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ヘタレ魔王の英雄烈伝!  作者: 雅敏一世
新章第二幕 灼熱大陸編
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新章85 そして振り出しへと戻る




「どうして! どうしてもっと早くきてくれなかったんですか! あなた達がもっと早くに来てくれていれば、あの子達は……」


 途中まで言いかけて、堪えきれずにうずくまり、再び泣き出してしまう少年を前に、俺もリズも動くことができずにそのまま立ち尽くすほかなかった。


 認識が甘かった。何を平和ボケしていたんだろう。これは任務だぞ馬鹿野郎。

 さっきまで固まっていたヒュートだって、あの子をベンチまで移動させてるじゃねぇか。


「ごめんな。俺らが遅れちまったばっかりに。落ち着いたらさ、何があったか話してくれるか?」


 優しく問いかけながら、ヒュートに頭を撫でられている少年は、未だえずきながらも小さく頷いている。


「あの、こちらの方々は……」


 そんな様子を少し離れたところから見ていると、受付カウンターからお兄さんが声を掛けてくる。


「あ、こいつらは――」

「真宗です。で、こっちの無愛想なのがリズ」


「おいこら。誰が無愛想だ」


 割と適当な自己紹介を受け、お兄さんはしばし顎に手を当てて思案した後、思い出したように手を叩く。


「あぁ! 草薙小隊の方々ですね! 本部より伺っております。『強欲』の勇者様との合同任務という形になりますが、よろしいですか?」


「あ、はい。それで大丈夫です」


「分かりました。では、そのように手続きして参りますね」


 逆にそれ以外何があるんだって話だけど、一応聞かれたから答えておこう。そそくさと奥の部屋に引っ込んでいったし、よっぽど早く切り上げたかったんだろう。


 あの子を完全放置なのはちょっと薄情な気がするけど、仕事に私情を持ち込まないのは、ある意味では正解なんだろう。ヒュートも特に何も言及しないし。


「もう大丈夫か?」


「……はい。取り乱してすみませんでした」


 ゴシゴシと目をこすりながら少年が顔を上げ、礼儀正しく謝って目を伏せる。

 

「そっか。よかった――」

「ヒュート様、少しお時間よろしいですか? 任務について説明がございます」


「あー、わかった。すぐ行く。兄貴、この子の話聞いといてくんねぇか?」


 少年とカウンターの方を交互に見ながら複雑そうにそう言うヒュートに頷いて返すと、安心したように席を立って奥の部屋へと歩いていく。


「えーっと、まずは名前を聞いてもいいかな?」


「人に名前を聞くときはまず自分から名乗るのが筋じゃないんですか? 仮にも働いてるなら常識では?」


 落ち着け。落ち着け俺。うん、確かにこの子の言うとおりだ、なーんにも間違っちゃいない。

 ちょっと言い方が腹立つからって感情的になるな。リラックスして笑顔で答えればいいだけの話だ。


「そうだな。ごめん。俺が悪かったよ」


「まぁ、分かればいいんですよ。分かれば」


 よし。よく堪えた俺。超ファインプレー。つかなんだよこのクソガキ。さっきまでのしおらしい泣き顔は一体どこへ消えてったんだってくらい清々しい煽り顔しやがって。


「俺はリズで、こいつは真宗だ」


 もたつく俺に痺れを切らしたのか、後ろから割って入ってきたリズが雑に自己紹介を済ませ『名乗ったけど、お前の名前は?』と言いたげな顔で少年を見下す。


「まぁ、さっき受付の能無しに名乗ってたので、存じていますが。何で今更名乗ったんですか?」


「○すぞクソガキ」


「すとぉーっぷ!! 気持ちはわかる! めっちゃ分かるけど、一応年下だから。な? 剣抜くの(それ)は洒落になんねぇって!」


 感情の抜け落ちたような無表情のまま、剣を引き抜こうとするリズを何とか抑えて落ち着かせる。

 本当は俺もお灸を据えてやりたいけど、流石に任務が始まる前から流血沙汰は勘弁だ。


「そもそもなんで貴方達なんですか? さっきの眠そうな人の方が頼り甲斐があったのに、こんな冴えないの2人とか……はぁ」


「よし決めた。やっぱ叩き切ろうこいつ」


「ま、待ってください! 僕が悪かったですから! 調子に乗ってごめんなさい!! だから2人とも剣をしまってください!!」


 2人とも? と疑問に思いリズの方を見てみると、同じように剣が鞘から顔を出し、5センチほど浮いているのが見えた。やっぱりリズも我慢の限界だったらしい。


「ひじゃい!! なんれちゅねるんでしゅか!! 離してからはい!」


 とりあえず剣はしまったものの、やり場のない怒りの矛先は少年のほっぺたへと向けられ、左右両方から引っ張られたことで舌ったらずな悲鳴をあげている。


「あぁ、悪い。ついな」


「何が『つい』なんですか!! ほっぺたが腫れたらどうしてくれるんです?」


 それはそれで、今よりかは幾分愛嬌があっていい気がするけど。

 何にせよ表情は晴れたみたいでよかった。さっきまでずっと泣きそう……と言うか泣いてたからな。こうして場を和ませるのも作戦のうちってわけだ。


「待たせたな……って、兄貴は一体何やってんだ?」


 さっきとは打って変わり、俺が少年のほっぺをもちもちと揉んでいると、呆れた様な顔でヒュートが奥から出てくる。


「いや、さっきつねっちゃったからお詫びにと思って」


「もにゅもにゅしないでください! 何のお詫びにもなってませんから!!」


 返答を受けて、ポカンとした表情を浮かべたヒュートだったが、この話題は一旦置いておくことにしたのか「それはさておき」と切り出してくる。


「兄貴達、任務についてなんか聞き出せたのか?」


「「あ」」


 静かになった部屋の中に、小さく重なったふたつの声と、諦めたようなため息を皮切りに任務は今ようやく始まった。

 ……まずは名前を聞くところから始めないとな!


NO.101そして振り出しへと戻る


………………………………………………………………

To be continued

 

どもども!お久しぶりでございます!雅敏一世です!!

さて、ようやく始まって参りました!東共奪還作戦後初の任務!

次回から本格始動して参りますので、乞うご期待!!

ではでは、また会いましょ〜♪

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