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第十一話 突破口

「噂には聞いていたけど、ずいぶんとお人好しみたいだね」

「このぐらい、人間なら当たり前だ」


 俺がそういうと、エルハムは呆れたようにため息をついた。

 それと同時に、子どもたちがこちらに向かって走ってくる。

 ――また意識を奪われてるな!

 彼らの攻撃をどうにかかわすと、次の瞬間、エルハムが俺に向かって切りかかってきた。

 子どもたちとの攻撃速度の差に危うく不意を突かれそうになる。


「ちっ!!」

「っと、これをかわすか!」


 どうにか攻撃をかわすと、エルハムが思い切り顔をしかめた。

 俺はすぐさま追撃を入れようとするが、ここでまたしても子どもたちが現れる。

 ギリギリのところで剣を止めると、たちまち子どもたちは小さな悲鳴を上げた。


「ひっ!!」

「ごめん……!」


 怖がる子どもたちに俺はすぐさま謝るが、ここであることに気付いた。

 先ほどまで意識を奪われていたのに、明らかに自我が戻っている。

 そうか、移動させる瞬間に洗脳が解けてしまうんだな。

 そして再び洗脳するのも瞬時には不可能らしい。

 ならば、場所を入れ替えた直後にエルハムを攻撃すれば子どもを人質に取られることなく倒せる。

 

「みんな、ちょっと」

「なに?」


 俺はクルタさんたちを近くに呼び寄せると、そっとこの事実を知らせた。

 そして子どもたちとエルハムの両方を見ながら作戦を告げる。


「エルハムに入れ替えを使わせた後、二人で子どもたちと奴に同時攻撃をするんです。そうすれば、身動きが取れなくてそのまま攻撃を受けるしかなくなります」

「だがそれは……一歩間違うと子どもたちに攻撃を当てちまうぞ」

「ええ、かなり危険です。でも今のところ、これしか方法がない」


 魔族にも通用する攻撃が子どもたちに当たれば、大怪我は免れない。

 本気で攻撃を仕掛けつつ、それをギリギリのところで止める技量が必須だ。

 このメンバーでそんなことができるのは、当然ながら……。


「ライザ姉さん、お願いできますか?」

「いいぞ、久しぶりの共同作業だな」


 どこか意味深な笑みを浮かべる姉さん。

 たちまちクルタさんが、不機嫌そうに口を尖らせる。


「もう、こんな時に変な言い方しないでよ!」

「ははは、すまんすまん」

「……クルタさんにはカウントをお願いできますか? それに合わせるので」

「わかった」

「あとはニノさん、奴に先制攻撃を」

「任せてください」


 話は決まった。

 俺と姉さんは互いに距離を取ると、武器を構えて軽く足を開く。

 そして――。 


「はあっ!!」


 あえてエルハムの気を引くべく、気迫の籠った声を出すニノさん。

 彼女はそのまま前傾姿勢を取ると、縮地さながらの速度でエルハムに迫る。

 流石はシノビ、なかなかの速度だ。

 そして逆手に構えたクナイで、エルハムの身体を切り裂こうとする。

 だが次の瞬間、エルハムと子どもたちが入れ替わった。


「いまです!!」


 今にもエルハムを切り裂こうとしていたニノさん。

 その身体が、見事な宙返りを披露した。

 それと同時にクルタさんがカウントダウンを始める。

 1、2、3……。

 数字が読み上げられるのに合わせて、俺と姉さんがほぼ同時に足を動かした。

 俺の剣術は基本的にライザ姉さんから教えられたもの。

 よって、身体の動かし方などは姉さんと共通するものが多い。

 ゆえにお互い、呼吸から手の振り方に至るまで完璧に合せられる。


「くっ!! 全く同時だと……!?」


 とっさに身動きの取れないエルハム。

 俺はその身体に向かって、渾身の突きを入れる。

 煌めく聖剣の切っ先が、たちまちエルハムの胸元へと吸い込まれる。


「入った!」

「ぐあっ!!!!」


 吹き上がる血飛沫。

 俺は確実に止めを刺すべく、聖剣をぐっと力を込めて捻ろうとした。

 するとここで、エルハムが急に弱々しい声で言う。


「や、やめろ……! 殺さないでくれ……!」

「お前……! 今までさんざん人を殺してきただろうに、命乞いをするのか?」


 これだけ卑劣なことを堂々とやってのける魔族である。

 今までにも多くの犠牲者を出してきたに違いない。

 それが自分だけは助かろうなどとは、まったく都合が良かった。

 しかし、エルハムはどうしても死にたくないのだろう。

 先ほどまでとは態度を一変させて、媚びるように言う。


「俺は、重要な計画に、関わってる……。それを言うから、命だけは……」

「ダメだぞノア! さっさと止めを刺せ!」


 子どもたちを保護したライザ姉さんが、こちらを見て声を上げた。

 それに続いて、クルタさんたちもまた俺を見ながら叫ぶ。


「そいつなにするか分からないよ!」

「そうだ、今のうちにやれ!」

「危険すぎますよ、ジーク!」


 口々に警告を発するクルタさんたち。

 それを横目にしながら、俺はゆっくりと剣を抜いた。

 エルハムの言っていることが、完全な嘘とも思えなかったためである。

 冒険者たちに売りさばかれた大量の剣。

 それを一人で用意していたとは思えない、何かしら組織的な動きがあるはずなのだ。


「……少しだけ話を聞いてやる」

「ありがたい、物分かりがいいじゃないか……」

「余計なことは言うな。それで、重要な計画ってのは何なんだ?」


 聖剣を首筋に当てながら、エルハムに尋ねる。

 すると彼は、もったいぶるように呼吸を整えていう。


「俺たちの売り払った剣には、実はある特殊な術式が刻み込んである」


 …………何となくわかってたが、これまた厄介なことになってきたぞ。


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