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第一話 魔王の血族

「それで、話したいことって何なんですか?」


 受付カウンターの奥にある、ギルドマスター専用の執務室。

 そこに入って扉を閉めたところで、俺はさっそく話を切りだした。

 わざわざ人に話を聞かれない場所まで連れて来られたのだ。

 これで大した用件でなかったら、こちらとしてもちょっと困る。


「……実はな。ケイナ君に、先日のサンプルの調査を進めて貰ったのだがね。驚くべき結果が出たんだよ」

「サンプルって言うと、あの切れ端に付着した血ですか?」


 先日、俺たちがラズコーの谷で遭遇した魔族らしき存在。

 そいつの着ていたローブの切れ端を、シエル姉さんがサンプルとしてこっそり回収していた。

 それには魔族のものと思しき血が付着していて、その調査をケイナさんが行ったというわけだ。


「ああ、その通りだ」

「じゃあやっぱり……魔族の血だったんですね?」

「その通り。それも驚いたことにやなぁ……」


 言葉を区切ると、何やら深刻そうな様子で眉間に皺を寄せるケイナさん。

 それに合わせるように、マスターもまた顔を険しくした。

 にわかに漂い始めた緊張感に、俺たちもたまらず息を呑む。


「そんなに、ヤバかったのか?」

「うん。調査の結果な、あの血には黒竜の因子が含まれとったんよ」

「黒竜? それが、どう大変なの?」


 いまいちピンとこなかったのか、小首を傾げるクルタさん。

 ロウガさんとニノさんも、はてと顔を見合わせる。

 黒竜か……。

 そう言えばどこかで聞いたことがあるような気はするのだけれども。

 どこで聞いたのか、俺もはっきりと思い出すことはできなかった。


「黒竜って言うのは、魔界の王の種族やね」

「お、王!?」

「そうや。黒竜の血を引いとるのは、魔界でも王族や一部の上流貴族に限られとる」

「つまり、あの谷にいた魔族は魔界でも大物であるということだな?」


 険しい顔をしながら、聞き返すライザ姉さん。

 ケイナさんは黙って首を縦に振った。

 道理で、話を聞かれないように俺たちを移動させたわけである。

 こりゃとんでもない大ごとになってきたぞ……!!

 魔界の大物が人間界に現れたというだけでも、大事件なのである。

 ましてそれが、何らかの破壊工作をしていたとなれば……。

 最悪の場合、人間と魔族の大戦争が始まってしまうかもしれない。

 そんなことになれば、国の一つや二つ吹っ飛ぶぞ……!


「すでに今回の一件については、ギルド本部はもちろん王国や教会にも報告を上げさせてもらった」

「当然ですね。とんでもないことですよ、これは」

「その上で、ギルド本部から極秘の依頼が二つ発せられた」

「二つですか?」

「ああ、いずれも極めて重要なものだ」


 そう言うと、マスターはまず俺と姉さんの顔を見た。

 そして軽く咳ばらいをすると、重々しい口調で告げる。


「まず、ジークとライザ殿。二人には聖騎士ウェインのパーティと合流して、ある物を魔界まで届けに行ってもらいたい」

「魔界にですか……!?」

「そうだ、境界の森を超えてもらう」

「……厄介だな」


 ぽつりとこぼすライザ姉さん。

 いやいや、普通は厄介どころの騒ぎじゃない。

 境界の森は、魔界側へ進めば進むほどに生息する魔物が強くなっていく魔境だ。

 しかもその奥地は、数百年もの長きにわたって人が立ち入ったことがない。

 魔族との協定によって、交流が厳しく制限されてきたためである。


「一応、森を抜けるための道自体は存在している。最後に使われたのは三百年前だがな」

「それってもう森に飲み込まれているのでは……」

「だからこそ、君たちに依頼したいのだ。ちなみに、一緒に行動する聖騎士ウェインはS級冒険者だぞ」

「おおお……!!」


 S級冒険者と聞いて、俺は思わず目を輝かせた。

 S級と言えば、大陸に星の数ほどいる冒険者たちの中でも数十名しか存在しない超エリート。

 まさしく冒険者界の頂点に君臨する存在である。

 その実力は凄まじく、文字通りの一騎当千を成し遂げる者もいるとか。

 冒険者の聖地とも言われるラージャなら、そのうち会う機会もあると思っていたけれど……。

 まさか一緒に仕事ができるなんて、思ってもみなかった!!


「S級冒険者……! 会うのが楽しみですね、ライザ姉さん!」

「ふん! S級が何だ、私の方が強いに決まっている!」


 頬を膨らませて、そっぽを向く姉さん。

 よくわからないが、急に機嫌を悪くしてしまったようだ。

 何か気に障るようなこと、言っちゃったかな?

 俺が助けを求めるようにクルタさんたちの方を見ると、みんなやれやれと肩をすくめる。


「まったく、鈍感な奴だな……」

「ですね。ライザさんが可哀想です」

「ま、そういうとこも可愛いと思うよ」


 ロウガさんとニノさんが呆れる一方で、クルタさんは俺を慰めてくれた。

 ええっと、結局何がいけなかったのだろう……?

 俺が困っていると、話題を断ち切るようにクルタさんが言う。


「それで、もう一つの依頼は? たぶん、残ったボクたち三人で受けるんだよね?」

「ああ、その通りだ。クルタ、ロウガ、ニノの三名にはある人物の護衛を引き受けてもらいたい」

「……どなたなんですか?」


 何故か名前を出さなかったマスターに対して、端的に尋ねるニノさん。

 するとマスターは、顎を擦りながら困ったように言う。


「それについてはまだ教えられない。先方からの要望で、ギリギリまで来訪を伏せて欲しいそうなのだ」

「おいおい、護衛依頼で相手を知らないなんてありえねーぜ?」

「うむ、もっともな意見だ。しかし、言えないものは言えないのだ。もう少し待ってくれ」

「……ひょっとして、裏社会の人とかじゃないよね?」

「まさか! 今回の件に関係して来訪される、非常に重要なお方だ」


 マスターがそうまで言うということは、よほど地位のある人物なのだろう。

 ひょっとして、王様でも来るのだろうか?

 クルタさんたちは揃って顔を見合わせる。


「とにかく、二つとも極めて重大な依頼だ。パーティを分けることになって申し訳ないが、よろしく頼む」

「はい!!」


 こうして俺たちは、ギルドからの重要依頼を引き受けるのだった――。


【お知らせ】

書籍版が6月15日頃にGA文庫より発売されます!

既にamazonをはじめとするネット書店で予約が始まっておりますので、ぜひぜひご覧になってください。

今回ももきゅ先生の素敵なイラストがついておりますので、必見です!

また、加筆修正もしておりますのでぜひよろしくお願いします!

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