第四話 作戦
「ずいぶんとみんな口が堅いな……」
剣の入手経路を調べようと、ギルドの周辺で声をかけること数回。
件の剣を購入したらしき人にも遭遇したが、購入元についてはことごとく口を閉ざした。
今まで、職人街の人たちがなかなか業者の尻尾を掴めなかったわけである。
冒険者としてはかなり顔の広いロウガさんでも、糸口すら見つけられない。
「どうする? 今日のところは諦める?」
「そうだな……。お?」
ここでまた、知り合いを見つけたらしいロウガさん。
本当に、この街の冒険者はすべて知り合いとでも言わんばかりの勢いである。
しかし彼は、すぐには声を掛けずにここで少し考え込む。
「ガビーノか。口の軽いあいつなら期待できそうだ」
「いけそうですか?」
「ああ。だが、俺だときつい」
そういうと、ロウガさんはゆっくりとクルタさんの方に振り返った。
そして上から下まで、彼女の身体を値踏みするようにじっくりと見る。
ひどく真剣なその眼は、さながら一流の職人のよう。
そのあまりに鋭い眼差しに、クルタさんは戸惑ったように目をぱちくりとさせる。
「い、いったいなにさ?」
「ガビーノのやつは女好きだからな。クルタなら落とせるかもしれん」
「お、落とす!? お姉さまが!?」
顔を真っ赤にして、困惑した様子を見せるニノさん。
一方のクルタさんは、ロウガさんの行動の理由が分かって安心したのだろうか。
むしろ落ち着いたような様子で言う。
「なるほど、案外ありかもね」
「お姉さま!?」
「大丈夫、あの人ってCランクぐらいでしょ? ヤバくなったらどうとでもなるよ」
女性とはいえ、クルタさんはAランクの冒険者。
相手は結構強面の冒険者だが、力で負けることはまずあり得ない。
そのことが余裕を産んでいるのだろう、むしろどこか楽しげな様子だ。
「よし、じゃあお姉さんが一肌脱いであげよう」
「頑張ってくれよ」
「任せときなって」
そういうと、クルタさんは俺に向かってウィンクをした。
彼女はインナーの上に着ていた革の鎧を脱ぐと、それをニノさんに預ける。
たちまち鎧に隠されていた胸の膨らみが露わとなり、ぷるんっと心地よく弾んだ。
さらにクルタさんは膨らみ強調するように寄せると、身体を揺らすように内股で歩き出す。
「お兄さぁーーん、ちょっと遊ばない?」
「……んん?」
びっくりするほどわざとらしい感じの声掛け。
……クルタさん、任せときなって言った割には全く慣れてなさそうだな。
思えば、彼女が夜の街に繰り出しているところなど見たことが無い。
ある意味で当然と言えば当然なのだが、こんな美人局みたいな感じで大丈夫だろうか?
「俺と飲みたいのか?」
「うん! 一緒に飲もう?」
「どうしてまた?」
「え、ええっと! お兄さんがカッコいいから?」
ガビーノさんの問いかけに、クルタさんは思いっきり動揺してしまった。
語尾が上がって、不自然に疑問形っぽくなってしまっている。
こりゃヤバい、明らかに何かあるのがまるわかりだぞ……!
俺もロウガさんも、あちゃーっと天を仰いで額に手を当てた。
ニノさんもあわあわと戸惑ったような顔をしている。
しかし――。
「おぉ! 俺のダンディさが分かるのかい?」
クルタさんの返事が気に入ったのか、男くさい笑みを浮かべるガビーノさん。
……すごい、あれで受け入れられた!?
驚く俺たちをよそに、ガビーノさんは上機嫌でクルタさんの肩を叩く。
「いやぁ、こんな美人さんに褒められてうれしいねえ!」
「す、すごいカッコいいんだもの! 当然ですわよ!」
「ははははは!」
ああ、もう言葉遣いすら崩壊してる!
いろいろめちゃくちゃになりながらも、クルタさんとガビーノさんは近くの酒場に入っていった。
俺たち三人も気づかれないように注意しながら、その後を追いかけていく。
二人の入った酒場は照明が薄暗く、なかなか雰囲気のある場所だった。
そこでクルタさんは、恐ろしく不器用ながらもガビーノさんとの距離を詰めた。
「ところで、ちょっと聞きたいことがあってさ」
「おう、どんなことでも答えるぜ!」
「最近、剣を折っちゃってさ。それで代わりが欲しいんだけど、お金があんまりなくって」
「そりゃ大変だ、貸してやろうか?」
何の疑いもなく、財布を取り出そうとするガビーノさん。
びっくりするほど騙されやすい人だな、見ててちょっと心配になってきたぞ。
これにはクルタさんも慌てたのか、ぶんぶんと首を横に振る。
「そうじゃなくて! その、最近安い剣が出回ってるでしょ? あれを私も買いたいなーって。お兄さん、どこで売ってるか知らない?」
「安い剣って言うと……。ああ、もしかしてこれのことか?」
そう言って、ガビーノさんが取り出した剣。
その鞘の拵えは、先ほどバーグさんのところで見せられたものと同じだった。
それを眼にしたクルタさんは、少し興奮気味に食いつく。
「そうそれ! どこで買ったの?」
「こいつなら……うーん、言っちまっても良いかな……」
ためらいながらも、クルタさんの質問に答えようとするガビーノさん。
よし、これで剣の入手経路が明らかになるぞ……!!
俺たちがそう確信した瞬間、ここで予期せぬ人物が現れる。
「クルタじゃないか。こんなところで何をしている?」
「げっ……!! ライザさん!?」
カウンターの陰から、グラスを片手に姿を現した人物。
それは誰あろう、ライザ姉さんであった――。




