第十四話 大回収計画
「……どうしてお前たちはいつも厄介ごとに巻き込まれてるんだ?」
翌日の早朝。
俺たちから報告を聞いたギルドマスターは、途端に渋い顔をした。
まあ無理もない、ラージャに来てからずっと事件が続いていたからなぁ。
しかもそのどれもが、街の存続にかかわるような一大事だ。
支部を預かるマスターとしては、胃が痛い限りだろう。
「まぁ、ジーク自身が規格外だからね。しょうがないよ」
「そういう体質なんでしょうね、たぶん」
「考えない方がいいこともあるもんだ」
「……何ですか、そのどこか諦めた態度」
それぞれに呆れたような態度を取るクルタさんたちに、たまらずツッコミを入れる俺。
そんな態度を取られたら、俺が普通じゃないみたいじゃないか。
ライザ姉さんならともかく、俺はごくごく普通の一般人だっていうのに。
「……なってしまったものは仕方ないか。だが、今回の剣の回収にギルドとして協力するのは難しい」
「えっ!? どうしてですか?」
「想像してみろ。初級の冒険者たちから武器を取り上げるってことはな、連中の食い扶持を奪うってこととほぼ同義なんだ。補償でもしてやれば話は別だが、確たる証拠がない状況でそこまではできん」
「そんな!」
予想していなかった反応に、戸惑ってしまう俺。
領主や国を動かせるかはともかく、ギルドは迅速に動いてくれると思っていたのだ。
マスターのつれない態度に、たちまちライザ姉さんが声を大きくする。
「ノアの発言については、私が内容を保証するがそれでもダメか?」
「残念ながら無理です。分かってください、新人冒険者にとって武器を取り上げられるというのはそれだけ一大事なのです」
「……武器は冒険者の命って言う奴もいるし、代わりを買う金もないやつが多いからなぁ」
マスターの発言に対して、一定の理解を示すロウガさん。
彼の言葉を聞いて、ニノさんやクルタさんも納得したような顔をする。
俺と違って冒険者歴の長い彼や彼女たちには、いろいろと分かる部分があるのだろう。
「でも、今ここで動かないと手遅れになりますよ。やつら、近いうちに何か仕掛けてくるはずです」
「だったら、その剣を調べて有害な術式が組み込まれているということを証明してくれ」
「それは、もう少しかかりそうで……」
マスターの問いかけに、俺は言い淀んでしまう。
実際、俺もあの後すぐにバーグさんのところへ行って再び剣を借りて調査はしたのだ。
だが、何かしらの術式が組み込まれていることしか確認できなかった。
人間界ではあまり用いられない術式だったため、よくわからなかったのだ。
「それだと今は何もできないな」
「だが、魔族が絡んでいるのだぞ! ろくでもないことに決まっている!」
「……そもそも魔族がいたという確たる証拠がない」
「なっ!!」
絶句するライザ姉さん。
しかし、マスターの言うこともわからないではなかった。
困ったことに、あの後すぐに魔族エルハムの死体は消えてしまったのだ。
おかげで、エルハムの姿を目撃したのは俺たちとあの子どもたちしかいない。
「完全にしてやられたな。死体が無けりゃ、魔族がいたことを証明しようがない」
「せめて、一部だけでも取っておけば……」
「そうだ! ケイナなら、返り血からでも魔族だってことを特定できるんじゃない?」
「ダメです、それも含めてきれいさっぱり消えちゃいました」
以前、ケイナさんはローブの切れ端に付着した血から相手の正体を特定したことがあった。
しかし今回は、血の一滴に至るまで完全に痕跡が消えてしまっている。
これでは流石の彼女といえども、動きようがないだろう。
「……個人的には、俺はお前たちが嘘をついているとは思えない。だが、マスターの立場で冒険者たちから武器を回収するというのは相当の大事なのだ。分かってくれ」
そういうと、申し訳なさそうな表情をするマスター。
こう言われてしまっては、俺たちとしても無理強いすることはできない。
とりあえず、応援が来るのを待って俺たちの方で何とか動くか……。
「わかりました。こっちで何とかします」
「そうしてくれ」
こうして俺たちがマスターの執務室を出ようとした時だった。
ノックもせずに入ってきた誰かが、いきなりマスターに向かって言う。
「話はおおよそ聞きましたわ。結局、武器の回収ができないのは予算の問題なのでしょう? そういうことなら、うちでひとまず負担いたしましょう」
「アエリア姉さん!!」
いきなり現れたアエリア姉さんに、俺はたまらず声を上げた。
来られるように手配はしたが、それにしたって……。
グアンさんが街の近くに着たら、すぐに騒ぎになるだろうし……。
俺たちが動揺していると、アエリア姉さんの陰からひょっこりとシエル姉さんが顔を出す。
「……そのまま来たら騒ぎになるから、私がドラゴンの身体を結界で覆ってたのよ」
「シエル姉さん! なるほど、それで今まで特に気配を感じなかったんだ……」
「あんなデカいドラゴンを動かすなら、そういう配慮をしないと。危うく、ウィンスターでも騎士団が動き出すところだったんだから」
呆れたように両手を上げるシエル姉さん。
するとさらにその後ろから、ファム姉さんが現れる。
「まあまあ、ノアも急いでいたでしょうから仕方ないでしょう」
「せ、聖女殿ではありませんか!」
「お久しぶりですね」
「私もいる」
最後に、エクレシア姉さんがひょっこりと出てきた。
姉さんたち、全員でやって来たのか……。
横並びになった四人を見て、たちまちマスターの表情が固まる。
「剣聖殿に、賢者殿に、聖女殿に、えーっと……。もしや、フィオーレ商会の会頭?」
「ええ、そうですわ」
「……いったい、何がどうなっているんだ」
「マ、マスター!?」
ふらっと気を失ってしまったマスター。
俺は慌てて、その身体を抱えるのだった。




