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二十四話 濁流とスライム

「ちっ、ひどい雨だな!」

「こらあかん、前が見えへん!」


 雷とともに降り始めた雨。

 それは次第に勢いを増し、今では滝のような様相を呈していた。

 横殴りに打ち付けてくるその勢いで、目を開けているだけでも辛いほどだ。

 

「ロウガ、お前のデカイ盾でこの雨を防げないか?」

「無茶言うなよ! いくら俺の盾がデカイって言ったって、こいつは専門外だ!」

「じゃあジーク、何かないのかい? こういうのを防げる魔法!」

「ええっと……」


 結界としてよく用いるサンクテェールの魔法は、不浄なるものを防ぐためのもの。

 雨を防ぐためのものとしては不適格と言うか、そもそも防げない。

 これをどうにかするためには……風の魔法だな!


「みんな、俺の周りに集まってください! 風の結界を張ります!」


 俺を中心として、輪になって集まる五人。

 互いの服と服が触れ合い、わずかにだが体温も伝わってきた。

 ここまで密着すれば、効果範囲は十分だろう。

 すぐさま魔力を練り上げると、魔法名を叫ぶ。


「ラファル・ミュール!!」


 不可視の風の膜が、たちまち俺たち六人を覆った。

 雨粒はその壁を破ることが出来ず、瞬く間に四散していく。

 ふぅ、これで一息ついたな。

 あとはこの膜から外に出ないように、進んでいくだけだ。


「やれやれだな。だが……」

「うん、こうなってくると少し心配やね。このまま雨の量が増えると、あかんのちゃう?」


 もしも、この雨が止まずにラズコーの谷が水で溢れてしまったら。

 谷の奥に潜んでいたスライムは、たちまちそれを吸い込んで巨大化することだろう。

 あのスライムが、もし山のような巨体を得てしまったら。

 想像するだけでも恐ろしい。

 最悪、鉄砲水のように周囲の街を呑み込んでいく可能性まである。


「とにかく、急いで谷へと向かおう。ここから走ればすぐのはずだ」

「ああ、そうだな。急ごう!」


 全速力で走りだす姉さん。

 ここで俺は、彼女の背を見て慌てて思い出す。


「あ、姉さん! ちょっと待って!」

「……なんだ?」

「これを!」


 そう言うと俺は、マジックバッグから例の衣を取り出した。

 姉さんのために購入し、付与魔法を掛けたものである。

 それを広げた姉さんの表情が、たちまちほころぶ。


「おおお! これは私の新しい防具か?」

「はい! 前のやつは、あのスライムに溶かされちゃったので」

「……だがいいのか? またあのスライムに溶かされかねんぞ?」

「大丈夫です。ちゃんとそうならないように仕掛けがしてあるので」


 そう言うと、俺はグッと親指を立てた。

 まだ実際に検証はしていないが……これでも入念に考えた結果の産物だ。

 確実に動作をさせる自信はある。

 それに何より、一人で突っ込んでいきそうな姉さんがこのままだと不安だった。

 あのスライムの酸をまともに浴びれば、いくら姉さんと言えどもただじゃすまないからな。

 俺はライザ姉さんを…………守りたい。


 この気持ちが少しでも伝わってくれたのだろうか。

 ライザ姉さんはすぐに衣を羽織ると、心底嬉しそうな顔をする。

 こんな顔の姉さんを見るのは、久しぶりだ。


「ありがとう、さすがは我が弟だ!」

「やだな、急にそんな褒めないでくださいよ」

 

 姉さんが俺を褒めるのなんて、一体何年ぶりだ?

 もちろん悪い気はしなかったが、何だかくすぐったかった。

 ここ数年ほどは、ずっと文句を言われてばかりだったからなぁ……。


「さて、そろそろ急ぐぞ! この雨、なんか嫌な予感がする」

「ボクも同感だ。何かがちょっと違うんだよね」

「よし、ケイナ! 私の背中に乗れ!」

「げっ! また……あれをやるん?」


 腰を低くすると、パンパンと背中を叩いて示す姉さん。

 それを見たケイナさんは、露骨なまでに嫌そうな顔をした。

 そう言えば、ラージャの街に来るときもケイナさんは姉さんにおんぶされてきたんだっけ。

 あの時のケイナさんは、完全に生気を失っていたからな……。

 よっぽどきつかったんだろう。


「この中では、ケイナが一番足が遅いんだ。こうしないと間に合わん!」

「ぐぐぐ……正論やなぁ」

「ジークも、ボクの背中に乗るかい? 高所恐怖症は、まだ治ってないだろう?」

「お姉さま! わざわざそんなことしなくても、私がやります!」


 クルタさんに代わって、俺に背中を向けるニノさん。

 いやいや、女の子の背中におんぶしてもらうなんてさすがにできないよ!

 そもそも俺とニノさんでは、俺の方が明らかに身長も高いし。


「大丈夫ですよ! それに夜なら、谷底も見えないでしょうし」

「本当にいいのかい?」

「遠慮はいりませんよ。私も冒険者、人を運ぶぐらいの体力はあります」

「いいんです! それより急ぎましょう!」


 話を打ち切りにすると、俺はそのまま五人を引き連れるように走り出した。

 こうして森の中を進むこと小一時間ほど。

 次第に標高が上がっていき、地形も岩だらけとなってくる。

 そろそろ、ラズコーの谷が見えてくる頃だな。

 俺たちの足が自然と早まった。

 すると――。


「おいおい……もう手遅れだったのか?」

「ここからでも見えるなんて……」

「嘘やろ、なんやあれ!」


 膨張し、信じがたいほどの大きさとなったグラトニースライム。

 その巨体が山に張り付き、呑み込まんとしていた――!


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― 新着の感想 ―
[一言] 姉が一人増えるたびに、 姉の強さを見せつけるための敵が用意されそうな予感 (登場する姉と相性のいい強敵) というかフラグ立ってるな
[一言] はいみなさんご一緒に~ 知 っ て た
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