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ヘタレ魔王の英雄烈伝!  作者: 雅敏一世
新章第二幕 灼熱大陸編
105/124

新章83 どん底への旅路




NO.99どん底への旅路


「兄貴、兄貴。そろそろ着くから起きろよ」


「んぁ……あぁ、もう着いたのか」


 心地よい馬車の揺れに、つい居眠りをしてしまっていた俺に、優しげに掛けられる声がひとつ。

 こすりながら目を開けると、前の椅子に座っているヒュートが、俺の隣のリズを同じく起こしているところだった、


 正直まだ寝ていたかったけど、仕事なんだからしょうがない。


「なぁ、今回の任務って結局なんだったけ?」


「はぁ? しっかりしてくれよ。ほら、ギルマスに言われてただろ? 今回の任務は――」


 寝ぼけた頭を必死に働かせながら問いかけると、呆れ顔のヒュートが思い出すように話し始める。


♦︎♦︎♦︎


 『憤怒』の勇者に奢らされた次の日、ギルマスに呼び出された俺は、またしても執務室にきていた。


「最近呼び出し多いですね。ギルマス」


「しょうがないじゃんか。君らが小隊なのが悪いんだよ」


「は? そんなの関係なくないですか?」


 疑うように視線を向けると、舌を鳴らすのと同じリズムで指を振り、無駄にしつこく間違いをアピールしてくる。

 

ギルド(うち)って、管理部の子達が依頼の中から仕事を斡旋(あっせん)、僕が承認して各隊の勇者に伝達するんだよ。で、最終的に勇者が任務内容に合った人材を派遣するって流れなの」


 そういえば、ギルドの隊員っていずれかの勇者の隊に入るのが基本だから、俺らみたいに個別で小隊をやってるのは珍しいんだったな。


「あっ、そっか。確かにそう言う話なら、セリカには無理ですね」


 そもそも、単独では戦力にならないのが約2名いるし、いまだに俺と別の任務ってなるとゴネるセリカだ。そんな小難しいことは無理だろう。


 そのことは身にしみてわかってるんだろう。ギルマスも目尻に涙を浮かべながら、首をもげそうな勢いで縦に振っている。意外と苦労してんだな。この人も。


「談笑するのもいいけどよ。俺この後用事があるから、早めに切り上げさせてくれねぇか?」


「用事? 今日なんかあったっけ?」


「夕飯の材料買ってこなきゃいけねぇんだよ。お前が晩飯は交代制って言ったんだろうが」


 おっとそうだった。俺らって基本薄月給だから、節約も兼ねて夜ご飯は俺とリズが交代で作ってるんだよ。


 セリカの料理は破壊力が強すぎて身がもたないし、さすがにイナルナには危なっかしいから任せておけない。

 ってことで、俺とリズがやるしかないわけだ。


「じゃあ、先に概要だけ話しちゃおうか」


 そういうと、ギルマスはわざわざ両肘を机の上に立て、もったいぶったように話し始める。


「今回依頼があったのは、公都から南東方向。それも、端っこも端っこ。東共と南帝との国境沿いにある村だよ。その近くにあるギルド支部に、緊急依頼が入ったの」


「緊急依頼?」


「そっ、普通の依頼なら、わざわざ君らじゃなくても人員の多いグリムあたりに派遣して貰えばいいんだけど、今回に限ってはそうもいかなくてね」


「えー、また何か曰く付きの任務なんですか? 嫌ですよ。ただでさえ問題児だらけなのに」


「いや、そういうことじゃなくて、君らじゃないと務まらない任務ってこと。なんせ、今回の任務は『ゾラーク』の残党関連だからね」


 ゾラークって言うと、ヒルデガルドの下請けだった暴力団か。ってか、まだ残ってたのかよ。しつこいな。


「それに、セリカは別件で同行させられないよ。あと、暴力団関係なのでイナちゃんとルナちゃんはお留守番で。教育に悪いからね」


 最後に関してはもう今更な気がするけど、そっか。セリカは来ないのか。

 あれ? ってことは、


「うげ、俺と真宗の2人だけかよ。マジのマジで不安しかねぇな」


「セリフ取るなよ。あと、めっちゃ不本意なんだけど?」


「大丈夫さ。なんせ強力な助っ人を用意してるから――」

「うぃっす。ギルマス、なんか用事っすか」 


 ギルマスがちょうど口に出す寸前、気怠そうな雰囲気を一切隠そうともしない男が、ノックもせずに入ってくる。


「ヒュート!? 何でここにいんの!?」


 そう、入ってきたのは紛れもない『強欲』の勇者、ヒュートその人だった。


「兄貴!? 兄貴こそ何でいるんだよ!」


「うげぇ」


 俺とヒュートがそれぞれ驚いている中、リズだけは嫌そうな顔で舌を出す。

 何でリズがこんな反応なのか、そしてなぜ俺が“兄貴”と呼ばれているのか、それは東共奪還作戦の少し前、ヒュートと初めて出会った日の1週間後まで遡る。


 曲がり角でヒュートとぶつかった俺は、その1週間後に恋バナ……もとい作戦会議のためにギルドの空き部屋に集合する予定だったんだけど、その時ちょうど暇そうにしていたリズも連れて行ったんだよ。


 結局、そこで立てた作戦は上手くいってヒュートとシーシャの距離は近いたのはいいものの、終始振り回されていたリズにとっては不服だったらしく、次の日の夕飯当番を変わるってことでようやく機嫌を直してもらえた。


 ちなみに、作戦は俺が適当に考えたやつなんだけど、何の因果か都合よく上手くいったおかげで、何故か兄貴と呼ばれることになり、第二回の集会を開催することも決定している。


「そんな顔すんなよなぁ、せっかく来てやったんだから」


「だからこんな顔してんだろうが。クソが。しばらく顔も見たくなかったってのに」


 舌打ちしながら(しか)めた顔を背けるリズに、ヒュートが顔をずいっと近づけて覗き込む。

 そう言うことするから余計嫌がられると思うんだけど、まぁ面白いからしばらくは眺めておくか。


「はいはい! そこまで! これから同じ任務に就くんだから、喧嘩しないの!」


 と、思っていたんだが、珍しくまともなことを言い出したギルマスが両手を広げて仲裁する。


「とにかく! 出発は明後日、支部の指示を聞いて周辺捜査をすること! 以上、解散!」


♦︎♦︎♦︎


「そういや、何にも聞いてねぇな。兄貴たちは何か聞いてるか?」


「いや? 俺らも、『ゾラーク』関連の任務としか」


「はあぁぁ、まぁギルマスだしな。そこにケチをつけだしたらキリがねぇや」


 何の感情も映っていないヒュートの目からは、一種の諦めが容易に見て取れる。

 こいつも相当苦労させられたんだなぁ……


「何にしても、リハビリがてら張り切って行くとするか!!」


 こうして、西公最果ての村『エルヴィダ』での任務が始まったのだった。


………………………………………………………………

To be continued

どもども!お久しぶりの雅敏一世でございます!!

さて、本編ですがようやく新章突入! 今回の任務では一体何が起こるのか!

乞うご期待! ではでは、また会いましょ〜♪

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