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第一話 クリスタルリザード

「こりゃ、もうドラゴンじゃねえか!」


 ラージャの街を出て、南へ進むこと数時間。

 以前、ロックタイタスを退治しに出かけたパンタネル大湿原の手前。

 そこに湿原へとつながる大きな川があり、沢地となっている場所がある。

 ここに最近、クリスタルの鱗を持つというリザードの変異種が出現した。

 その討伐を請け負った俺たちは、さっそく変異種が目撃された大岩を訪れたのだが……。


「デカいですね……!」


 上に家が建てられそうなほどの大きさがある平たい岩。

 その隙間から這い出してきたのは、これまた巨大なトカゲであった。

 細長い体格こそリザード種の特徴を残しているが、その大きさはもはやドラゴン。

 いや、並のランドドラゴンなどよりもはるかに大きい。

 大きく裂けた口は、人間どころか馬や牛でも丸呑みできそうだ。

 さらにその鱗は、半透明の石英のような材質で出来ている。


「うおっ!?」

「ロウガッ!?」

「大丈夫だ!」


 まだ距離があると思っていたところで、リザードの口から舌が伸びた。

 思わぬ飛び道具に驚きながらも、すぐにロウガさんが盾でガードする。

 こいつ、本当に厄介なのは鱗ではなく舌かもしれない!

 攻撃を防がれたリザードだが、そのまま舌を鞭のように振るって二度三度と追撃してくる。


「くっそ、これじゃ近づけねえな!」

「そういう時は……これです!」


 ニノさんはポンッとコルクを外すと、赤い粉の入った小瓶を投げつける。

 たちまち、周囲に独特の刺激臭が漂い始めた。

 これはもしかして……唐辛子か何かか?

 俺がそう思った瞬間、リザードがのたうち始める。


「特製のカラシ爆弾です!」

「すげえけど、前より暴れてるじゃねえか!」

「わわっ!? 効いてるはずなんですけど……!!」


 辛さで苦しんでいるのか、よりいっそう激しく舌を振り回すリザード。

 いつの間にか、白く見えた身体が赤く染まっている。

 これはもしかして、藪蛇と言う奴なのでは……!!


「こうなったら俺が……!」

「待った! 困った時のジーク任せじゃ、ボクたちのためにならないよ!」


 そう言うと、ロウガさんの陰から飛び出していくクルタさん。

 彼女は見事な身のこなしで舌を回避すると、リザードの口に向かってナイフを投げた。

 一直線の軌道を描いたナイフは、吸い込まれるように舌の付け根に刺さる。


「グルルルルッ!?」


 これまで特に鳴き声などを発することのなかったリザード。

 しかし、この痛みには耐えられなかったのだろう。

 過呼吸のような、聞いたこともない悲鳴を響かせる。


「隙あり!!」

「グルルッ!!」


 痛みで動きが止まったリザード。

 その隙を逃すことなく、クルタさんは短剣で舌を両断した。

 ……すごい、確実に以前より強くなってる!

 俺がクルタさんの立ち回りに驚いていると、ここでさらにニノさんがクナイを投げつける。

 その柄には小さな爆弾のようなものが巻き付けられていた。


「グルォッ!!!!」


 ――ドォン!!!!

 爆音が轟き、リザードの口の中が弾けた。

 流石のリザードも、体内で爆発を起こされてはひとたまりもない。

 口から血の塊のようなものを吐き出し、動きが鈍くなる。

 だがここで――。


「危ない!!」


 リザードの尻尾が、近くにいたクルタさんを打ち据えようとした。

 俺はとっさに聖剣を抜くと、斬撃を飛ばして迎え撃つ。

 ――スパッ!!

 硬い鱗に覆われた尻尾が、野菜でも斬るかのように簡単に斬れてしまった。

 流石は聖剣、最近になってますます切れ味が冴えている。

 こうして尻尾を切り落とされたリザードは、観念したように地に伏せて動かなくなった。


「うわー、やっぱ凄いなぁ! 大剣神祭でますます磨きがかかったんじゃない?」

「クルタさんの方こそ、いつの間にか強くなってませんか?」

「そりゃ、ボクだって頑張ってるんだからね! そろそろ本気でS級を目指してるんだから」

「おお!!」


 S級と言えば、冒険者の頂点。

 ごく一握りの強者のみがたどり着ける領域だ。

 そこを目指そうなんて、やっぱりクルタさんは凄いなぁ……。

 そんなことを俺が思っていると、クルタさんはどこか呆れたような顔をして言う。


「余裕でS級に行けそうなジークに言われると、何だかなぁ……」

「比較しないのが大事ですよ、お姉さま」

「うんうん、地道にやるのがいいよね。……あちゃー!」


 ここで急に、困ったように額に手を当てるクルタさん。

 その手にはリザードの身体から回収した投げナイフが握られていた。

 しかし、その刃は大きく欠けてしまっていてひどりありさまだ。

 研ぎ直すことすら、恐らくは不可能だろう。


「こりゃ、ニノの爆弾のせいだな」

「うっ! お姉さま、ごめんなさい!!」

「あー、別に構わないよ。もうだいぶ古くなってたし、消耗品だからね」

「帰りに職人街によるか。俺もそろそろ、親父にこの盾を見てもらいたいしな」


 そういうと、大盾の表面を困ったような顔でさするロウガさん。

 盾の表面にはたくさんの小さな凹みが出来ていて、放っておいたらそこから錆びてしまいそうだ。


「決まりですね。じゃあ、素材を回収して早く戻りましょうか」


 こうして俺たちは久しぶりに、ラージャの職人街を訪れることにしたのだった。


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