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第三十二話 褒賞

「よ、見舞いに来たぜ」


 赤い月の夜から数日後。

 俺は教会の一室で戦いの傷と疲れを癒していた。

 そこへ一足先に回復したロウガさんたちが、お見舞いにやってくる。

 その手に抱えられた籠には、果物がどっさりと入っていた。


「ちょうど、市場でいい林檎が売ってましたよ」

「うわ、おいしそう!」

「さっそく剥きますね」


 そういうと、ナイフを取り出して皮むきを始めるニノさん。

 しかし、その手つきはどうにも危なっかしいものだった。

 皮をむくというより、削ぎ落すとでも言った方が適切な有様だ。

 見かねたクルタさんが、ニノさんから林檎を取り上げる。


「相変わらず不器用なんだから」

「すいません、お姉さま」

「謝らなくていいよ。この失敗した奴は……ライザさんはどこ?」


 ……失敗作をナチュラルに姉さんに押し付けようとしてる!

 俺は何とも調子のいいクルタさんに、やれやれと肩をすくめた。

 そして、部屋の奥にあるカーテンで仕切られた一角を見やる。


「あそこで寝てます。まだ治療中ですね」

「あのライザさんが、まだ?」

「外傷は意外と大したことなかったみたいですけど、鏡返しを使ったのが効いてるみたいで」

「……あー、やっぱりあれライザさんでも無理があったんだ」


 納得した様子した様子で、うんうんと頷くクルタさん。

 相手の技をそっくりそのまま跳ね返してしまう東方剣術の奥義、鏡返し。

 それを見よう見まねで発動することには、剣聖と言えども相当に難しかったようだ。

 治療をしたファム姉さんによれば、常人ならば指一本動かせないような状態だったらしい。

 それですぐに、他の姉さんたちと軽い言い争いをしていたというのだから……。

 まったく、大した人である。


「ファム姉さんの見立てだと、あと三日もすればよくなるそうですけどね」

「なるほど。じゃあ、あと三日は私が有利ってことか……」


 顎に手を押し当て、クルタさんは何やら考え込み始めた。

 はて、有利とはいったい何のことだろう?

 まさか、ライザ姉さんに決闘でも挑むつもりなのか……?

 俺がそんなことを考えていると、不意にアエリア姉さんの声が聞こえてくる。


「あらあら、わたくしたちの存在を忘れているのではなくて?」

「アエリアさん、聞いてたんですか」

「わたくし、地獄耳ですもの」


 ふふんっと髪をかき上げるアエリア姉さん。

 地獄耳って、それはいいことなのだろうか?

 俺は疑問に思ったが、そこはあえて突っ込まなかった。

 

「そう簡単にはいかないか……。それで、アエリアさんはどうしてきたの?」

「ノアにいい知らせがありまして」


 そういうとアエリア姉さんはやけにいい笑顔をした。

 ……経験上、この顔をするときの姉さんはだいたい厄介な話を持ち込んでくるんだよなぁ。

 俺は表情を崩さないように気を付けつつも、身構える。


「ポイタス家については知っているでしょう?」

「ええ。確か、魔剣に操られていた騎士の大半がこの家の所属でしたよね」

「そのポイタス家を通じて、今回の皆様の活躍が王国に伝わったようなのですの。それで王国の方から皆様に褒賞が出ることになりましたのよ」

「……珍しい。普段は冒険者のことなんて放置してるのに」


 どこか呆れたような口調で言うクルタさん。

 それに同意するように、ロウガさんやニノさんもうんうんと頷く。

 そもそも、ラージャは国から自治を認められた独立都市。

 名目上の総督はいるが、街の運営は住民たちにほぼ全面的に任されている。

 国が口を出してくることなど、ほぼほぼありえないのだ。


「それだけ、あなたたちの為したことが大きいということですわ」

「なら、その褒賞とやらには結構期待できそうだなぁ」


 ……豪遊することでも考えているのだろうか?

 ロウガさんが顔を緩めながらそう言った。

 するとクルタさんが、分かってないなとばかりに言う。


「言っとくけど、こういうのって基本は勲章とかだからね。お金はもらえないよ」

「え、マジか?」

「マジマジ。だから、貴族関連はあんまり好きじゃないなー」

「んだよ、期待して損したぜ」

「ったく、ロウガはいつも現金なんですから」


 やれやれと大きなため息をつくニノさん。

 しかしまあ、ロウガさんの気持ちもよくわかる。

 勲章なんて持ってても、基本的にめんどくさいだけだからなぁ。

 姉さんたちもいくつか持ってたはずだけど、おかげで夜会にしょっちゅう呼ばれて大変だとか。

 俺も勲章を貰ったら、そういう会にも出ないといけないのかな?


「恐らく、あなた方には騎士勲章あたりが授与されるでしょう。問題はノアですわね」

「……もっと大変なのが渡されると?」

「勲章で済めばいい方ですわ。私の予想ですと、恐らくは……」


 目を閉じて、何やらもったいぶるように間を空けるアエリア姉さん。

 いったいなんだ、何が起きるっていうんだ?

 たまらず俺が息を呑むと、アエリア姉さんがゆっくりとした口調で告げる。


「ノア、あなたには爵位が授与されますわ」


 え、俺が貴族になるの!?

 予想を超えた流れに、俺は思わず固まってしまうのだった。


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