三話 依頼争奪戦!
「ふぅ……昨日は大変な目に遭ったな」
肩をゴリゴリと回しながら、つぶやく。
あの三人、容赦なく引っ張って来たもんなぁ……。
途中で本当に腕が抜けるかと思ったぐらいだ。
姉さんはわからなくもないけど、クルタさんはどうしてあんなに俺を誘いたがったんだろうなぁ。
「よう! 昨日は災難だったな」
「ロウガさん、そう思ってるなら助けてくださいよ」
「ははは! 美少女三人に引っ張られるなんてなかなか経験できないぜ。むしろ楽しんでおけよ」
「いや、一人は姉ですし。クルタさんたちにしても、別に特別な感情はないと思いますよ?」
俺がそう言うと、ロウガさんは両手を上げてやれやれとため息をついた。
彼は呆れた顔をすると、わかってないなとばかりに語る。
「いやいや。ニノはクルタちゃんに従ってるだけだと思うが、クルタちゃんの方は本気だと思うぞ? 魔族に囚われていたところを颯爽と助けられたんだ。惚れるのも当然だろう」
「いやでも、結局はヒュドラを倒したのって姉さんですし」
「魔族を倒したのはお前さんなんだろ? それで十分だって」
腕組みをしながら、うんうんとうなずくロウガさん。
ううーん、そういうものなのかねぇ……。
クルタさんは強くて美人な先輩冒険者だ。
性格も悪くないし、もし俺のことを想ってくれているならとても嬉しい。
けど、勘違いだったら恥ずかしいしなぁ……。
なかなか、確かめようがないよな。
「二人して、何を話してるんだい?」
「うわっ!?」
いつの間にか、クルタさんとニノさんが背後に立っていた。
まさか、今の話を聞かれていたんじゃなかろうな?
俺はとっさに警戒したが、幸いにも特にその様子はなかった。
「ロウガが早く来てるなんて珍しいね。何かあったのかい?」
「言われてみれば。いつも朝は眠そうにしているのに変ですね。悪いものでも食べましたか?」
怪訝な顔をするクルタさんとニノさん。
そのどこか非難めいた眼差しに、たちまちロウガさんが反論する。
「俺だっていつも朝帰りしてるわけじゃねえよ! ……昨日、研究所のやつらが来るって言ってただろ? だからそろそろアレが出るんじゃないかと思ってよ」
「ああ、アレですか。確かに今日あたりから出てもおかしくないですね。それなら納得です」
「だろ?」
「その……アレって何ですか?」
俺が尋ねると、ロウガさんは一瞬ポカンとした顔をした。
しかしすぐに手をついて納得した顔をする。
「ああ、そうか。ジークはまだ初心者だったもんな」
「アレっていうのは、ギルドから出される事前調査依頼のことさ。研究所の連中が来る前に、ギルドの方でもあらかじめ簡単な調査をしておくんだよ」
「へえ。でも、そんな依頼がおいしいんですか?」
「そのままだと、楽だがあまり旨味のない依頼だ。だから参加者を集めるために、ギルドへの貢献度がうんと高く設定してあってな。ランクを上げるにはうってつけの依頼なんだよ」
へえ、なるほど。
それでロウガさんが気合を入れていたってわけか。
最近、早くAランクになりたいってよく言ってたもんなぁ。
「俺もそろそろ昇格してえからな。まだまだ、ジークにランクで負けたくねえからよ」
「無駄な見栄ですね。実力ではもう明らかに負けているのに」
「うるさいな、男には張らなきゃいけねえ見栄ってものもあるんだよ! ……だいたい、ニノも食いついてたじゃねえか」
「私はただ、クルタお姉さまと同じランクになりたかっただけです。他に理由はありません」
「本当か?」
「……まあまあ、落ち着いて。仲間割れなんかしてたら、他の連中に大事な依頼を持ってかれるよ?」
そう言って周囲を見渡すクルタさん。
気が付けば、朝で人気のなかったギルドの中もすっかり冒険者でいっぱいになっていた。
みんな、事前調査依頼が目当てなのだろうか。
まだ今日の分の依頼が張り出される前の掲示板を、しっかりと注視している。
「お、来ましたね!」
やがてカウンターから、依頼書の束を持った受付嬢さんが姿を現した。
彼女は小さな脚立に乗ると、掲示板の上から順番に依頼書を張り付けていく。
「事前調査依頼にはギルドのデカい判子が押してある。まずはそれを探すんだ」
「取りに行くのは受付嬢が依頼書を全部張り終わってから。その前に出て行くのはここのルール違反になるよ」
軽くルール説明をするロウガさんとクルタさん。
ギルドの判子って言うと、入り口にも掲げられてる獅子の紋章のことかな?
えっと、それらしきものは……あった!
掲示板の左上に、赤い獅子の判が押された依頼書が貼られていた。
内容は……この場所からだとよくわからないな。
とりあえず確保して、中身は後で確認するか。
「よいしょっと。はい、みなさんどうぞ!」
「っよし!」
「もらったあぁ!!」
「渡さねえぞ!!」
始まる争奪戦。
うお、思った以上に激しいな!!
屈強な肉体を持つ冒険者たちが、互いに押し合いへし合い。
簡単には身動きすら取れないようなありさまとなる。
それだけ、事前調査依頼は美味しいということなのだろう。
これはぜひとも、ゲットしなくては……!
「ええいっ!!」
俺は全力でジャンプをすると、そのまま掲示板の上部にあった依頼書を引きはがした。
そしてそのまま、人混みを避けながら後ろへと下がる。
それから数十秒後。
俺が待つテーブルに、少ししょんぼりした顔のクルタさんたちが戻ってきた。
どうやら、依頼の確保に失敗してしまったらしい。
「いやぁ、油断した! 今回は勢い凄かったねぇ!」
「ここ最近は、魔物の生息域が不安定で仕事を休んでる人も多かったですからね。その影響だと思います」
「ま、仕方ねえな。ジークが確保したようだから、とりあえずそれを見せてもらおうぜ」
「はい、どうぞ!」
俺はすぐさま丸まっていた依頼書を広げると、みんなの前に差し出した。
すると――。
「……こいつを引いたかぁ」
「ジーク君らしいというか、何というか……」
「ある意味、安定していますね」
……な、なんだ?
俺が持ってきた依頼って、そんなにヤバい奴だったのか?
渋い顔をした一堂に、俺は何とも言い難い不安を覚えるのだった。
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