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第三話 第三回お姉ちゃん会議

 ジークたちがウェインと邂逅していた頃。

 ウィンスター王国の王都ベオグランにある彼の実家では、久しぶりに姉妹四人が集っていた。

 深刻な顔をする彼女たちの話題はもちろん、未だに帰ってこないノアについてである。

 ノアが実家を飛び出して、はや三か月以上。

 姉妹たちの心配もピークに達し、ピリピリとした空気が部屋に溢れている。


「まったく! これだから脳筋には困ったものですわ……!」


 額に手を当てて、大げさに嘆いてみせるアエリア。

 まさか、ノアを連れ戻しに行ったはずのライザがノアの味方になって現地に居ついてしまうとは。

 さすがの彼女も予想できなかったことである。

 ノアはライザを恐れているとばかり思っていたのだが、うまく言いくるめてしまったようだ。


「シエルもシエルでしてよ。勝負に負けるとは情けない」

「しょうがないでしょ? 思ったよりノアが腕を上げてたのよ。あれは想定外だったわ」

「仮にも賢者でしょう? 何とかしなさいな」

「あのねえ……」


 眉間に指を押し当て、シエルはうんざりしたようにため息をついた。

 アエリアは魔法のことをよく知らないため、賢者なら何でもできると思い込んでいる節がある。

 しかし賢者にだって、できないことはあるのだ。


「とにかく、ノアを連れ戻すことが大切」

「そうですわね。ライザが味方に付いてしまった以上、実力行使は難しいですわ。何か策を考えないと」

「策ねえ……。いっそアエリアの力で、ギルドに根回ししたりとかできないの?」

「難しいですわねえ。冒険者ギルドは大陸全土に広がる大組織ですもの。せめてこの国の支部なら、マスターを挿げ替えるぐらいはどうとでもなるのですけど」

「ラージャは遠いからねえ」


 アエリアの率いるフィオーレ商会の本拠地は、ウィンスター王国である。

 そこからラージャまでは、国境をいくつも超えていかねばならない。

 一応、ラージャにも支店を構えてはいるが影響力はほとんどなかった。


「ファムのところはどうなの? なんか融通を利かせられない?」

「……へ? 何の話です?」


 大事な会議の最中だというのに、ろくに話を聞いていなかったらしいファム。

 ごしごしと眼をこするその様子は、ずいぶんと眠そうである。

 真面目な彼女らしくない行動に、アエリアはすぐに怒りを露わにする。


「ちょっとファム! あなた、いま寝てませんでした!?」

「すいません……! 最近はどうにも忙しくて」

「何かありましたの?」


 聖十字教団の聖女であるファムは、常に規則正しい生活を送っている。

 その徹底ぶりは凄まじく、姉妹の誰も彼女が夜更かしをしているところなど見たことがなかった。

 聖女たるもの、常に信徒の規範であれ。

 それが彼女が聖女として掲げるモットーなのである。

 そのファムが寝不足で居眠りするなど、よっぽどの事態が起きているのだろう。


「それが、ラージャ付近に出た魔族の件でいろいろと」

「……そう言えば、魔族のことをすっかり忘れてた」

「そうですわ! ノアは大丈夫でしたの!?」


 思い出したように、強い口調で尋ねるアエリア。

 他の姉妹たちも一斉にシエルの方を見る。


「大丈夫よ、今のところは元気にしてるわ。だいたい、もし何かあったら真っ先に知らせてるわよ」

「それもそうですわね」

「ほっ……」

「危険な気配がしたのは確かだけどね。私も、魔族らしき影を見たし」

「本当ですの?」


 シエルの報告に、アエリアはたまらず渋い顔をした。

 エクレシアもまた、肩をぶるぶるっと震わせる。

 戦う力を持たない二人にとって、魔族はまさしく恐怖の象徴。

 想像するだけでも恐ろしいものであった。


「ええ、ほぼ確定的よ」

「うーん、これは早急に手を打たなくては。いくらライザがいると言っても、危ないですわ」

「ノアが危険!」

「……えっと、そのことなのですが。実は、私がラージャに行くこととなりました」


 弱弱しい声でそう告げると、ファムはごまかすように笑った。

 だが、彼女の予期せぬ宣言に姉妹たちはたちまち騒然とする。

 聖十字教団の聖女が辺境へ向かうことは、王族の巡幸などよりもよほど大事である。

 事態が深刻である何よりの証拠だった。


「半分は私自身の希望なのですけどね。本当は大司教クラスでもいいという話だったのを、自分から行きたいと言ったんです。ノアのこともありますから」

「それでも大事ですわよ! いったい、何が起きていますの?」

「ファム、教えて欲しい」

「私も気になるわ。さすがに、魔族の影を見たぐらいでそこまでの大ごとになるとも思えないし。あなた、私以上のことを何か知ってるのね?」


 情報を持っているらしいファムに、じりじりと詰め寄る姉妹たち。

 その眉間には深い皺が寄り、爛々と輝く眼光はさながら飢えた猛獣のよう。

 彼女たちのただならぬ圧力に、さすがのファムも少し冷や汗をかく。


「その、ここだけの話にして欲しいのですが……」


 声を潜めると、ファムはゆっくりと事情の説明を始めた。

 するとたちまち、姉妹たちの顔が青ざめていき――。


「ま、魔王!? ノアが、ノアが危ないですわ! 助けなくてわ!」

「お、お待ちください!! アエリア、いきなり飛び出してどうするんですか!?」

「ノアが……死ぬ……?」

「な、何とかしなきゃ! て、転移するわよ!」


 混乱して収拾のつかない状態になる姉妹たち。

 普段は冷静なアエリアはいきなり部屋を飛び出そうとして、エクレシアはその場で気を失った。

 シエルに至っては、魔力を練り上げて得体の知れない大魔法を発動しようとしている。

 このままじゃ、最悪家が吹っ飛んでしまうかもしれない。

 焦ったファムは、テーブルを思い切り叩いて言う。


「みなさん、落ち着いて!! そのために私が行くんです、安心してください!!!!」


 聖女の切なる叫びが混沌とした戦場、もとい会議室に響くのだった。


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