新章81 巡る星々
NO.97巡る星々
元魔王であるヒルデガルドには、兄弟がいる。それも8人。特別仲がいいというわけではなかったものの、時々連絡を取り合う程度には良好な関係だったそうだ。
それが、遡ること200年前の話。
ヒルデガルドは、麗奈のもとで平和に暮らしていた――
「いや、ちょっと待てぇい!!」
「なんだ? 今から、麗奈様との150年余りを語り尽くしてやろうと思ったと言うのに」
聞き捨てならないワードが出たから思わず途中で話を遮ったけど、ヒルデガルドはまるで気にも留めていないらしく、話の腰を折られたことで不機嫌そうにしている。
「その話は一生しなくても大丈夫だ」
150年分なんてくそ長い話しされたら、たまったもんじゃないしな。
ってか、そんなことは今どうでもいいんだよ。今一番問題なのは、
「麗奈さん何歳だよ――いったぁ!?」
「女性に軽々しく年齢を聞くな」
「だからってビンタすることないだろ!」
確かにちょっと失礼だったけどさぁ。でも、200年とか150年はそういうレベルの話じゃなくね?
「んー、どうしてもぉ? どうしても知りたい? ねぇねぇ、僕が今何歳か知りたい?」
ほら、本人対して気にしてない……どころか、話したそうにしてるし。そんでもってノリがうざい。絡み方酔っ払いかよ。
「まぁ、そこまで言うなら教えて――」
「ざんねーん。なーいしょだよっ」
そろそろ本気でぶっ飛ばそうかなこの人。
ってかおい、ヒルデガルド。ウインクされたからって頬染めてんじゃねぇよ。下手くそすぎてほぼ瞬きだったんだから、照れるような要素なかっただろ。
あと、今ので大体わかった。こいつもあれだ。毎度お馴染みどこかしら残念な奴だ。主に頭が。
多分だけど、麗奈さんが絡むと途端に頭が悪くなる、セリカと同じタイプだな。
……なんで俺はこんな変態分析みたいなことをやらなきゃいけないんだよ。もうちょっとまともな奴はいないのか。
「ごほん! そろそろ本題に戻りたいんだが?」
「わ、悪い。続けてくれ」
「あぁ、少々不満だが経緯は割愛して、自分は麗奈様と比較的平和に過ごしていた――」
そして、問題が起こったのが200年ほど前。『神古竜』が、突如として押しかけ、おそらくはなんらかの魔法でヒルデガルドは自由意志を奪われて、操り人形にされてしまったそうだ。
「なんらかの魔法って、随分曖昧な表現だな」
「仕方がないだろう。対峙した瞬間に気絶してしまったのだから」
「……ちなみに、その頃お前は魔王だったのか?」
静かにそう問いかけると、ヒルデガルドは気まずそうに、それでも深く頷く。
うっそだろ? 200年も前なら、今よりも多少なり弱いかもしれないけど、仮にも『魔王』――覚醒者だぞ!?
「後頭部に衝撃を受けたと思った次の瞬間には、意識が飛んでいた。目覚めた時には『神古竜』に逆らえなくなっていたから、おそらく意識がない間に何かをされたんだろう」
「ねぇ、俺仇撃つの無理な気がしてきたんだけど……」
いや、やるよ? 言ったからには出来る限りやるけど、流石に覚醒者ワンパンは強すぎやしませんかね?
ちなみに、その後200年間は特に表だった動きもなく、ヒルデガルドは南帝の皇帝に命じられ、同じように操られていた兄弟達と共に『八星神』として国の運営を任されていたそうだ。
「って、南帝もグルなのか!?」
「あぁ、メギドは皇帝の側近として活動している。もっとも、皇帝には自分も会ったことがないから、真偽は不確かだがな」
まさかの国ぐるみかよ。……あっ、だから死ぬ直前に『南帝に行け』って言ってたのか。黒幕と帝国の関連性が分からなかったけど、本人がそこにいるなら納得だ。
「そして、全てが動き出したのが3年前。第三次領土統合戦争が起こった日だ」
「結局、そこに辿り着くのか」
「あぁ、自分達も含めた帝国兵。そして、そこに便乗した死竜崇拝聖教会――通称『聖教会』の連中による、過去最悪の戦争」
「――? 聖教会?」
途中までは、なんとなく聞いたことのある話だったけど、その単語だけは初耳だな。
「聖教会はその名の通り、『死竜』つまり『死古竜』を崇めてる宗教集団だよ。まぁ、実情は謎だらけだし、頭のおかしい宗教団体が、戦争に便乗してちょっかい出してたって認識で大丈夫」
なるほど。でも、あんだけ色々知ってた麗奈さんですら分かっていないとなると、多分誰に聞いても分からないんだろうな。
「そして、戦争結果は南帝の思惑通り。先代『傲慢』は殉職し、『逢魔』は呪いにかけられた。まぁ、そうまでしても本来の目的は果たせなかったらしいがな」
「本来の目的? 領土統合なんて言ってるんだから、領土拡大が目的なんだろ? そんなの、お前が東共を統治してたから、達成してたんじゃないのか?」
「いや、前回の戦争は、それまでのものとはおそらく目的が違い、統治以外の目的があるはずだ。その証拠に、自分は3年間ずっととある物の捜索をさせられていた」
ヒルデガルドは、そこで一旦話を止め、許可を求めるように麗奈さんの顔を見る。
そして、やけに大袈裟に頷くのを見ると、再び口を開く。
「“死竜の祠”。死古竜が封印されている祠を見つけることが、自分の東共での使命だった。おそらく、死古竜を蘇らせて何かをしようと企んでいたのだろう」
っと、これで多分全部繋がったな。
裏で組んでいた帝国と聖教会が結託して、祠から死古竜を解き放つ。ってのが、第三次領土統合戦争の筋書きだったんだろうけど、肝心の祠が見つからなかった感じか。
その過程で多分じいちゃんも呪いを受けたんだろう。
「何にしても、一筋縄ではいかないのは確かだ。兄弟達も、自分と同程度、あるいはそれ以上に強い」
「加えて、神古竜か」
なんか、大変なことになってきたな。ただ仇を撃って終わり! ってわけにはいかなそうだ。
「まぁ、だからと言ってやることは変わらねぇよ。『神古竜』をぶっ飛ばすだけだ……だろ?」
「ふっ。そうだな」
そう言って笑いかけると、ヒルデガルドも呆れたような、それでいて嬉しそうな複雑な表情でむず痒そうに笑った。
……………………………………………………………
To be continued
どもども!毎度お馴染み雅敏一世でございます!
NO.100も近くなってきた今日この頃、えげつない情報量でお送りした最新話となります。
次回は、またまったりとした回に戻りますので、そちらもお楽しみに!
ではでは、また会いましょ〜♪




