新章82 『憤怒』守銭奴
NO.98『憤怒』守銭奴
あの後しばらく談笑し、もう時間も遅いということで帰ってきた俺は、頭なくギルド前の大通りを歩いていた。
いつ終わるか分からなかったから、セリカ達には夕飯は食べて帰るとは言っておいたので、待たせる心配はない。
実際、今の時間は20の刻。夕飯を食べるにしては少し遅めの時間だ。いつもの串揚げ屋はもう閉まってるだろうなぁ。
あの店、開店時間が早い代わりに、夕飯時のピークを過ぎると直ぐに閉まっちゃうんだよ。
かと言って、今はもう串カツの気分になっちゃってるから、それ以外は受け入れられない。
「ってか、麗奈さんのせいなんだよなぁ」
あの人が4時間も寝こけてたせいで、大幅に時間を食っちまった。本来なら、ちょうど夕飯の時間くらいに帰る予定だったのに、気づいたら日が落ちてからだいぶ経っている。
まぁ、本を返すときに、本棚の場所を忘れてた俺も少しは悪いけど。
にしても4時間は長すぎるから、全部麗奈さんのせいって事にしておこう。
「おっ? もしかして、あれって――」
大通りにポツンと建っている、こじんまりとした屋台。その横では『串カツ』と書かれた旗がたなびいている。
これは、つまり呼ばれてるって事でいいのか?
意気揚々と暖簾をくぐり、5つある席のど真ん中に腰を下ろす。
「へい大将! やってる?」
「……らっしゃい」
入った瞬間から香るこの匂い、大将のいかにもな雰囲気。くぅぅ……こういう店に一回入ってみたかったんだよ!
ところで俺、屋台にきたらやってみたかったことがあるんだよ。やってみてもいいかな? いいよな!
両肘をつき、手の甲に顎を乗せて一言。
「大将……とりあえず生ひとつ」
しかし、大将は一切反応する事なく、黙々と串に具材を突き刺し続けている。
あれ? なんか間違えた?
そう思っていた矢先、大将が無言で上を指差す。
上? 上に一体何が……はっ! 生ビールがない、だと?
いや待て、そもそもビールがない。※東共酒と焼酎しか置いてないじゃないか!!
うわ、はっず! 思いっきりキメ顔しちゃったよ! これじゃただの痛客じゃねぇか!
※東共酒=日本酒の認識で大丈夫です
「あ、じゃあ焼酎で」
「ストレート? 水割り? ロック?」
なにそれ!? そんな単語初めて聞いたんだけど!? ってか、そもそも何の話だ?
ロックって事は音楽? ロックスターが頭からぶっかけて渡してくれるのか?
ってことは、渡し方の話か。ストレートは、響きからして直接渡す感じだろう。ロックはロックスターが頭からかけてくるのでいいとして、問題は『水割り』だな。
こいつが未知数すぎる。いや待て、そういえば、東共に流しそうめんってのがあるな。そうめんを上から流すやつ。
はっ、そういうことか! コップに注いだ焼酎を、上から流すんだな!
けど、そんなもん別に求めてもないので、普通に渡してくれればいい。つまり、俺が選ぶのはひとつ!
「ストレートで!」
「おや、お若いのにストレートとは、通ですね」
不意に後ろから声がかかり、驚いて振り返ると、40代半ばといった風体のおじさんが暖簾をくぐって入ってくるところだった。ん? この人見たことあるような気が……
「らっしゃい」
「大将、いつもので」
おじさんは俺の隣の席に座ると、慣れた様子で注文を言いつけ、それを受けた大将は、応答することもなく戸棚からもうひとつジョッキを持ってくる。
やっぱりこの人見たことあるわ。けど、どこでだったかなぁ。
「東共奪還作戦おつかれ様でした」
「え? 何でそのこと知ってんの!?」
「先日、ギルマスから報告を受けましたので」
となると、やっぱりギルド関係者か。いたかなぁ、こんななよっとしたおじさん。
いや、いたな。それも結構前に。思い出せ――
「あっ『憤怒』の勇者!?」
「ご名答。入隊試験で説明して以来ですね。『逢魔』真宗くん」
俺が称号で呼んだからなのか、おじさんの方も同じように返してくる。いや、俺の方はおじさんの名前を忘れただけなんだけどさ。
「……もしかして、名前覚えられていません?」
「マジすみません」
「はっはっは! お気になさらず! 影が薄いことは自覚しておりますので!」
ちょうどそのタイミングで、カウンターの上にジョッキが2つ無造作に置かれる。
「では改めて。レオン・リヴァイストと申します。大和真宗くん」
「あ、はいどうも」
名前を告げながら、ジョッキを掲げるレオンさんだったが、なんとなく気まずくて少し無愛想になってしまった。
まぁ、飲めば多分気まずさも無くなるか。
♦︎♦︎♦︎
「――ってなわけでねぇ! 大変だったんですよぉ!」
「その話5回目ですよ」
あれぇ? そうだったか?
もう30分経つけど、あれから何杯飲んだんだろぉな? それももう覚えてねぇや。
「つか、レオンさん俺以上に飲んでるのに、全く酔ってねぇな。酒強! あっははは!」
「真宗くん、飲み過ぎですよ」
「えぇ〜? じゃあ魔法で酔い覚まししてくださいよぉ」
「しょうがないですね……」
レオンさんが俺の額に手をかざすと、徐々に思考が晴れ、酔いが覚めていくのが分かる。
「あれ? 酔い覚めた?」
「はい。そういう魔法ですから」
本当にあったのかよ。そんなニッチな魔法。
「それでは、私はそろそろ行きますね」
「もう行っちゃうんですか?」
「はい。明日も早いので」
そう言うと、レオンさんは席を立ち、背もたれにかけてあったスーツを再び羽織ると、暖簾をくぐって出ていく寸前、
「お嬢のこと、よろしくお願いしますね」
とだけ言い残し、足早にその場を去って行った。
ん? 何であんなに急いでんだ……って、あ!
「あの野郎! 金払わずに帰りやがった!!」
結局、2人分の食事代を払った俺は、軽くなった財布を見つめて嘆息しながら、トボトボと帰路に着くのだった。
次会ったら絶対殴ってやる。
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とぅーびーこんてにゅー
おまけ
ちなみに、真宗くん結局9:1くらいのうっすいやつを1杯しか飲んでません。お酒もクソ雑魚ですね。
どもども!毎度お馴染み雅敏一世でございます!
さて今回、前回とは違い情報量ほぼゼロのおふざけ回となっております。
割とシリアスな回が続いていたので、ここらで箸休めになればと思います。
ではでは、また会いましょ〜♪




