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第四話 Sランクと俺

「ライザ殿はウィンスターの高名な騎士とお聞きしましたが、本当ですか?」


 姿勢を正して、改めて姉さんに問いかけるウェインさん。

 そう言えば、ライザ姉さんは表向き騎士ってことになっていたっけ。

 姉さんはやや反応が遅れつつも、ウェインさんの言葉にうなずく。


「腕は確かだと伺っていますが、いざという時は私を頼ってください。何といっても、Sランク冒険者ですからね! ははははは!!」

「……ああ、承知した」


 うんざりした顔をしながらも、うんうんと頷く姉さん。

 その様子に満足げな顔をしたウェインさんは、続いて俺の方を見る。


「君は……何でも期待のルーキーだとか?」

「いや、そんなことないですよ」

「だろうね、Dランクだし」

「……はい?」


 さすがに、その態度はちょっと失礼なんじゃないか?

 突き放すように言ったウェインさんに、俺は思わずムッとしてしまった。

 別に、自分で自分のことを期待のルーキーだなんて思っているわけじゃないけれどもさ。

 こういう言い方をされると、ちょっとばかりイラっとする。

 姉さんも思うところがあったのか、額にスウッと皺が寄った。


「おい、その言い方はないんじゃないか?」

「別にそんなに気を使う必要はないでしょう。お手伝いなんだから。なぁ?」

 

 ウェインさんが声をかけると、二人の冒険者らしき女性が進み出てきた。

 どうやら彼女たちが、ウェインさんの仲間のようである。

 控えめな雰囲気をしているが、二人ともかなりの使い手だ。

 よく使い古された防具から、キャリアの長さが伺える。


「この子たちは、私のサポートです。常に私が最高のパフォーマンスを発揮できるように、陰ながら支えてくれていますよ」

「サポート? 仲間とは違うのか?」

「そりゃそうですよ。仲間とはあくまで同等の相手に使う言葉ですから。そちらのジーク君も、ライザ殿のサポートなのでしょう?」


 ウェインさんは再び俺を見て、どこか侮るような笑みを浮かべた。

 彼の言う通り、俺と姉さんの実力差は未だに圧倒的だ。

 その点からすれば、俺の存在なんて仲間というよりはお手伝いという方が正しいのかもしれない。

 けど、そうまではっきり言うことはないんじゃないかな……?

 俺が面食らってしまっていると、姉さんの眉間にピシッと青筋が浮いた。

 これは……めちゃくちゃ怒ってるぞ……!!


「……ジークは大事な仲間だ。あまりバカにしないでもらおうか」

「ほう?」

「言っておくが、ジークの方がそなたより強いと思うぞ」


 姉さんがそう言うと、ウェインさんの顔がにわかに険しくなった。

 そりゃそうだ、いくら何でも俺がSランク冒険者より強いはずがない。

 ウェインさんがプライドを傷つけられたと思うのも当然だろう。

 俺は慌てて姉さんの発言を取り消そうとするが、それよりも早くウェインさんが叫ぶ。


「そんなことあるものか! 私はSランクだ!!」

「強さにランクなど関係ない」

「だったら、試してみますか?」

「ちょ、ちょっと!! ねえ……ライザさん!」

「いいだろう、受けて立つ!」


 なんで勝手に引き受けちゃうのかな!!

 俺は全力で首を横に振ったが、もうすでに手遅れ。

 ウェインさんとライザ姉さんは互いにヒートアップして、完全に二人だけの世界に入ってしまっていた。


「幸い、魔界へ出発するまでにはあと数日の猶予があります。その間に勝負をして、どちらが上かはっきりさせるということでどうでしょう?」

「良かろう。で、勝負の内容はどうする? 決闘をして、互いに傷つくわけにもいくまい」

「うってつけの方法があります」


 そう言うと、指をパチンっと鳴らすウェインさん。

 ……この人、いちいちこれをやらないと話をできないのかな?

 俺はたまらず呆れ顔をするが、彼はそんなこと関係ないとばかりに語り出す。


「この街から少し西方に行ったところに、ラグドア平原と呼ばれる場所があるのは知っていますか?」

「名前は聞いたことあるが、そこがどうかしたのか?」

「大規模なグラスゴブリンの群れが住み着いて、付近の生態系を荒らしているらしいのです。その数は何と三百体近いとか」

「三百だと? それほどの数なら、キングがいてもおかしくないな」


 グラスゴブリンというのは、草原を中心に生息しているゴブリンの亜種である。

 風の加護を受けていることが特徴で、通常のゴブリンよりも一回りほど強い。

 そのキング、すなわち群れの頂点ともなれば……Aランクは堅いだろう。

 何だか軽い調子で名前を出されたけれど、かなりの大物だぞ。


「魔界行きがあるので、この依頼は断ろうと思っていました。が、気が変わりました。この群れを共に討伐し、より多くのグラスゴブリンを討伐した方を勝ちとしましょう!」

「それはいい。皆のためになるし、何よりわかりやすい!」


 腕組みをして、満足げに頷く姉さん。

 だから、そんなこと勝手に決めないでって!!

 俺は慌てて姉さんの肩に手をやると、そのまま強引に彼女の顔を振り向かせる。


「姉さん、こりゃいくらなんでも厳しいよ」

「大丈夫だ。このぐらいジークならばできる」

「そう言われても……!」

「仮にも剣聖の弟が、あの程度の男に勝てんようでどうする!」


 にわかに姉さんの顔つきが険しくなり、その身からただならぬ威圧感が発せられた。

 これは……実家で鍛錬をしていた頃の姉さんの気配だ!

 久しくなかった感覚に、俺はたまらず身震いをした。

 理由はよくわからないが、何が何でも俺を勝たせたいという意思がひしひしと伝わってくる。


「……わかった、やれるだけやってみるよ」

「うむ、その意気だ!」


 こうして俺は、ウェインさんと勝負をすることになるのだった……。


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