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第三十四話 第一回拡大お姉ちゃん会議

「では第十二回、拡大お姉ちゃん会議を始めますわ」


 男爵叙爵の話を聞いた、その日の夕方。

 俺たちパーティと姉さんたちは、フィオーレ商会の会議室へと集まっていた。

 お姉ちゃん会議などというゆるいお題目の割には、皆緊張した空気を纏っている。

 ……というか、お姉ちゃん会議っていったい何なのさ。

 第十二回とか言ってるけど、俺がいない間にそんなに会議してたの?


「さてと、本日の議題は……ノアが男爵になることですわね」

「いつかはなると思ってたけど、思ったより早かったわ」

「そうですね、ずっと無理なら私が推挙しようと思っていましたし」


 サラッと恐ろしいことを言い始める姉さんたち。

 俺がいずれは貴族になることが確定していたような口ぶりだ。


「それで問題なのが、ノアの今後ですわ」

「今後って、男爵になっても領地は貰わないですよね? だったら、大して変わらないのでは」

「……いえ、男爵ともなるといろいろと変わりますわ」


 わかってないとばかりに肩をすくめる姉さん。

 彼女は俺に近づいてくると、スッと人差し指を額に当てる。


「いいですの、ノア。男爵となれば正式に貴族階級の一員、それにふさわしい振る舞いが求められるようになりますわ」

「それは何となく」

「貴族らしい振る舞いとなりますと、当然ながら冒険者は続けられなくなりますわよ?」


 アエリア姉さんにそう言われて、俺はハッとしてしまった。

 冒険者を続けられないとなれば今の俺の生活は根本的に変わってしまう。

 ラージャを離れることになるだろうし、クルタさんたちとも仲間ではいられなくなる。


「でも貴族でも冒険者をやってる人はいるよ?」

「あれは当主ではない立場の方々ですわ。ですが、ノアが新たに男爵となれば当主ということになります。冒険者として活動することは認められないでしょうね」

「そ、そんな……」


 アエリア姉さんの返答を聞いて、愕然とした顔をするクルタさん。

 同様に、ロウガさんやニノさんも渋い表情をする。


「いずれこうなるんじゃないかって気はしてたが……早かったな」

「ええ、超スピード出世です」

「うぅ、ジーク……」


 今にも泣きだしそうな顔で、俺を見つめてくるクルタさん。

 その訴えかけるような目線につられて、俺も胸を締め付けられるような思いがする。

 

「……叙爵の話、断ることはできないんですか?」


 口から自然と、そんな発言がこぼれた。

 そもそも、貴族になりたいと思ったことなんてないのだ。

 それで冒険者を続けられなくなるというのならば、ならなければいい。

 非常にシンプルな結論だが、ここでライザ姉さんが渋い顔で言う。


「それもなかなか難しいだろう。相手の面子を潰すことになるからな」

「そうね。意思決定にはかなりの大物が絡んでるだろうし……。最悪、王も動いてるかも」

「断るのは難しい」


 口々に難しいという姉さんたち。

 貴族や国にとって、面子というものは時に何よりも重要なものである。

 それを潰すということは、ある意味で喧嘩を売っていると言っても過言ではない。

 国を相手にそれをやるのは、相当の覚悟がいるだろう。


「ノア、これはあなたにとって重要な判断となりますわ。大人しく貴族となるか、それとも王国に逆らってこのまま冒険者を続けるか」

「……そんなの、決まってるじゃないですか」


 俺がそういうと、姉さんたちははぁっと深いため息をついた。

 そして、どこか諦めたような顔で言う。


「そういうと思った」

「私たちの言うことも聞かなかったノアですものねえ」

「だが、王国と喧嘩をするとなるとラージャに居続けるのは難しいかもしれん。最悪、街の自治にも口出ししてくるかもしれんぞ」

「ジークと一緒にいられるなら、他の国にでも行くよ?」


 すかさず、クルタさんが嬉しいことを言ってくれた。

 ラージャに屋敷を持っている彼女が、街を離れてもいいと言ってくれるなんて。

 ロウガさんやニノさんも、彼女に同意しながら俺の手を握ってくれる。

 ……これまで、幾多の冒険を共に超えてきた仲間たち。

 彼女たちとの間に育まれた絆を感じて、俺はつい涙をこぼしそうになってしまう。


「おいおい、泣くことはないだろ?」

「そうだよ、仲間なんだから当然だよ」

「みんな……」


 自然と体を寄せ合うような格好となる俺たち。

 するとそれを見た姉さんたちは、相変わらず険しい表情をしながら言う。


「国と問題を起こした人間を、他国もそう簡単には受け入れないかもしれませんわ」

「それでも、俺はみんなと一緒に冒険したいよ」

「ボクたちもそう! まだまだ冒険し足りないよね!」

「決意は固いのですね?」

「ええ」


 他の姉さんたちとは違って、少し心配そうな顔をしながら問いかけてきたファム姉さん。

 それに対して、俺は深く頷きを返した。

 俺の中では、完全に心が決まっていた。

 今さら何を言われても揺らぐつもりはない。

 すると、その意志の頑強さを察したのかアエリア姉さんが諦めたように言う。


「……わかりました。そこまで言うならば、私たちも協力しましょう」

「協力って、どうするつもり?」

「それは後でのお楽しみですわ。ふふふ、忙しくなりますわよ!」


 そういうと、先ほどまでとは打って変わって楽しげな顔で笑うアエリア姉さん。

 アエリア姉さんがこの顔をするときは、だいたい大きな計画をしているときなんだよな……。

 俺は姉さんの笑顔を心強く思いながらも、何かありそうだと少し怖く感じるのだった。


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