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第四十二話 夜明け

「ぐおああああっ!!」


 黄金の奔流。

 それが瞬く間にジンの巨体を呑み込み、全身を覆っていた黒雲を吹き飛ばした。

 分厚い体皮が切り裂かれ、ジンの全身から血飛沫が上がる。

 ……しかし、あと一押しが足りない。

 圧倒的な生命力の奔流に押し流されながらも、ジンはどうにか立ち続けていた。


「……はぁ、はぁ!! 堪えたぞ! 堪えてやったわ!」


 やがて攻撃を耐えきったジンは、這う這うの体ながらも高らかに勝利を叫んだ。

 やはり、古の剣聖と王が封印しかできなかっただけのことはある。

 けれど俺たちには、あと一押しをするための手段があった。


「はあああぁっ!!」

「ぐおあっ!!!!」


 黒雲による防御を失ったジンの肉体。

 それを聖剣は呆気ないほどにあっさりと貫いた。

 やはり、あの黒雲こそが驚異的な防御力のカギだったのだろう。

 それを失ってしまっては、聖剣の力に抵抗することはできないようだった。

 たちまち聖なる光が溢れ出し、ジンの身体を内側から焼き始める。


「おのれ、おのれ……!!」

「大人しく……いけ!!」


 最後の抵抗を見せるジンに、強引に刃をねじ込む。

 ――ここで退くわけにはいかない!

 俺もまたジンの背中の上で、懸命に踏ん張る。

 ――ドクンッ!!

 やがて、ジンの巨体が大きく跳ねた。

 そしてにわかに力を失い、その場に崩れ落ちる。


「……終わったようだな」

「ええ」


 こちらに近づいてきた姉さんに向かって、俺は静かに頷いた。

 やがてジンの巨体が、少しずつ光の粒となって天に昇っていく。

 その様子は、恐ろしい魔族の死に様とは思えないほどに美しかった。

 俺も姉さんも、そして他の剣士たちも揃って遥か空を見上げる。


「一時はどうなることかと思ったが、何とかなったな」

「あ、見てください! 太陽が出てきましたよ」


 群青色の空の彼方から、太陽が少しずつ顔を出し始めた。

 いつの間にか、もうこんな時間になってたのか。

 本当に長い長い夜だったなぁ……。

 俺がふうっと息をついたところで、姉さんがふと思い出したように言う。


「そう言えば、ゴダートのやつはどこだ? 先ほどの技、どう見ても奴の奥義だったが……」

「見当たりませんね。あの怪我じゃ、そんなに動けるわけないんですけど」


 周囲を見渡してみるが、ゴダートの姿はどこにもなかった。

 あんな芸当ができるのは、あの男ぐらいしかいないはずなんだけど……。

 念のため、近くの瓦礫を動かしてみるがやはり影も形もない。

 

「……うーん、どこ行ったのかな?」

「そんなに心配することもあるまい。今更、悪の道にも戻らんだろう」

「そういうものですかね?」

「ああ、何となくわかる」


 妙に自信満々な様子のライザ姉さん。

 剣士としての勘というやつであろうか。

 やがて彼女は、すっかり壊れてしまった闘技場を見て困ったように言う。


「しかし、これではもう大会は続行できないな」

「……とりあえずは、ライザ姉さんが剣聖ということでいいんじゃないですか? もともと時季外れな大会だったんだし」


 俺がそう言うと、周りにいた剣士たちもうんうんと頷いた。

 結局、ジンを倒したのもほとんどライザ姉さんのようなものである。

 ゴダートが行方不明になった今、彼女に勝てる剣士もいないだろう。

 闘技場が再建されるまで、姉さんが剣聖を続行するということで異論はない気がする。

 

「だが、準々決勝まで行ったのだぞ? それで今さら中止というのも……」

「皆様、ご無事でしたか!?」


 ここで、遠くからメルリア様の声が聞こえてきた。

 俺たちはひとまず会話を中断すると、彼女たちに向かって大きく手を振る。


「こっちですーー!! もう魔族は倒しましたよ!!」

「えっ!? それは本当ですか!?」


 俺の言葉を聞いて、目を丸くするメルリア様。

 慌てて駆け寄ってきた彼女に、俺は簡単にではあるがおおよその事情を説明する。

 すると話を聞いたメルリア様は、ふふっと笑みを浮かべて言う。


「そういうことならば、ライザ殿が剣聖で文句ないでしょう」

「何か理由でも?」

「はい。そもそも剣聖というのは、あの魔族の封印に貢献した偉大なる剣士を讃えて生まれた称号だと聞いておりますので」


 なるほど、そう言った歴史的な経緯があるならば文句のつけようがないな。

 姉さんもそれを聞いて、渋々といった様子ながらも頷く。


「……ノアとまた戦いたかったが、そういうことならば仕方あるまい。次の大剣神祭が開催されるまでは、今まで通り私が剣聖として務めさせていただこう」

「姉さん、それが本音だったんですね」

「あっ……!! と、とにかく! 次の大会ではお前の腕前を必ず見させてもらうからな、ノア!」


 慌てた様子のライザ姉さんに、はーいと軽く返事をする俺。

 何はともあれ、こうして事件は終幕を迎えたのだった。

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