第三十話 せめぎ合う光
「わっ!」
宙に放り出された俺は、どうにか途中でバランスを取った。
相変わらず、みんな俺を何だと思ってるんだ……?
心の中でわずかな不満を抱きつつも、今はそれどころではない。
メガニカの姿を正面に捉え、そのまま聖剣を構える。
そして――。
「うおおおおっ!!」
「はああああっ!!」
ぶつかり合う力と力。
暴走する魔力に苛まれながらも、メガニカは魔力の刃で聖剣に応戦した。
白と黒の光が交錯し、衝撃が周囲を襲う。
ともすれば、このまま弾き飛ばされてしまいそうだ。
クッソ、身体はボロボロのはずなのにまだこれほどの力が残っているとは……!
魔界の公爵の底力は、伊達ではないらしい。
押し返してくる力の強さに、腕だけではなく全身が痺れてきてしまう。
「いけ、ノア!!」
「ジーク、頑張って!!」
「負けんじゃねえぞ!!」
やがて意識が遠のきそうになったところで、地上から声援が聞こえてきた。
俺は最後の気力を振り絞ると、どうにかメガニカを押し切ろうとする。
しかし、ここで退けば負けるとわかっているのだろう。
メガニカも渾身の力を込めて抵抗してくる。
その瞬間であった。
「撃てっ!!」
ラージャの城壁に備えられていたバリスタ。
いつの間にか持ち場に戻っていた守備兵たちによって、これが一斉に放たれた。
しかもその矢の先端には、見覚えのある筒のようなものが括り付けられている。
あれは、ニノさん愛用の爆弾だ!
一緒に騎士と戦っている間に、守備兵たちに手渡していたらしい。
「あまいわっ!」
次々と放たれたバリスタの矢。
人の身長ほどもあるそれがほぼまっすぐに飛翔し、メガニカへと迫った。
しかし次の瞬間、メガニカはその眼から怪光線を発して迎撃する。
瞬く間に矢はすべて撃破され、その場で爆散してしまった。
「クソッ!!」
「何てバケモンだ……!!」
落胆の声を上げる守備兵たち。
一方、俺はメガニカの集中が乱れたのを見逃さなかった。
もうここしかない……!!
歯を食いしばり、聖剣に注ぎ込む魔力を増していく。
すると――。
「なにっ!!!!」
響き渡る破砕音。
メガニカの身を守る魔力の刃が、砕けた。
たちまち聖剣がメガニカの身体に食い込み、両断する。
聖なる魔力を帯びた刃は、驚くほど容易くメガニカの骨肉を割いた。
「うおああああっ!!!!」
天を揺るがす咆哮。
それを背に受けながら、俺はゆっくりと街の通りに落ちた。
もう、指の一本たりとも動かせない。
全身の魔力を残らず絞り出したことで、激しい筋肉痛とめまいが俺を襲っていた。
そうしていると、すぐさまファム姉さんたちが俺に駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか!?」
「生きてはいるよ……」
「ひとまずこれを」
ポーションを飲まされる俺。
いや、これはもしかしてエリクサーだろうか?
身体の奥底がじんわりと暖かくなり、痛みが和らいでいく。
「ありがとう、ファム姉さん」
「例には及びません。むしろ、あの魔族を相手によくやってくれました」
俺の身体を抱きかかえると、ファム姉さんはあろうことかポンポンと俺の頭を撫で始めた。
こんな風に扱われること、一体いつぶりだろうか?
子どもっぽい扱いに俺が少し照れていると、続いてクルタさんたちが駆けつけてくる。
「ジーク、良かった!!」
「流石だぜ、とうとう魔族の親玉もやっちまったな!」
「相変わらず、大したものですよ」
次々に俺のことを褒めてくれるクルタさんたち。
これで、長きに渡った魔族との戦いもひと段落か。
そう思うと、身体が軽くなるようだった。
だがここで――。
「はぁ、はぁ……! この私を、ここまで追い詰めるとはな……!!」
崩れ落ちた建物。
その瓦礫の山を吹き飛ばし、メガニカが姿を現した。
まだ……生きていたのか……!?
血塗れになりながら、傷口を抑えて立つその姿は何とも痛々しい。
おまけにその足取りはふらついていて、転んでしまいそうだ。
しかし、眼は死んでいない。
見開かれたその赤い瞳には、殺気と魔力が宿っていた。
「お前だけは、必ず葬る……!!」
「そんなボロボロの身体で、何ができるっていうのさ!」
すぐさま、メガニカに向かって飛び込んでいくクルタさん。
短剣を構えた彼女は、すぐさまメガニカの身体に切りつけた。
しかしそれを、無造作に振るわれた手が吹き飛ばす。
「がっ!?」
「クルタさん!!」
「ふ、今の私でもこのぐらいは容易いぞ」
「どうすんだよ……! 誰も止めれねえぞ!」
吠えるロウガさん。
クルタさんがあっさりとやられてしまった以上、今の俺たちにメガニカを止める戦力はない。
ここまで、ここまで追い詰めてやられるのか……!?
皆の思想が絶望に染まりそうになった瞬間。
どこからか、聞き覚えのある少女の声が聞こえてくる。
「そのぐらいにしてもらいましょうか、公爵閣下」
「アルカ……?」
その場に現れたのは、かつて戦った魔王軍幹部アルカであった。




