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第五話 違い

「え、えーっと。久しぶりにお酒飲みたいなって」

「そうか。ノアはいないのか?」


 そういうと、周囲を見渡すライザ姉さん。

 まずいと思った俺は、とっさにロウガさんの陰に身を隠した。

 ロウガさんもまた、カウンターに顔を伏せてどうにかやり過ごそうとする。

 

「い、いないよ! わたしだって、たまには一人がいいから」

「一人って、俺と一緒だろう?」

「あ、そうだった!」


 ライザ姉さんが現れたことで、完璧にペースを乱されてしまっているクルタさん。

 まずいな、このままだと剣の入手経路を聞くどころじゃないぞ……。

 戸惑うクルタさんをよそに、ライザ姉さんはそのまま二人の間に座ってしまう。

 流石は姉さん、空気の読めなさがなかなかだな……。

 クルタさんがガビーノさんとの距離を詰めようとしていたのに、それを完全に無視している。


「ライザ? えっと、その……」

「せっかく一緒になったのだ、たまには飲もうではないか!」

「え? というか、ちょっと酔ってる?」


 いきなり酒を勧められ、戸惑いながらもグラスを受け取るクルタさん。

 まずい、ライザ姉さんってば完全に酔ってる……!!

 普段はそこまで飲まない方なのだが、酔うとかなりまずい。

 基本的に絡み酒なんだよな……!!

 前にパーティで酔った時は、酒が飲めない年齢だった俺にまでどんどん勧めてきた記憶がある。


「飲め、もっと飲め!」

「ちょ、ちょっと!!」

「ははははは!!」


 ガビーノさんのことなどそっちのけで、大騒ぎするライザ姉さん。

 ああ、もう完全に剣の入手経路を聞き出すどころの空気じゃなくなった!!

 俺たちがライザ姉さんを見てすっかり困り果てていると、ここで急に姉さんがこちらを向く。

 あ、まずい……!

 俺はとっさにロウガさんの陰に隠れようが、時すでに遅し。

 姉さんの眼からは逃れられなかった。


「なんだ、いたじゃないか!」

「いっ!?」

「ほら、ノアも一緒に飲むぞ!」

「ま、待って! 俺はまだ飲めないよ!」

「だったらそうだな、あー、お前が飲むのだ!」


 俺に勧める予定だった酒を、無理やりガビーノさんに飲ませようとするライザ姉さん。

 ガビーノさんもその勢いに押されて、渋々ながらも飲んでしまう。

 結局、剣の入手経路を聞き出す前に彼はすっかり酔い潰れてしまうのだった……。


――〇●〇――


「もう、姉さんのせいで昨日は散々だったよ!」

「すまんすまん! 事情を知らなかったものでな」


 翌日、俺は改めてライザ姉さんに事情を説明した。

 話を聞いた姉さんは、申し訳なさそうな顔をして軽く謝罪をする。

 まったく、これを機にお酒はほどほどにしてもらいたいものだ。

 今回はまだいいが、もっと致命的な場面でこれが起こっては困る。


「……しかし、いつのまにかそんな剣が出回っていたとはな」

「姉さんも知らなかったんですか?」

「無論だ、聞いたこともない」


 ぶんぶんと首を横に振るライザ姉さん。

 それを見たクルタさんが、ここでふとあることを呟く。


「ねえ。昨日、声かけた冒険者って結構な割合で例の剣のこと知ってたよね?」

「ああ、だいたい知ってたな」

「でも、私たちってライザも含めて全員知らなかった。この違いは何だろ?」

「ランクの違いじゃないですか? 一応、私たち全員がBランク以上ですし」


 クルタさんの疑問に対して、ニノさんがゆっくりとした口調ながらも即答した。

 するとクルタさんは、違う違うと首を横に振る。


「そうじゃなくてさ。ランクが違うと何が違うかってことだよ」

「……考えてみればそうですね。俺たちだって、生活範囲は似たようなものなのに」

「そもそも、私はFランクだぞ?」

「それはひとまず置いときましょう」


 話がややこしくなるので、ライザ姉さんのことはいったん例外として。

 俺たちとランクの低い冒険者たちとで、何が違うのかはすぐに思いつかなかった。

 ランクが上がったところで、冒険者の生活なんて大して変わらないのである。

 せいぜい、出入りする店が少し違うぐらいだろうか?

 それにしたって、ロウガさんなどはよく金欠で安い酒場に行っていたりする。


「ようは、初級や中級の冒険者が行って俺たちが行かない場所に何かあるってことだよな?」

「そういうことになりますね」

「うーむ……。意外と思いつかねえな」

「それなら、狩場じゃないか?」


 ふと呟くライザ姉さん。

 それを聞いて、俺はポンと手を叩いた。

 確かに狩場ならば、ランクによって出入りする場所がかなり明確に分かれている。

 街の中のどこかだと思っていた俺たちにとっては、ある意味で盲点だった。


「そう言えば、ドラゴンゾンビの出た地下道が最近また解放されたみたいですよ」

「そうなの?」

「ええ、瘴気がある程度浄化されたとかで。あそこなら、魔族が潜むには最適だと思います」

「実際、前はいたわけだしね」


 以前のことを思い出しながら、渋い顔をするクルタさん。

 俺がまだ、ラージャへ来たばかりの頃。

 この街の地下水路には、非道な死霊術の実験を繰り返す魔族ヴァルゲマが潜んでいた。

 その脅威が去った後も、瘴気が蓄積されていた地下水路はしばらく閉鎖されていたのだが……。

 いつの間にやら、狩場として開放されていたらしい。


「地下水路はもともと、初級者向けの狩場だったはずだ。今もそうだとするなら……匂うな」

「ええ、行ってみましょう」


 こうして俺たちは、再びラージャの街の地下水路へと向かうのだった。

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