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第四十一話 大斬撃

「みんなの力を……この剣に?」

「そうだ。この剣は剣聖しか振るうことができないが、あいにく今の私には十分な体力がない。そこで、皆の力を借りようというわけだ」

「なるほど……。でも姉さんってそんな魔法使えた?」


 なるほど、ライザ姉さんの言う通りだった。

 アロンダイトを姉さん以外が振るえないというのならば、そうするより他はないだろう。

 けれど、姉さんがそんな技を使えるなんて聞いたことが無い。

 どちらかと言えば、剣技というよりは魔術であろうし……。

 そんなことを俺が考えていると、ライザ姉さんはニタっと不敵な笑みを浮かべて言う。


「お前がやるんだ、ノア」

「俺が!?」

「そうだ。前にベルゼブフォと戦った時に、皆で魔力を注いだだろう? あれを応用して何とかしろ」

「そんな無茶苦茶な……!?」


 シエル姉さんが聞いたら、怒って杖で殴りつけてきそうなぐらいの暴論が飛び出した。

 確かに以前、街を襲う大波を防ぐために街中の魔導師の魔力を一つの術式へと集めたことはある。

 けれど、魔力と生命力では扱いがまるで違うのだ。

 一応、変換する術式もあるにはあるのだが……。

 加えて、あの時みんなで魔力を注いだ術式は街を一つおおうほど巨大なもの。

 剣一本に力を集める術式なんて……いや、できなくはないのか……?

 俺があれこれと逡巡をしていると、不意にライザ姉さんが手を握ってくる。


「ね、姉さん?」

「頼む、こればかりはお前にしかできない」


 俺の顔をまっすぐに見据えながら、姉さんはゆっくりと頭を下げた。

 あのプライドの高い姉さんが俺にここまで頼み込んでくるなんて。

 ……こうなったら、とにかくやるしかないな。

 ほかに手段らしい手段もないし、姉さんの回復を待つわけにもいかない。

 俺はいよいよ腹を決めると、スウッと息を吸い込んで言う。


「わかった。けど、ちょっと時間がかかる。皆さん、何とか三分だけ時間を稼いでくれませんか?」

「三分か……長いな」

「けど、これだけ人数がいるならやってやれなくはないでしょう」

「ほかならぬライザ殿の頼みとあれば、このアルザロフが命に代えてもやり遂げて見せよう!」

「……私ではなく、ノアなのだがな」


 俺の問いかけに、すぐさま応じてくれる剣士たち。

 大剣神祭の出場者がほとんどを占めるだけあって、その返事は実に頼もしいものだった。

 ……約一名、少しずれているような人がいるがまあ大丈夫だろう。

 俺はさっそく、姉さんに生命力を集めるための術式の構成にかかる。


「ええっと、あの洞窟に在った術式も参考になりそうだな……」


 ジンの魔力だけでなく、生命力まで吸い上げて封じ込めていた古代の術式。

 あの内容も参考にしながら、少しずつ魔術を構成していく。

 シエル姉さんに叩きこまれた多岐にわたる魔術の知識。

 それを総動員しての作業は、脳が痺れるかのようであった。

 

「何をこそこそと。叩き潰してやろう」


 やがて、こちらの動きを察したジンが攻撃を仕掛けてきた。

 すぐさま、アルザロフを筆頭に剣士たちが動き始める。


「奴に攻撃をさせるな! 数で圧倒するんだ!」

「背中へ回り込め!」

「こいつ、反応速度は遅いぞ!」


 巨大な異形を相手に、果敢に仕掛けていく剣士たち。

 しかし、ジンもただやられているわけではない。

 剣士たちの動きが早いとみると、自らも射出の早い雷撃を連発し始める。


「うおあっ!!」

「散れ! 塊になるな!」

「こいつ、全く斬撃が効かないぞ!」


 次第に剣士たちの中にも、怪我をする者が増え始めた。

 さらにどれだけ攻撃を仕掛けても堪えた様子の無いジンに、焦りが生まれ始める。

 もう少し、あともう少しで術式自体は組み上がる。

 それまで何とか持ちこたえてくれ……!

 俺は参戦できない自分に歯がゆさを覚えつつも、懸命に手を動かした。

 石畳の舞台に、少しずつ魔法陣が刻み込まれていく。


「ノア、まだか?」

「あとちょっとです!」


 しびれを切らし、俺に問いかける姉さん。

 それに返事をしたところで、にわかにジンの魔力が高まった。

 おいおい、嘘だろ……!?

 まさかこの舞台ごと吹き飛ばす気か!?

 巨大な雷の塊は、さながら闇夜を照らし出すようだった。


「これで終わりだ!!」

「……まずい!! 逃げろっ!!」


 バリバリと大気を切り裂きながら、こちらに迫る雷の塊。

 あまりに膨大な魔力を秘めるゆえか、その動きは不気味なほどに遅かった。

 しかし、ここで逃げてしまうわけにもいかない。

 術式の作成を中断すれば、再び最初から作り直しとなってしまう。

 いったい、どうすれば……!

 俺たちがまさに雷に呑み込まれようとしたその瞬間。

 黒い影が割って入ってくる。


「奥義・鏡返し!!!!」

「この技は……!!」


 雷の塊が、さながら光が反射するように戻っていった。

 間違いない、ゴダートの奥義だ!!

 信じられない、あの状態で地下を脱出してここまで来たのか!!

 あまりの驚きに、俺は一瞬だが思考を止めかけてしまった。

 しかしすぐに、姉さんに向かって叫ぶ。


「できました! みんなの力を、ぜんぶ預けます!!」

「任せろ! 今度こそあいつを跡形もなく消してやる!!」


 やがて心地よい脱力感と同時に、アロンダイトが黄金の輝きを放った。

 その光はさながら、夜明けを告げる太陽のよう。

 あまりにまばゆくあまりに神々しい。

 その場にいた誰もが目を奪われ、対するジンまでもが目を見開く。


「なんだ、それは……!!」

「貴様を殺す刃だ。滅びろおおおぉっ!!!!」


 こうして、必滅の一撃が放たれたのだった。

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