二十一話 ライザとクルタの料理
最近忙しくなってまいりまして、毎日更新から隔日更新へと切り替えることとしました。
その分だけ中身を練るようにしますので、これからもよろしくお願いします!
ラズコーの谷へと向かう道中のこと。
俺たち四人とケイナさんは、谷へと通じる森で野営をした。
街を出る時間が少し遅かったので、途中で夜を迎えたのだ。
応接室で増殖させたスライムの処理に、かなり手間を取ったからなぁ……。
最終的に、バーグさんのお店まで持って行って炉で焼き尽くしてもらった。
さすがのグラトニースライムも、溶鉱炉の圧倒的な火力には敵わず灰となったが……。
逆にそのぐらいしなければ処理できなかったのだ。
「さて……そろそろ食事の支度をしようではないか」
パンと手を叩く姉さん。
彼女は背負っていたマジックバッグを開くと、すぐさま調理器具を取り出す。
何だか姉さん、やけに気合が入ってるな?
ピカピカに磨かれた鍋を持つ顔は、緊迫した状況にもかかわらず嬉しそうだ。
「こんなときに、のんきに料理しとる場合なん?」
「こういう時だからこそ、落ち着いて食事をするのだ。腹が減っては戦はできぬからな」
「その意見には、ボクも賛成かな。何が起きるか分からないし」
「そうですね。英気を養うのは重要です」
姉さんの言葉に、クルタさんたちも同意する。
こういう時だからこそしっかり食べようというのは、確かにその通りだな。
ラズコーの谷へ行ってしまったら、食事を取る時間もないかもしれないし。
「料理は私がやろう」
「え? 姉さん出来るんですか?」
俺がそう尋ねると、姉さんはふふんと自慢げに鼻を鳴らした。
彼女は手にした包丁をくるくるっと回すと、自信満々に答える。
「もちろんだとも。そう言えばジークは、私の料理を食べたことはなかったか」
「ええ……まあ」
実家の屋敷にはコックさんがいたからなぁ。
姉さんたちが料理を作る機会自体が、ほとんどなかった。
たまにあるとしても、もっぱらアエリア姉さんの担当だったな。
商会の伝手で珍しい食材を仕入れては、自ら料理していた。
美食家は自分でも料理をする人が多いというが、アエリア姉さんはまさにそのタイプ。
いろいろとこだわって、いつもプロ級の料理を作っていた。
一方で、ライザ姉さんは……美味しそうにご飯を食べていたという印象しかない。
作っていた記憶はないというか、そもそも料理ができるのか?
何か、黒い塊とかそういうのを生み出しそうな気配しかしない。
「なんだ、その渋い顔は? まさか、私が料理できないと思っていたのか?」
「……だって、姉さんがしてるとこ見たことないし」
「それは心外だな。しないだけであって、できないわけじゃないぞ。一人で修業の旅に出ることもあったしな」
……言われてみれば。
剣聖になる直前の時期に、大陸各地を巡る修行の旅に出ていたっけ。
旅先で野営をした時に自分で料理をしたことぐらいは、当然あるだろう。
そう考えれば、できない方がむしろ不自然……なのかもしれない。
「そういうことなら、ボクも手伝うよ」
俺が渋い顔をしていると、クルタさんが手を上げた。
彼女が加わってくれるなら、少し安心できるだろうか。
何となくだけどクルタさんってそういうの出来そうなイメージあるし。
「露骨に安心した顔をするな! いいだろう、私が腕によりをかけてうまいものを作ってやる!」
「お、そいつは楽しみだな!」
「せやね、待っとるで!」
完全に傍観者のような気分で煽るロウガさんとケイナさん。
それを受けて、姉さんとクルタさんはますますヒートアップした。
二人は互いに顔を突き合わせると、視線をぶつけて火花を散らせる。
うわぁ、何だか思わぬ流れになって来たぞ……!
「ニノ、手伝って!」
「はい、お姉さま!」
「負けないぞ! ならば、こちらは包丁二刀流だ!」
こうして、突如として始まってしまった料理対決。
俺は意外にも手際よく調理を進めていく姉さんの手元を、固唾をのんで見守っていた。
するとここで、ふとケイナさんが水筒の水を飲みながら言う。
「そう言えば、さっきからちょっと暑ぅない?」
「そりゃ、目の前であんな対決してればそうなりますよ」
「いやまあ、それもあるんやろうけど……普通に気温自体が高いような?」
首を傾げるケイナさん。
言われてみれば、そんなような気がしないでもない。
心なしか、ムシムシと湿度が高いような感じもした。
「こりゃ、一雨来るかもしれねえな」
「それ、本当ですか?」
「ああ。だが心配するほどにはならねえだろ。ラズコーの谷が水没するなんて、俺も聞いたことがねえからな」
一瞬不安げな顔をした俺に、平気平気と余裕を見せるロウガさん。
冒険者歴十年以上のベテランが言うのだ。
ここはまあ、安心してもいいだろう。
俺がほっと一息ついたところで、姉さんたちの料理の方も終わったようだ。
「よし、できたぞ! 特製ビーフシチューだ!」
「こっちは特製茸入りバターライスだよ!」
「付け合わせのサラダです、どうぞ」
姉さんたちは、三人それぞれに料理を差し出してきた。
クルタさんの手伝いに入ったニノさんも、どうやら一品任されたらしい。
どれ……まずはクルタさんのバターライスから食べてみようか。
「んッ! 香ばしくって、美味しい! お米がパラっとして口の中がべたつかないですね。茸の旨味もすごくよく出てます!」
「ふふふーん!! ま、ボク自慢のメニューだからね!」
「次は……姉さんのシチューですか」
果たして……ちゃんと美味しいのだろうか?
見た目は及第点以上、匂いは……悪くない。
ワインでも使ったのだろうか、ほのかにフルーティーな香りがする。
それに肉の脂に由来する食欲をそそるような匂いも混じっていて、実に美味しそうだ。
料理ができると言うだけのことはあるというか……これは予想以上かもしれない。
「いただきます!」
緊張の一瞬。
俺はゆっくりと、スプーンをシチューが入った器へと伸ばすのであった。
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