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第二十五話 街中の攻防

「門を開けろだって!? 何を無茶苦茶なことを……!」


 時は遡り、ノアたちがワグトゥーと戦いを始めた頃。

 城門の前では守備兵とアベルトによる激しい言い争いが繰り広げられていた。

 かたや、門を固く閉ざして街を守ろうとする守備兵たち。

 かたや、門を開放しようと訴えるアベルトとファム。

 立場の違いもあり、互いに一歩たりとも譲ろうとはしない。


「門を開いてくれ。外にいる連中を誘導したい」

「我々の方で、彼らを魔剣から解放する準備をしているのです」


 そういうと、守備隊に向かって進み出るファム。

 その威風堂々とした姿は迫力があり、守備隊の面々はわずかに気圧される。

 しかし、彼らとて街を背負っている者としての自負があった。


「いかに聖女殿とて、これは越権行為です。街の防衛は我々にお任せいただきたい」

「魔族のことならば、我々の方が専門です」

「それはそうかもしれませんが……」

「門を閉じ続けて、状況を打開できる策はあるのか? まさか、ポイタス家の騎士を全滅させるわけにもいかないだろう?」


 アベルトの言葉に、守備隊長の顔が険しくなった。

 いかに剣に操られているとはいえ、有力諸侯の騎士団である。

 それを街の守備隊が独自の判断で全滅させるなど、間違いなく大問題だ。

 かと言って、街の有力者を集めて意思決定をするような時間もない。

 

「……住民の安全は?」

「いま、街中の冒険者に手を回している。保護は万全だ」

「どうするつもりなのか、概要を聞かせてくれ」


 守備隊長が折れた。

 アベルトとファムは軽く顔を見合わせると、すぐさまラージャの街の地図を取り出す。

 

「この大門からしばらく進むと水路通りがある。そこで操られている連中を水路に叩き落として、聖女殿が一気に浄化魔法を掛けるっていう算段だ」

「水路を掘りの代わりとして使うってわけか。だがそれなら、この門でもいいんじゃないか?」

「事前に、水路を聖水で満たしておくのです。それで私の魔法の威力を大きく底上げします」


 ファムにそう言われ、守備隊長はふんふんと頷いた。

 おおよそどういった作戦なのかを理解したらしい。

 しかし、彼はすぐに困ったような顔で言う。


「理屈は分かった。だが、あの悪所の住民がそう簡単に動くか?」

「それについては、うちの冒険者に顔が広いやつが何人かいてな。どうにかなりそうだ」

「ううむ……。ぬおっ!?」


 ――バコンッ!!

 ここでいきなり、守備隊長のすぐ目の前に何かが落ちた。

 石だ、それも子どもの頭ほどもある。

 驚いた守備隊長が城壁の方へと眼を向けると、石が雹のように降ってくる。


「おいおいおい!!」

「急いで屋根のある所へ!!」


 当たれば死にかねない投石攻撃。

 その場にいた全員が、慌てて近くの建物の付近へと避難した。

 さらにドスンドスンッと門扉が軋む。

 次第に攻撃が激しさを増しているようで、扉が破れるのも時間の問題に見えた。


「まずいな……。だが、もう近づけないぞ」

「聖女殿は、防御魔法などは?」

「いえ、物理的なものは……」


 ふるふると首を横に振るファム。

 彼女の扱う神聖魔法にも、結界を展開するものはいくつかある。

 しかしそれらは悪しき者を退けるためのもので、物理的な攻撃にはほぼ無力だった。

 

「このままだと、門を開けることすら……」


 身動きが取れなくなってしまい、歯ぎしりをする守備隊長。

 するとここで、通りの奥から声が聞こえてくる。


「どりゃああああ!!」

「ロウガさん!?」


 走ってきたのは、大盾を背負ったロウガであった。

 彼は投石をものともせずに走り続け、そのまま門扉のすぐそばまでたどり着く。


「おりゃああ!」


 すぐにかんぬきを力いっぱい抜くロウガ。

 たちまち扉が勢い良く開き、操られた騎士たちがゆっくりと街に足を踏み入れる。

 剣を手に、だらりと背中を曲げた姿は亡者の集団のよう。

 異様な気配に皆が圧倒されるが、ここで通りの奥から堂々とした声が響く。


「さあ、こちらですわ! 美味しい餌がありますわよ!」


 通りの中央に、赤いドレスを着たアエリアが現れた。

 扇を優雅に仰ぐその姿は、混乱する街中にあって異常なほど目立っていた。

 急ごしらえながらも、エクレシアが手を加えたドレスのおかげである。

 たちまち騎士たちはアエリアに釘付けとなり、そちらを目指してゆらゆらと動き出す。


「捕まえてごらんなさい。おほほほほ!」


 走り出すアエリア。

 その後を追いかけていく騎士たち。

 こうしてしばし追いかけっこが続いたところで、両者は水路通りまでたどり着く。

 そして――。


「いまですわ!!」


 水路にかかった小さな橋。

 それをアエリアが渡り終えたところで、橋桁が爆発した。

 たちまち端は崩れ落ち、騎士たちは水路へと落ちていく。

 その後に続いていた騎士たちも急には止まることができず、押し出されるようにして水に飛び込んでいった。


「ウオオオ!?」

「アツイ、アツイ!!」

「……もっと……追加ですわ!!」


 日頃の運動不足が祟ったのであろう。

 アエリアは思い切り息を乱しながらも、近くに控えていた商会員たちに指示を飛ばした。

 すぐさま、ありったけの聖水やポーションが水路へと注がれていく。

 水路の水が次第に光り始め、そこに浸かっていた騎士たちがもがき始めた。

 さらに、アエリアの後を追いかけていたファムが現場へとたどり着く。


「ルソレイユ!!!!」


 たちまち、最大出力で放たれた神聖魔法。

 太陽にも似た白い光が、たちまち騎士たちの体を覆いつくした――。


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