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第二十話 市街戦

「くっそ、思ったより多いな!」

「ロウガ、手を貸してください!」


 ラージャの街の南西部。

 ここは、初級冒険者向けの安宿や店が数多く点在する地区である。

 問題の剣は初級冒険者が多く購入していたため、ロウガとニノはこの地区を中心に見回りをしていた。

 そうしたところ、いきなり街中で暴れ出す者たちが現れたのだ。


「これじゃキリがねえ!」

「参りましたね、他に戦えそうなのは……」


 ロウガが大盾で押さえつけている間に、周囲を見渡すニノ。

 しかし困ったことに、周囲は逃げ惑う一般市民ばかり。

 日中ということもあって、冒険者たちの多くは出払ってしまっているようだ。

 そうしている間にも、さらに剣を持った暴漢が姿を現す。


「げ!? また増えましたよ!」

「ニノ、何か縛るものを持ってないか!」

「ちょっと待ってください!」


 ニノはすぐさま懐から鉤爪のついた縄を取り出した。

 ロウガの盾の陰から出た彼女は、思い切り口笛を吹いて注意を引く。

 たちまちその場にいた暴漢たちは、ニノの方に向かって歩き出した。


「うおおおぉ……」

「そりゃっ!!」


 縄をブンブンと回して、勢いよく投げつけるニノ。

 たちまち先端の鉤爪が暴漢たちにぶつかり、縄が勢いよく彼らの身体に巻き付く。

 身動きの取れなくなった暴漢たちは、そのまま足をもつれさせて転んだ。


「流石じゃねえか!」

「これでもシノビですからね。縄術も得意ですよ」

「その調子なら、どれだけ来ても平気だな」


 ニノの見事な手際に、感心したように笑うロウガ。

 彼はすぐさま倒れた暴漢たちの元へと向かうと、彼らが握っている剣へと目をやる。


「ちっ、もう動き出したってことか」

「どうします? 剣だけ回収しておきますか?」

「いや、待った方がいいな。下手に触ったら何が起こるかわからん」


 そういうと、ロウガは剣に振れないように注意しながら暴漢たちを道の端へと移動させた。

 そうしたところで、騒ぎを聞きつけたらしい衛兵たちが走ってくる。

 

「どうした? 何があったんだ?」

「急に暴れ出した人たちがいて! たぶん、魔剣に意識を乗っ取られてます!」

「もしかして、最近話題になっていたやつか?」


 大々的に回収していたため、どうやら衛兵たちも魔剣の存在を把握していたらしい。

 これなら、事態を説明するにもさほど苦労はないだろう。

 ロウガとニノは一安心するが、ここで予想外の事態が起きる。


「待て、あれは俺も……ぐあっ!?」

「なっ!?」


 衛兵の一人が急に、頭を押さえて苦しみ始めた。

 腰に差していた剣の鞘から、にわかに赤い光が漏れ始める。

 目尻が避けそうなほどに目を見開き、呻くその姿に同僚の衛兵たちは慌てふためく。


「そ、そう言えばこいつ……支給品を売って小遣いを稼いだとか言ってたぞ……!」

「嘘だろ、そんな……!」

「いかん、離れろ!!」


 ロウガが叫ぶと同時に、唸っていた衛兵が剣を抜いた。

 そしてそのまま、同僚たちに向かって勢い良く切りかかる。

 突然のことに反応が遅れた衛兵たちは、なすすべもなく棒立ちとなった。

 そして次の瞬間――。


「ブランシェ!!」


 放たれた白光。

 清浄なる魔力が、たちまち赤く染まった刃を焼いた。

 同僚に斬りかかった衛兵はもちろんのこと、縄をほどこうともがいていた暴漢たちまでもが瞬く間に動きを止める。

 ――カランッ!

 手放された剣が地面に落ち、乾いた金属音が響く。


「おお、聖女様じゃねえか!」

「救援が遅くなりました。予想以上に被害が大きくて」


 通りの向こうから駆けつけてきたのは、ファムであった。

 さらにその後ろから、安全を確認したところでアエリアが続いてくる。


「さきほどの光は浄化魔法ですか?」

「ええ。どうやら呪いに近い性質の魔法のようなので、ひとまず浄化魔法で無効化できます」

「そりゃよかった。なら、聖女様がドンドンと魔法を掛けてくれれば……」

「いくらなんでも無理ですよ! あまりにも数が多すぎます!」


 気楽な様子を見せたロウガに対して、すぐさまニノが確かめるように言った。

 それに同意するように、ファムも申し訳なさそうに頷く。


「ええ、残念ながら私の魔力では追いつかないでしょう。他のシスターたちにも協力してもらっていますが、けが人の治療などもあって手が回らず……」

「浄化魔法は使い手が限られてますからね」

「ええ。基本的に聖職者とごく一部の魔法使いだけですから」

「おーーい!!」


 ファムがそう言ったところで、またしても通りの向こうから声が聞こえてきた。

 振り向けば、ライザたち三人がひどく慌てた様子で走り寄ってくる。

 

「大変なことになったぞ!」

「ええ、街のあちこちで暴漢が現れて収拾がつきません」

「そうではない! 街の外に操られた者がとんでもない数いるのだ! 千人はいるぞ!」

「ええっ!?」


 あまりの事態に、たまらずファムたちは息を呑んだ。

 思考が停止してしまっている彼女たちに、すかさずシエルが説明する。


「間の悪いことに、ちょうど訓練で遠征していた騎士団があってね。どうもそいつらが、例の剣を正式採用してたっぽいのよ」

「……なんでまた、あのように怪しいものを!」

「それ、きっとポイタス卿の騎士団だよ。近隣の街をいくつか治める領主なんだけど、とんでもないドケチで有名だから」


 額に手を当てながら、困ったように言うクルタ。

 しかし、起きてしまったものは仕方がない。

 やがてジークが、顔を上げて重々しい口調で言う。


「こうなったら手は一つです。操られた人たちを集めて、まとめて浄化するしかありません」


 そういうと、彼はラージャの地図を取り出した。

 そして街のとある地区を指差す。


「ここの水路に奴らをおびき寄せて、ありったけの聖水を流し込んで浄化魔法をぶつけます。それで大部分を無力化できるはずです」

「ちょっと待て、ここ水路通りじゃねえか!!」


 思わず引き攣った顔で叫ぶロウガ。

 ジークの指差した場所は、彼が日頃からよくお世話になっている歓楽街だったのだ――。


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