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第六話 ゴブリンの覇者

「俺も頑張らないと。さあ、かかってこい!!」


 裏口から集落の中へと侵入した俺は、剣を手に声を張り上げた。

 途端に、ゴブリンたちがキィキィと耳障りな声を上げて集結する。

 その数は、ざっと二十から三十と言ったところか。

 よっしゃ、そうこなくっちゃ!!


「ヴァルカン!!」


 炎が渦を巻き、黒剣を包み込んだ。

 俺がいま最も得意とする魔法剣である。

 迫りくるゴブリンの群れ、交錯する剣と棍棒。

 灼けた刃は緑の皮膚をたやすく切り裂き、その血を沸騰させた。

 たちまち肉の焼ける音と聞き苦しい断末魔が響く。


「ギシャアア!! シャアア!!」


 切っては捨てて、切っては捨てて。

 俺はさながらコマのように、ゴブリンの群れの中で踊った。

 するとその勢いに恐れをなしたのだろうか。

 ゴブリンたちは距離を取ると、誰かを呼ぶように叫び出す。


「グラアアアアッ!!」


 たちまち、近くの家の中から少し服装の違うゴブリンたちが姿を現す。

 普通のゴブリンが腰布しか身に着けていないのに対して、家から出てきた連中は皮鎧を装備していた。

 恐らくは、人間の冒険者たちから奪ったものなのだろう。

 傷だらけだが、造りはしっかりとしている。

 顔立ちも精悍で、歴戦の強者と言った風体だ。


「ハイグラスゴブリンかな?」


 俺がそうつぶやいた途端、ゴブリンたちは大剣で斬りかかってきた。

 こいつら、動きがやたらと早い!

 俺がとっさに後ろへ飛びのくと、空振りした剣が地面を砕いた。

 この動きの速さと威力は、間違いなく風の加護のなせる業だろう。


「こりゃ、普通のハイゴブリンだと思ってたら痛い目を見るな!」


 こいつらを舐めてはいけない。

 そう直感した俺は、その動きを止めるため光の魔法を紡ぐ。


「サンティエ!」


 魔力が弾けて、迸る閃光がゴブリンたちの眼を焼いた。

 視界を奪われたゴブリンたちは、目元を手で押さえながらのたうち回る。

 すかさず俺は前傾姿勢を取ると、再び群れへと切り込んだ。

 ゴブリンたちの身体が、瞬く間に鎧ごと両断されていく。

 一匹、二匹、三匹……。

 屈強なはずのハイゴブリンが、瞬く間に切り伏せられた。


「よし、次は……」

「ギシャアアアアアッ!!」

「うわっ!?」


 最後に残った一匹が、とんでもない大声を上げた。

 もはや声というより、爆音か何かに等しい音量である。

 い、一体なんだよこりゃ!?

 頭を直接揺さぶられるような衝撃に、俺は身動きが取れなくなってしまった。

 こいつ、何をするつもりなんだ?

 雄叫びを上げたゴブリンをすぐに睨みつけるが、すぐに力尽きたように倒れてしまう。


「最後の悪あがきだったのか?」


 近づいて顔を持ち上げてみると、その眼からは光が失われていた。

 さきほどの叫びは、死の間際の抵抗だったのだろうか?

 ゴブリンというより、マンドラゴラか何かみたいだな……。

 その不可解な行動に俺が首を傾げていると、不意に背後から強烈な殺気が伝わってくる。


「くっ!!」


 直感。

 俺は考える暇もないうちに、横へ跳んだ。

 その直後、風の塊のような物体が轟音を上げて通り過ぎていく。

 やがて集落を取り囲む塀に衝突したそれは、強烈な爆発を起こした。

 拡散した爆風によって、塀はおろか付近の家までもが吹き飛ぶ。


「……こいつは、もしかしてキングか?」


 振り返れば、そこには今まで見たことがないほど巨大なゴブリンがいた。

 いや、こいつはもはやゴブリンなのか?

 俺よりもはるかに背が高く、筋骨隆々としたその姿にはゴブリンらしからぬ迫力があった。

 さすがに巨人族には及ばないほどにしても、並のオーガよりはるかに逞しい。


「オマエ、ムレアラシタ。コロス!!」

「話した! やっぱりこいつがキングか!」

「コロス、コロシテヤル!!」


 そう言うと、キングは胸を大きく膨らませて咆哮した。

 風が吹き荒れ、キングの周囲で渦を巻く。

 やがて小さな竜巻のようなものが生まれ、キングの持つ巨大な棍棒を中心に塊となった。

 これが、さっき飛んできた風の塊の正体か!


「フキトベ!!」

「ちっ! 吸い込まれる!」


 球でも打つかのように、キングは風の塊を棍棒で弾き飛ばした。

 俺はすぐさまその軌道から逃れようとするが、身体が引っぱられてしまう。

 かろうじて避けることには成功したが、あともう少しで吸い込まれるところだった。

 こりゃ、かなり余裕をもって避けないと危ないぞ!

 俺がそう危機感を抱くと同時に、キングは続けざまに二発三発と攻撃を放つ。


「近づかせないつもりか……! だったら、飛撃!!」


 攻撃をかわしつつも体勢を整えた俺は、キングに向かって斬撃を飛ばした。

 真空の刃が宙を裂き、瞬く間にその太い首を跳ね飛ばす……はずだったのだが。

 あろうことか、棍棒の纏う風が刃を吸い込んで無効化してしまった。

 

「防御もできるのか!」

「オレ、ツヨイ! ムテキ!」

「調子に乗るなよ!」


 なぜだろう、ゴブリンの醜悪な顔が一瞬だがウェインさんと重なって見えた。

 こいつには負けたくない。

 俺の心の中で、再び闘志が燃え上がる。

 あの何でも吸い込む風の防御を、どうにか突破する方法はないものか。

 俺の頭脳が極限まで回る回る。


「吸い込む、吸い込む……そうだ!」


 風の塊に吸い込まれていく砂埃。

 それを見た俺の頭の中で、パッと閃くものがあった。

 俺はすぐさま魔力を高めると、それを炎に転じて放つ!


「焼けろっ!!」


 紅蓮の炎が宙を走る。

 ゴブリンはすぐさま風で防ごうとするが、それは悪手であった。

 炎を吸い込んだ風の塊は、さながら太陽のような状態へと変化を遂げる。

 魔力のたっぷりと込められた炎は、風に吞まれてもそう簡単に消えることないのだ。


「ブフォッ!? ナンダコレハ!!」

「もういっちょ、ヴァルカン!!」

「ヤメロ!!」


 ダメ押しで炎魔法を打ち込む。

 膨張、拡大、そして舞い散る火の粉。

 炎を吸い込んだ風の塊はいよいよ肥大化し、完全に制御不能と化した。

 やがて抑えきれなくなった炎は、次第に輝きを強めて――。


「ウゴアアアアッ!!」


 爆発、閃光、熱風。

 ゴブリンキングの身体が、瞬く間に業火に吞まれたのだった。



いよいよ6月12日頃より、『家で無能と言われ続けた俺ですが、世界的には超有能ようです』の2巻が発売されます!

今回も大きく加筆修正をしておりますので、書籍版の方もぜひぜひよろしくお願いします!

あまり出歩けない昨今ですが、ネット書店様なども充実しておりますのでそちらもご利用いただけると幸いです!

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― 新着の感想 ―
[一言] やはり風属性には火属性が有効ですね。
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