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第二十六話 剣聖VS魔王軍幹部

「ウェインは下がっていろ! ジークもだ!」

「いいの? その魔族、流石にライザさんでも……」


 アルカと名乗った魔族の実力は、半端なものではなさそうだった。

 これまで対峙したどんな敵よりも、数段格上であろう。

 ライザ姉さんの実力を疑うわけではないが、流石に一人では厳しいのではないだろうか?


「お前の力は温存しておきたい。ここで二人とも力を出し切ったら後が怖いだろう?」


 姉さんの言葉を聞いて、俺はなるほどと頷いた。

 ウェインさんもいまいち頼りにならないし、ここで全力を出し切るのはまずいだろう。

 二人で力を合わせたとしても、あの魔族にはかなりの苦戦を強いられそうだからな。


「剣聖……? いま、剣聖と言ったか!?」


 場の緊迫感が高まる一方で、ウェインさんが酷く間抜けな声を出した。

 姉さんの正体が剣聖であったことが、よっぽど驚きであったらしい。

 口を半開きにして、眼球が飛び出してしまいそうなほどに瞼を見開いている。


「おい、本当なのか!?」

「ええ、ライザさん……もういいかな、姉さんは剣聖ですよ」


 こうなってしまったら、もう改めて隠す必要もないだろう。

 俺はハッキリと、姉さんが剣聖であることをウェインさんに告げた。

 すると彼は、憑き物が取れたような顔でつぶやく。


「ははは、そりゃ勝てないはずだ……」

「街に戻っても、言わないでくださいね? 姉さんがいることがバレたら、大変ですから」

「ああ……」


 ひどく渇いた声を出すウェインさん。

 やがてそれに合わせたかのように、姉さんが剣を抜いた。

 白銀に輝く剣身が、薄闇を切り裂いて光を放つ。

 それはさながら俺たちを導いているかのようで、何とも頼もしかった。

 それに負けじと、アルカもまた手品のようにどこからともなく剣を取り出す。

 姉さんの剣とは対照的に、その刃は闇を圧縮したように黒々としていた。

 さらにそこから、薄紫をした瘴気が溢れ出している。

 まさしく魔剣と形容するのがふさわしい、禍々しい姿だ。


「始めようか」

「こちらこそ、いくぞ!」


 ほぼ同時に飛び出す両者。

 次の瞬間、衝撃が周囲を揺らす。

 木々がしなり、その葉がジリリと振動した。

 俺とウェインさんはたちまち顔をしかめ、仲間の女性たちは声を上げる。


「一撃で吹っ飛ばなかった相手は久しぶりだわ」

「こちらこそ、私の一撃に耐えるとはな」


 激しい剣戟の応酬が始まった。

 技量では姉さんの方が勝っているようだが、身体能力ではアルカの方がわずかに優勢なようだ。

 流石は魔王軍幹部、高位魔族なだけのことはある。

 腕力に物を言わせて攻撃を防ぎ、姉さんの疲労を狙っていく作戦らしい。


「はあぁっ!! 天斬・滅魔撃!!」

「くっ!!」


 先に仕掛けたのは姉さんであった。

 急速に間合いを詰めると同時に、剣から光が迸る。

 剣気が急速に膨れ上がり、炎のように実体化する。

 ――決まるか?

 鋭く放たれた一撃は、美しい軌跡を描きながらアルカに肉薄した。

 だがその切っ先が、胸を貫かんとした直後。

 アルカは後ろに倒れてそれを回避すると、翼をバネの代わりにして見事に宙返りをする。

 いかに鍛えようとも、人間の体の構造では不可能な芸当であった。


「うおっ!?」

「きゃっ!!」

「と、とんでもないですわ!?」


 躱された斬撃が宙を切り裂き、そのまま衝撃波となって壁に激突した。

 強固な赤魔岩で出来ているはずの分厚い城壁に、たちまち穴ができてしまう。

 剣聖の剣は鋼をも容易く切り裂くと謳われるが……。 

 現実はその噂をもはるかに凌いでいるようであった。

 あの壁は恐らく、同じ厚さの鋼鉄などよりもはるかに頑丈だろう。


「うわ、めっちゃくちゃな威力ね! 大事な壁に穴が開いちゃったじゃない!」


 姉さんの剣撃は、魔族の眼から見ても異常な威力だったらしい。

 アルカは壁に出来た大穴を見て、信じられないような顔をしていた。

 しかし、姉さんの方もまたアルカに攻撃を避けられるとは思っていなかったらしい。

 少しばかり、悔しそうな顔をしている。


「流石に、人間と比べるとやりにくいな」

「普通の人間なら、やりにくいなんてもんじゃすまないわよ」


 アルカはそう言うと、構えを解いてスウッと深呼吸をした。

 いったい、何を仕掛けてくるというのか。

 それまでとは雰囲気の異なる彼女の様子に、姉さんの目つきが鋭くなる。

 緊迫感が満ち、周囲からにわかに音が消えた。

 やがてアルカは石英のような結晶体を取り出すと、それをぽいっと口に放り込む。


「この技を出すのは、百年ぶりぐらいかしらね」

「面白い、見せてもらおうじゃないか」

「では遠慮なく……はああぁっ!!」


 アルカの身体から、にわかに黒い炎が噴き出した。

 いや、これは……身体が炎と一体化している?

 手足の輪郭がぼやけ、噴き出した炎に溶け込んでしまったかのようだ。


「……面妖な。魔族だけあって妙な技を使うようだが、子ども騙しは通用せんぞ!」

「言っとくけど、見た目だけじゃないよ。この技を使った私に、剣士が勝つことはもう不可能だから」

「ふん、何をほざくか」


 振るわれる神速の剣。

 それをアルカは受け止めることも、まして避けることもしようとはしなかった。

 たちまち、磨き抜かれた刃がアルカの身体を両断する。

 うおっ……!?

 惨劇を想像して、俺は思わず目を閉じたくなってしまった。

 だがしかし、実際に起きた現象はその上を行った。


「なに……?」


 身体を真っ二つにされたというのに、平然と微笑み続けるアルカ。

 次の瞬間、彼女の身体は何事もなかったかのように再び一つに戻る。

 とんでもない再生能力……というわけではなかった。

 これはもしや――。


「身体が、炎になっただと……?」


 思いもよらない敵の能力に、姉さんの声が苦々しく響いた――。


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