新章84 幾千回目の
NO.100幾千回目の
「んんー! やっとついたぁ!」
丸一日の旅疲れを少しでも和らげるよう、地面に足を下ろした瞬間におもいっきり伸びをする。
ここまできたなら、そのまま目的地まで行ければよかったんだけど、どうも道の関係上これ以上先は馬車が進めないらしい。
最果ての村とは聞いてたけど、やっぱりど田舎だな。見渡す限り田畑、森、山。いずれにしても緑だらけ。
鬼ヶ島もこんなもんだけど、今は公都での生活に慣れすぎたせいで、もはや懐かしさまである。初任務の時も結構な田舎だったけど、あの頃はまだ里を出たばかりだったからな。
「で? どこに行くんだったっけ?」
「ギルド支部。とりあえず何の情報もないから、任務内容だけでも知っておきたい」
馬車の乗り込み口を振り返りながら問いかけると、大荷物を背負ったヒュートが答えてくれる。
よく見れば俺の荷物じゃねぇか。まだ寝ぼけてるのかな? 完全に忘れてた。
「悪いな、持たせちゃって」
「いいってことよ。それより早く行こうぜ。日が暮れちまう。ほら、赤髪! 寝ぼけてねぇでさっさと降りてこい!」
「るせぇな。てめぇの荷物まとめてんだよ。何で真宗のは待って自分のやつ忘れてくんだよ」
同じく荷物を背負ったリズを見たヒュートは「あっ」と小さく呟いている。
まだついたばかりなのに、既に心配になってきたんだけど。本当にこの面子で大丈夫なんだろうか。
「にしても『魔道馬車』だっけ? 初任務の時も思ったけど、すげぇよな。これ」
呟きながら再び振り返ると、そこには先ほどまでと同じ場所に、御者台に誰も乗っていない馬車が佇んでいる。
誰も乗っていないと言っても、何もないわけではなく、青白い光を放った拳大の宝石がど真ん中に鎮座している。
「原理自体はかなりアナログだけどな。事前に行ったことのある場所にしか使えないし」
「でも、この石で細かい指示まで出せるんだろ? 最近の技術ってすげぇな」
しげしげと馬車を見つめていると、今度こそ自分の荷物を持ったリズが眠そうな目をこすりながら降りてくる。
「おっし、準備できたしそろそろ向かうか!」
「おぉ、けど兄貴。どっちか分かるのか?」
「……わかんね」
舌を出して首を傾げると、2人から揃ってため息をつかれる。
でも、この場合は事前に何も言ってくれなかったギルマスが悪くね? ベテランならいざ知らず、入隊して1年も経ってないやつに分かれって方がおかしいと思うんだよ。
そんな恨み言を考えつつ、トボトボとヒュートの後ろをリズと並んで歩いていると、前方に見上げても頂上の見えない塔が佇んでいるのが見えた。
「って、なにあれ!?」
「知らねぇのか? あれは『ボラキウス摩天牢』だ。『楼』じゃなくて牢屋の『牢』な」
「つまりあれは……監獄ってこと!?」
「まぁそうなるな」
あまり知らない人はいないんだろう、驚く俺を珍しそうに眺めるリズの顔には微笑が浮かんでいる。
「にしたって、何であんな高く作ったんだ? 逃亡防止にしてもやり過ぎなくらい高い気がするんだけど」
「さぁな。けど、元はたった1人を拘束するためだけに作られたって話だから、そいつが逃げないようにじゃねぇか?」
あの高さ……つっても頂上は見えないけど、そこまでするとかどんな化け物捕らえてんだよ。
「それにしても、本当に高いな。一体何階あるんだよ」
「噂じゃあ、666階層まであるらしいぜ」
「うっそだろ!?」
けど、果てが見えないところを見るに、全くもってデマってわけじゃ無さそうだな。そのくらい、この荘厳さには説得力がある。
「ほら、2人とも。そろそろ着くぞ」
摩天牢を横目に談笑していると、前を歩いていたヒュートが振り返って立ち止まる。その先を見てみると、木でできた質素な小屋が周りの木々に溶け込んでポツンと建っていた。
「なんていうか……ただの小屋だな」
「そりゃ、ただの小屋だしな。逆にどんなのを想像してたんだよ」
「いや、ギルド支部って言うくらいだから、本部をちょっと小さくした感じかと思ってた」
よくよく考えると、そんなわけないわな。そもそも建材を運ぶのですら一苦労だろうし。
「多分話は通ってるから、すぐ手続きできるだろ――」
「まだ到着してないってどう言うことですか! もう1週間ですよ!」
立て付けの悪い扉を開け、いざ中に入ろうとすると、奥の方から甲高い声が聞こえる。ただ、声質からして女性的なものではなく、変声期の来ていない子供特有のものだ。
「そんなこと言ってもね。ここは辺境だから、増援には時間がかかるんだよ。ごめんね」
「じゃあ、あの子たちは見殺しにしろって言うんですか!」
透き通るような白髪をした少年は、張り裂けそうな程に声を張り上げて絶叫し、カウンターを思いっきり叩く。
しかし、身長の関係上天板は顔と同じ高さなため、自分でやっておいて自分で驚いている。
「あっ『強欲』の勇者様!」
カウンター越しに少年の相手をしていた、新人らしきお兄さんはヒュートを見るや否や、縋るように声を掛けてくる。
「……勇者? じゃあ、あなた達が助けに来てくれた人たちなんですか?」
目を泣き腫らしたままへたり込んでしまった少年が、震える声で小さく問いかける。
「あぁ、遅くなったけどもう大丈夫――」
「なんで!! 何でもっと早く来てくれなかったんですか!」
安心させようと笑いかけ、ヒュートが差し出した手を、少年が勢いよく振り払う。次の瞬間、先ほどまで浮かべられていた優しげな笑みは、深い絶望へと塗り替えられていった。
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To be continued
祝!NO.100達成ー!!
初投稿から実に2年と4ヶ月!やーっと100話と言う節目を迎えることができました!!
なんかめちゃくちゃ遅い気がしますが、ここまで連載してこれたのは一重に読者の皆様のおかげです!
ほんっとーにありがとうございます!!
まだまだヘタレつは続いてまいりますので、今後ともよろしくお願いします
ではでは、また会いましょ〜♪




