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第十三話 第十二回お姉ちゃん会議

「さてと、全員集まりましたわね」


 ノアたちが地下水路で魔族エルハムと戦った日の夜。

 ウィンスター王都にあるノアの実家に、姉妹たちが集っていた。

 毎度おなじみのお姉ちゃん会議である。

 今回の議題は、暗躍を続けるコンロンについてであった。


「うちの情報網で改めてコンロンについて調べましたわ。しかし、連中の素性についてはどうにも不明なところばかりですわね」

「フィオーレの諜報部門でもよくわからなかったの?」

「ええ。ただ、ちょっと厄介な情報が……」


 懐から薄くやや変色した紙を取り出すアエリア。

 その中央には、ノアの似顔絵が描かれている。

 そして四角く縁どられたその下には「10,000,000G」と大きく記されていた。

 それを見た姉妹たちの目が、たちまち大きく見開かれる。


「まさかこれ……!!」

「コンロンの連中、ノアに懸賞金をかけた?」

「腹立たしいことにそのようですわ。まったく、一千万だなんて……!」


 アエリアはそういうと、ぎゅっと唇をかみしめた。

 そして、一拍の間を置いて言う。


「安すぎますわ! ノアの命には一億は付けるべきですわよ! いいえ、十億でも安いですわ!」

「……怒るとこ、そこなのね」

「しかし、一千万の懸賞金となるとは尋常ではありません」

「ええ。どうやら連中は、どうしてもノアを排除したい理由があるみたいですわ。時期はハッキリとしないのですが、大きく動く予定があるようで」


 そういうと、アエリアは何やら考え込むように腕組みをした。

 他の姉妹たちも、うんうんと唸って思案を始める。

 そうして数分が過ぎた頃、シエルが何かを思いついたように手をついた。


「そうだ、赤い月よ! 連中が魔族だとすれば、赤い月の日は逃さないわ!」

「ああ、そう言えば! そろそろでしたね!」


 シエルの言葉に、ファムもまた納得したように頷く。

 しかし、アエリアとエクレシアはよくわからないまま首をひねる。


「赤い月って、なに?」

「聞いたことがございませんわね」

「えっと、だいたい七十年周期だったかしらね。大気中のマナの濃度が濃くなる日があるのよ。その日は月が赤く見えるから、赤い月の日って言われるんだけど……」

「その日は魔族たちの力が高まる危険な日なのです」


 シエルに代わって、深刻な顔で告げるファム。

 彼女の低い声に、たちまちアエリアとエクレシアは顔を青くした。

 戦う力を持たない彼女たちにとって、魔族はまさしく恐怖の象徴。

 それが力を増す日など、悪夢としか言いようがない。


「奴らが何かを仕掛けるとしたら、間違いなく赤い月の日よ」

「だからそれまでに、ノアを排除しようとしていると?」

「ええ、その可能性が高いわ」


 緊迫した面持ちで告げるシエル。

 姉妹たちの緊張感が高まり、アエリアの額に汗が浮かぶ。


「赤い月の日は、正確にはいつなんですの?」

「ちょっと待って。マナの濃度の記録が研究所にあるから、それを見ればわかるはずだけど……。あと一週間もないぐらいかしらね。もっと短いかも」

「もうすぐじゃないですの!!」


 アエリアの声が大きくなる。

 ラージャまでの距離を考えると、もはや猶予はまったくない。

 それどころか、普通にウィンスターから馬車で移動したのでは着く前に赤い月を迎えてしまう。


「ワイバーンを手配しますわ。シエル、すぐにラージャへ向かいなさい」

「私も参りましょう。この苦難を乗り越えるには、神の導きが必要なはずです」

「……大丈夫ですの? 聖女がこの短期間に二度も遠征して」

「ノアの身の安全には代えられません」


 きっぱりと断言するファム。

 その固い決意を耳にして、アエリアはすぐさま頷いた。

 しかし一方で、エクレシアは少し不安げな顔をして呟く。


「大丈夫? ワイバーンで間に合う?」

「かなりきわどいですけど……。無理をさせれば何とか……」


 ウィンスターからラージャまでは、馬車でおよそ一か月かかる距離である。

 ワイバーンは馬などとは比にならない速度で飛ぶが、実は長距離飛行を得意とする種ではない。

 加えて、ワイバーンを飛ばすためにはそれぞれの国の許可が必要で待たされることも多かった。

 

「自動車は? あれも速かったわよね」

「まだとても長距離には耐えられませんわ。シエルの方こそ、転移魔法とかありませんの?」

「無理よ、まだ実験段階の技術だわ」

「こうなったら、いっそドラゴンでも……」


 アエリアがそうつぶやいた時であった。

 シエルとファムの顔が、にわかに強張る。

 彼女たちはないも言わずに席を立つと、慌てた様子で窓に走り寄った。


「どうしましたの?」

「……何か来る。すごい速さよ!」

「凄く大きな存在を感じます」

「まさか、魔族?」

「いえ、嫌な気配は感じないのですが……」


 エクレシアの問いかけにそう答えながら、窓を開いて顔を出すファム。

 迫りくるものの正体を確かめるべく、彼女は手で庇を作りながら地平線の彼方を見た。

 すると、星明りに照らされながら白い何かがこちらに迫ってくる。

 その清浄な光はさながら、小さな恒星のようだった。

 そして――。


「ドラゴン……!?」


 瞬く間に屋敷の上空へとやってきた白い影。

 それを見上げたファムは、茫然と眼を見開くのだった。


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