第九話 子どもたち
「ふぅん、じゃあ君たちはもともとスラムに住んでたんだ?」
「ああ、瘴気が収まってすぐに降りてきた」
水路の奥へと向かう途中。
俺たちは子どもたちと話をしていた。
彼らはもともとスラムの空き家に住んでいたが、役人に追い出されて地下水路へと移り住んだらしい。
何でも、スラムの建物をいくつか取り壊して再開発が行われるのだとか。
「でもここ、スライムが住んでますよね? 危なくないですか?」
「あいつらは水路から滅多に上がってこないから。意外と安全なんだよ」
「へえ……」
「ここなら雨風も凌げるし、役人たちも来ないし」
慣れた様子で、薄暗い通路を進んでいく子どもたち。
元がスラムの住民だけあって粗暴な印象は受けるが、やはりそう悪い子たちにも見えない。
「ねえ、一体どこへ向かってるのさ?」
ここで、クルタさんが意を決して尋ねた。
すると丸眼鏡をかけた女の子が、どこか楽しげな様子で言う。
「リーダーに会うんだよ」
「リーダー?」
「私たちにお仕事紹介してくれて、お小遣いくれる人」
「おい、余計なこと言うな」
すかさず、リーダーらしき男の子が女の子を咎めた。
女の子はしゅんとしたような顔をすると、それっきり黙ってしまう。
こうして何となく気まずい空気の中、歩くこと数分。
水路が行き止まりとなったところで、子どもたちは足を止める。
「さあ、着いたぜ」
「ここか? 何もないじゃないか」
周囲を見渡し、怪訝な顔をするロウガさん。
すると男の子が壁を構成する石組みのうち、ひとつだけ他より大きなものを押す。
たちまち通路全体が微かに震え、壁の一部がゆっくりと動き始めた。
そして大人が一人通れるほどの側道が新たに姿を現す。
「こんなのがあったのか。知らなかったな」
「ボクも初めて見るね。もしかすると、昔に作られた避難所かも」
「そんなのあるんですか?」
「魔界と戦争してた頃、この街は最前線だったからね。流石に当時の建物はほとんど残ってないけど、地下水路とかはその頃からあるらしいよ」
そう言えば、冒険者の街になる前のラージャは軍事都市だったとか聞いたことあるな。
何百年も前の話なので、当時の面影など街の中にもほとんど残っていないのだが……。
まさかこんなところにひっそりと残っていたとは。
「ますます、魔族の疑いが強くなってきたな」
「それも、数百年前から居るやつらだね」
子どもたちに聞こえないように、小声で言葉を交わす姉さんとクルタさん。
こうして古びた通路を進むと、すぐに開けた空間へとたどり着いた。
ここはもしかして、子どもたちが生活している場所なのだろうか?
手作りっぽい家具や食料の入った木箱などが散らばっていて、生活感がある。
そして――。
「どうしたウィル? ずいぶん早いじゃないか」
「リーダー! 実はその……!」
奥から現れたのは、子どもたちより少し年上に見える少年だった。
その身なりは場所に似つかわしくないほど整っていて、黒の燕尾服をパリッと着こなしていた。
革靴も綺麗に磨かれていて、ピカピカと艶がある。
このたたずまいからして、こいつが黒幕なのか?
いや、それともただのつなぎ役か?
俺たちは少年の立ち位置を図りかねるが、一方で彼は俺を見た瞬間に驚いた顔をする。
「これはこれは! もしかして君はジーク……いや、ノアかい?」
「ジークでいい。驚いたな、俺のことを知ってるのか」
「君たちは散々、我々の計画を邪魔してくれたからね。いまじゃこんなのが出回ってるんだよ」
そう言って少年が取り出したのは、俺の似顔絵らしきものが描かれた紙だった。
四角い枠で区切られた絵の下にはお金の単位とともに数字が記されている。
ひい、ふう、みい……その額なんと一千万ゴールド。
この形式はもしかして……!
「君はいま、一千万の賞金首ってわけ。ま、うちの組織の中の話だけど」
「なに……!」
「ついでにお仲間たちにも、それぞれ百万ずつ賞金が掛かってる。別枠で、剣聖ライザにも五百万だ」
「む! ノアより安いのか!?」
思いっきり不満げな顔をするライザ姉さん。
いや、今食いつくのはそこじゃないから……!
俺はたまらずツッコミを入れたくなったが、堪えて質問を続ける。
「……うちの組織ってのはコンロンのことか?」
「なかなか察しがいいじゃないか」
「この子どもたちも、コンロンの一員なのか?」
「いや違う、たまたまここに住み着いてただけの何の罪もない子どもだよ。そう、本当に何の罪もない子たちなんだ」
わざわざ、子どもたちに罪が無いことを何度も強調する少年。
……何だろう、嫌な予感がする。
俺はとっさに少年と子どもたちの間に割って入ろうとした。
だがその次の瞬間――。
「さあ、僕のいうことを聞け!!」
「うわっ!? リーダー!?」
「か、身体が……!!」
少年の眼に魔法陣のようなものが浮かび上がった瞬間、子どもたちから悲鳴が上がった。
彼らは胸に手を当ててもがき苦しむが、すぐに動きを止めて大人しくなる。
その眼からは光が失われ、自我が喪失したことは明らかだった。
「貴様ッ!!」
「おっと、やめてもらおうか! 今僕に手を出せば、この子たちは死ぬよ?」
そう言って、即座にライザ姉さんを牽制する少年。
こりゃ、思ったより厄介なことになりそうだぞ……!!




