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第八章最終話 新たなる街

「そりゃあっ!!」


 森に向かって斬撃を放つライザ姉さん。

 宙を飛ぶ真空の刃が、たちまち木々を薙ぎ倒していく。

 森の中にぽっかりと空き地が出来上がった。

 さらに残った切り株を、今度はシエル姉さんが魔法で焼き払っていく。


「……だいぶ土地もできて来たわね」


 後ろを振り返りながら、額の汗を拭うシエル姉さん。

 つい数時間ほど前まで深い森だった場所が、今ではもうすっかり更地と化していた。

 土地の広さだけならば、既に村どころか小さな町が入るぐらいである。

 剣聖と賢者が本気で開拓をすると、驚くほどに効率がいいらしい。


「しかし、行く場所が無いから新しく街を作ろうなどとは。アエリアもとんでもないことを考える」

「いいんじゃない、けっこう楽しそうだし」

「だが、仮に街を作ったところで国に取り込まれるのが関の山じゃないのか?」

「そこについては、ファムがいろいろと根回しするみたいよ。対外的には、魔族の侵攻に備えた教会領のひとつってとこに落ち着くんじゃない」


 ファム姉さんの方に眼を向けるシエル姉さん。

 実際、既に大陸には教会の領地として国際的に認められた都市はいくつか存在する。

 新たにできるこの街も、将来的にはその一つに加わるらしい。

 たった一週間ほどの間に、そこまで手配を済ませてしまうとは……。

 アエリア姉さんはもちろん、ファム姉さんの行動力も大したものだ。


「みんなー! ご飯できたよー!」

「はーい!!」


 クルタさんたちに呼ばれて、切り開いた土地の中心部へと移動する。

 するとそこには、驚いたことにいくつもの建物が出来ていた。

 アエリア姉さんの手配した建設業者が、急ピッチで作業を進めたらしい。

 そのうち、二階建ての酒場らしき建物に俺たちは入っていく。


「よっ! 先に食べてたぜ」

「うわー、けっこう豪勢じゃないですか!」

「みんな身体を使ってるからねー、アエリアさんに頼んでいい材料を用意してもらったんだ」

「なかなか精が付きそうだな」


 そういうと、さっそく骨付きの肉を頬張るライザ姉さん。

 こうして俺たちが昼食を食べ始めると、アエリア姉さんがやってくる。


「ふぅ、とりあえず最低限の手配は済ませましたわ。これであと一か月もすれば、基本的な街の形は出来上がりますわよ」

「ほんとですか?」

「ええ。ライザとシエルのおかげで思った以上に早く森を切り開けましたし、モンスターの被害も予想以上に少なかったですからね」

「それについては、ボクたちのおかげだからねー」


 腕組みをして、誇らしげにうんうんと頷くクルタさん。

 モンスターから作業員さんを守るのは、主に彼女たちの役目だった。

 被害が出ていないということは、それだけ頑張ったということなのだろう。

 奮闘の証なのだろうか、よくよくみると鎧に傷が増えている。


「そろそろ私の方で魔除けの儀式をしますので、モンスターもほとんど入ってこなくなるでしょう」

「助かりますわ。あとは外壁を作れば、もう安全ですわね」

「そっちについては私に任せて。土魔法でいいのがあるから」

「壁が出来たら言って、装飾して名所にする」


 どこからか彫刻刀を取り出し、気合十分のエクレシア姉さん。

 こりゃ、またとんでもない作品が生まれそうだなぁ。

 それ目当てに観光客がたくさんやってくるかもしれない。


「街が落ち着いたら、私は周辺のモンスターを間引いておこう。このままでは、普通の冒険者では狩場として利用できんからな」

「俺も手伝いますよ。姉さんに任せといたら、絶滅させかねませんから」

「む、私を何だと思ってるんだ?」


 そういうと、拗ねたような顔をするライザ姉さん。

 それを俺がまあまあと宥めていると、ここでロウガさんが言う。


「こうなってくると、そろそろあれを決めないとな」

「何ですか?」

「名前だよ。いつまでも名無しの街じゃ格好がつかねーだろ」

「それもそうですわね。すっかり失念しておりましたわ」


 ポンッと手を突くアエリア姉さん。

 言われてみれば、街の名前については誰もまだ考えていなかった。

 どの範囲を街とするかすら、ついさっき定まったような状況なのだから無理もない。

 うーん、どうしよう?

 こういう時に頼りになりそうなのは、エクレシア姉さんのような気がするけど……。

 その場にいた誰もがそう思ったのか、自然と視線が集中する。

 すると――。


「ムニュメニューンがいい」

「…………エクレシア、あなたってネーミングに関するセンスだけはないんですのね」

「それは心外。アエリアよりマシ」

「なんですって? そんなぬるっとした名前より、はるかにマシな名前を思いついてみせますわよ!」


 まさに売り言葉に買い言葉。

 アエリア姉さんは軽く顎を撫でながら、すぐさま自信に満ちた顔をして言う。


「ブリリアダイヤモンドキャッスルとかどうでしょう?」

「長い! 派手過ぎ!」

「そういうシエルは何がいいんですのよ!」

「そうねえ、森の畔だから……フォレストサイド?」

「安直ですわねえ……」

「ブリリアダイヤモンドキャッスルよりはマシよ!」

「ゼノガゼスなんてどうかな?」

「それ、響きだけだろ?」


 ああだこうだと言い争いを始めてしまう姉さんたち。

 そこへさらに、クルタさんたちまでもが加わって収拾がつかなくなってしまう。

 ……何だか変な名前に決まってしまいそうだし、こうなったら俺も意見を出すべきかなぁ?

 そう思い始めたところで、俺はふとある単語を思いつく。


「……アーク、なんてどうですか?」

「んん? どういう意味ですの?」

「古代の方舟の名前です。大陸中の生き物を載せた方舟みたいに、誰でも受け入れる街になってくれたらなって」

「いいじゃねえか、俺は賛成だ」

「流石はノア、やりますわね」

「反対する理由がないわ」


 やがて、自然と拍手が起こり始めた。

 こうして新たな街アークが誕生し、俺たちの新生活も始まるのだった。

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