった。
攫われてから5年が経過する頃には、同じように連れてこられていた子供たちは仕事に巻き込まれたり、組員からの虐待によって1人も残っていなかった。
そして去年、後輩となる4兄弟が入って来ることとなる。
どうせすぐに死ぬだろうと思っていた。しかし、運が良いのか悪いのか、無事に一年を乗り越え、今となってはルティスにとって一番大切な、守るべき家族だ。
「いいですか? 君たちは生き残ることだけを考えてください。ここから逃げ出す算段は、僕が必ず見つけ出します。だから、僕が仕事でいない時は、4人で乗り切るんですよ。わかった人!」
「「「「はい!!」」」」
「よろしい!」
そう約束してから幾分かの時がたち、遂に最大のチャンスが巡って来ることとなる。
2つ存在するゾラークの本拠地、そのうちのひとつが陥落し、運悪くそちらにほぼ全員が集まっていた組織は、大量検挙によって解体寸前まで追い込まれたのだ。
そして隙を見て抜け出し、ギルドへと無事に依頼を出した。そう、出した……まではよかった。
子供にとっては長すぎる距離を往復し、疲れ果てて帰ってきたルティスの表情は、ドアを開けるなり絶望に染まることとなる。
「よぉ。遅かったじゃないか。ルティス」
「……ボス。なんで」
「お前みたいに頭の回るガキに、俺が何の対策もしていないと思っているのか?」
ニヤけ面で無精髭をいじる小太りの男、ビルの後ろでは、縛られた4兄弟がまとめて縛られている。
「よくもまぁこの俺を出し抜いてくれやがって」
「いえ、これは違くて――」
そこまで言いかけて、次の言葉が紡がれることはなかった。腹部に重い衝撃を感じたと当時に、身体が宙に浮いていたからだ。
そのまま勢いよく壁に激突し、咳き込むルティスの前に立ち、頭を踏みつけて身を屈めて顔を近づける。
「何がちげぇんだ? ほら、言ってみろよ聞いてやるから」
「か――っはぁ!」
凶悪な顔で煽るビルだったが、耐え難い痛みに悶えているルティスに何かを口にする余裕などなく、縛られた子供たちをよそに時間だけが過ぎていく。
「これでも俺はお前を買ってるんだぞ? なぁ、ルティスぅ。汚れ仕事にも文句言わねぇし、お前の記憶力と頭の回転の速さには何度か助けられたしなぁ!」
語気が後半になるに連れて強くなっていくのに応じて、頭を踏みつける足の力もだんだんと強くなっていく。
靴と頭蓋骨、硬いものが擦れる不快な音が静かな小屋に響き渡る。
「だから挽回するチャンスをやろう。お前の報告で派遣されたギルドの連中を、どうにかして捕えろ。揺すりをかけて身代金要求すりゃ、活動資金の足しにはなるだろ」
そうして返事も待たずに足を退けて去っていく憎い後ろ姿を、ルティスは這いつくばったまま睨みつけることしかできない。
痛みで立てないせいではない。いや、実際の所今は痛みのせいなのだが、睨みつけるしかないのはいつだって同じ。
今回もどうせ逆らうことなんてできない。吐き捨てられた命令に従い、人を騙し、殺めて生き延びる。
ずっと、ずっと、同じ。その本質は10年前から何一つ変わっていない。
「けどまぁ、これまで随分と尽くしてくれたのは確かだしなぁ。今回の働き次第じゃ、このガキどもを逃がすくらいは考えてやるよ」
「その言葉、嘘とは言わせま――ごほぉぁっ!」
「うるせぇよ。奴隷の分際で」
話の途中でルティスを蹴り飛ばしたビルは、そのまま機嫌悪そうにドアを開けて去って行く。
数分ののち、痛みを腹に抱えながらも起き上がったルティスは縛られている子供達の方へと足を向け、ゆっくりと縄を解いていく。
「ごめんなさい。僕がしくじったせいで……怖かったですよね」
縄が解けた瞬間、溜まっていたものが決壊したように、4人ともルティスに抱きつき、泣きじゃくる。
最初こそ驚いた顔をしていたルティスだったが、すぐに優しげな顔で4人を抱きしめる。
「待っていてくださいね。今度こそ、負の連鎖を断ち切って見せます」
そんな決意を胸に、真宗たちを罠にかけ、見事任務を果たした。
これでやっと子供達が解放される。期待を抑えきれず、先程までの憂いはどこへやら、浮き足だって皆が待つ小屋へと戻る。
そう、やっとかされる。そう思っていたのに――
「約束――したじゃないですか!!」
現実は、やはり非情だ
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To be continued
どもども!お久々久々でございます!!雅敏一世です♪
なんかこの空気感久しぶりですね…初期を思い出します。
作者の都合でしばらくはこのような不定期投稿が続きますが、どうかご容赦を。
さて、今回明かされたルティスの過去!この先救いはあるのか否か!
ではでは、また会いましょ〜♪




