第二十八話 姉妹の力
「もしかして、ジンと戦った時と同じことをする気か?」
俺の言葉を聞いて、ライザ姉さんがすぐさま尋ねてきた。
嵐を操る古代魔族ジン。
それと戦った際、俺は宝剣アロンダイトにその場にいた全員の生命力を載せて斬撃を放った。
姉さんはあれを再現しようとしているのだと思ったのだろう。
「いや、メガニカにはあのやり方そのままだと通用しないよ」
「ならばどうする?」
「赤い月をどうにかしないと。シエル姉さん、みんなの魔力を集めましょう!」
俺にそう呼びかけられ、シエル姉さんはこちらの言わんとすることを察した。
彼女はすぐさま俺の方へと振り向くと、厳しい声で言う。
「ダメ、この街の住民の魔力を全部合わせても足りるかどうかよ!」
「足りないんですか?」
「ええ、変換効率的にぜんぜん……」
「それなら、他の街の人の力も借りればいいのですわ!」
ここで、アエリア姉さんが話に割って入ってきた。
彼女はファム姉さんの隣に立つと、俺たちに聞こえるように声を大きくして言う。
「うちの商会で開発した大型の水晶球がありますわ。それで他の街にも状況を伝えましょう」
「けど、水晶球を介して魔力を集めるなんてできないわよ?」
「……祈りならば、どれだけ離れていても届きます。それを魔力に変換すれば、あるいは」
「そうか、ファムならそれが出来たわね!」
ポンッと手を叩くシエル姉さん。
聖十字教団には、人々から集められた祈りを魔力へと変換する秘術が伝わっている。
聖女が非常時に用いる奥義の一つだ。
聖軍と並んで教団の最終兵器として広く一般にも知られている。
そうか、あれを使えば水晶球を使って集めた各地の祈りをそのまま魔力に出来る。
そうすれば、膨大な量の魔力を得ることも不可能ではないだろう。
「すぐに装置の手配をしますわ」
「では、私が呼びかけましょう。それで祈りは集まるはずです」
「私もサポートする。衣装の改良は任せて」
動き出すファム姉さんたち。
あとは、作戦が完了するまでメガニカを相手に時間稼ぎをする必要があるな。
どうにか、うまく行ってくれるといいのだが……。
そう思った瞬間、メガニカが笑いながら告げる。
「話は終わったか?」
「ああ、お前を倒す算段が付いたよ」
「そうか、ならば死ぬがよい」
悠長にこちらの準備を待つつもりはないらしい。
メガニカは黒木の杖を取り出すと、赤い月に向かって掲げた。
たちまち怪しげな魔力が立ち上り、巨大な魔力の塊が形成される。
おいおい、あんなの落ちたらラージャの街は壊滅するぞ……!!
あまりの魔力の密度に、大気が震えて稲妻が迸る。
そして――。
「落ちてきた……!!」
「お、終わりだ!! もう駄目だ!!」
「馬鹿、武器を放り出すな!!」
「ひいいいぃ!!」
「落ち着いて!!」
ゆっくりゆっくりと空から落ちてくる巨大な光の塊。
おぼろに赤く光るそれは、さながら隕石か何かのよう。
周囲に風が唸るような轟音が響く。
終末を予感させるその気配に、たちまち人々がパニックになり始めた。
クルタさんなど一部のベテラン冒険者たちが落ち着くように促すものの、収まる気配はない。
だがここで――。
「……技を盗むのが、シエルの専売特許ではないところを見せてやろう」
剣を抜き放ち、そのまま空高く跳び上がっていくライザ姉さん。
無理だ、いくら姉さんの魔裂斬でもあれは斬れない!!
もし可能だったとしても、割れた塊が街に降ってくるぞ!!
俺の懸念をよそに、姉さんはさらに加速していった。
――ドォンッ!!
空気を蹴る音が響き、とうとう姉さんの身体が塊の正面に達する。
そこでライザ姉さんは、上に向かって構えていた剣を下げた。
「まさか、あの構えは!!」
「奥義・鏡返し!!」
かつて俺たちの前に立ちはだかった強敵ゴダート。
彼が得意として使っていた技を、いつの間にかライザ姉さんも物にしていたらしい。
だが流石に、完全習得とはいかなかったのだろう。
巨大な塊を一瞬受け止める格好となったライザ姉さんは、痛みをこらえるように叫ぶ。
「はああああああっ!!!!」
魔力の塊が反転し、メガニカの方へと向かって跳ね返された。
まさか人間がこれだけの威力のある攻撃を返せるとは思っていなかったのだろう。
メガニカはとっさによけようとするが間に合わず、腕を交差させて堪える体制を取る。
一方、ライザ姉さんの方も強烈な反動を受けて飛ばされてしまった。
家の屋根へと突っ込んだ彼女は、そのまま建物を突き抜けて通りに叩きつけられる。
「ぐおおおおっ!!」
メガニカの身体が、自ら放った魔力の塊に飲まれた。
街を滅ぼすつもりで放った一撃を受けては、流石のやつも多少は堪えたのだろう。
苦しげなうめき声が聞こえてくる。
俺はその間に倒れたライザ姉さんの元へと向かい、保護した。
「大丈夫ですか!?」
「……何とか。だがやはり難しいな、手を動かすことすらできん」
「無理に話さないでください!」
そう言って話すのを辞めさせると、すぐに治療魔法を使う。
幸い命の別状はなさそうだが、こりゃ後でファム姉さんにも見て貰わないとヤバいな……。
全身の骨が折れていて、とても戦えるような状態ではなくなってしまっている。
後は俺たちで何とかするしかないな。
するとここで――。
『皆さん、聞いてください!』
どこからか、ファム姉さんの声が響くのだった。




