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第四十話 絆の力

「な、なんだこりゃ!?」

「途方もない大きさですね……!」


 崩れ落ちた闘技場。

 それと入れ替わるようにして地上へと出てきたジンの姿を見て、ロウガさんたちは驚きの声を上げた。

 黒雲を纏ったジンの身体は、地下洞窟で見た時よりもさらに一回り以上も大きい。

 周囲の建物と比べても、圧倒的なほどの存在感だ。

 加えて、その巨体の周囲を時折、魔力の稲妻が迸っている。


「ははははは! 人間どもよ、今こそ滅びの時だ!」

「まずいな、こんな街中で暴れられたら被害がやべえぞ!」

「とりあえず、私たちはみんなを避難させましょう!」 

「そうだな。あんたたち、手を貸してくれるか?」


 ここでロウガさんが、メルリア様の連れてきた兵士たちに呼びかけた。

 突然の事態に戸惑いを隠せない彼らだが、すぐに隊長格らしき人物が返事をする。


「わかった。何としてでも、被害を最小限に減らそう!」

「俺たちが奴を何とか足止めします。そのうちに、早く!」


 そう言っているうちに、ジンが勢いよく雷を吐いた。

 たちまち周囲の建物の屋根が吹き飛び、人々が逃げ惑う。

 まずいな、人が多すぎて避難が遅れてる……!

 俺は急いで闘技場の跡地に向かって走ると、そこからジンの背中に飛撃を放つ。


「いいだろう、少し遊んでやる」


 がら空きだった背中に攻撃を入れたが、全くと言っていいほどダメージは入らなかった。

 全身を覆っている黒雲が、斬撃をかき消してしまったように見える。

 防御魔術の一種なのか……?

 攻撃が通用しなかったことに驚くものの、注意を引くことが出来た。

 あとはこいつを、少しでも広い場所へと誘導しなければ。

 俺は瓦礫を踏み越えて、闘技場跡地の中心へと移動した。

 すると驚いたことに、石造りの舞台が壊れもせずにそのまま残されている。


「こりゃいいや。ジン、ここで決着を付けよう!」

「ははは! ちょうどいい処刑場だな!」


 高笑いをするジン。

 その掌から、たちまち紫電が迸った。

 うわ、手からも雷を出せるのかよ!

 俺は身を捻って雷撃をかわすと、牽制のために再び飛撃を放つ。


「かゆいかゆい!」

「どうなっているんだ……?」

「我に斬撃など一切効かぬということだ」

「……シンプルだけど、一番いやな話だな!」


 三度放たれた斬撃をかわしながら、対応策を考える。

 あの余裕たっぷりな表情からして、斬撃が効かないというのはただのハッタリではなさそうだ。

 何かしらの仕掛けがあるのか、それとも魔族ゆえの体質なのかはわからない。

 いずれにしても、ただぶつかっていくだけでは倒せないな……!


「あたっ!」


 ここで、ダメージを受けていた左足がとうとう悲鳴を上げた。

 ポーションを飲んで誤魔化していたが、少し無理をし過ぎたか……!

 連戦の疲れが一気にここにきて響いてくる。

 クソ、俺が動けなくなったらこいつをだれも止められないのに……!!

 ライザ姉さんも、戦えるまで回復するにはあと一時間はかかるだろう。

 それまでは何としてでも食い止めなければならないというのに、身体がなかなかついてこない。


「どうした? もっと踊らねばつまらんぞ」

「……くっ!」

「もうよい、飽いたわ」


 俺への興味を失ったのか、ジンは気だるげな態度で雷の弾を吐き出した。

 しかし、そのやる気のない雰囲気に反して攻撃の威力はすさまじい。

 周囲が青白い光に呑まれ、視界が奪われる。

 ……俺は、ここでやられるのか?

 諦めが脳裏をよぎった瞬間、どこからか声が響いてくる。


「うおおっ!? 病み上がりの身体にこれはきついな!!」

「拙者も助太刀いたすぞ!」


 やがて眼前に迫っていた雷の弾が、どこかへ弾き飛ばされていった。

 回復した視界に、キクジロウとアルザロフの背中が映る。

 二人とも助けに来てくれたのか……!!

 ……いや、彼らだけじゃない!

 周囲を見渡せば、いつの間にかメイガスやネロウといった本戦出場選手はもちろんのこと多くの剣士たちが集結していた。

 

「突然、戦えるものは闘技場へ集えと声が響いて来てな」

「事情はライザ殿から聞いている。拙者たちも戦わせてくれ」

「ありがとう! けど、あいつはどうも斬撃が効かないみたいで……」


 俺たちを見下ろし、不敵な笑みを浮かべているジン。

 その顔を見上げながら、俺はグッと歯噛みした。

 援軍は非常にありがたいが、このままでは全員がやられてしまう。

 何とか糸口を見つけ出さなければならないのだが……。


「大丈夫だ」

「……姉さん!」


 俺が唸っていると、剣士たちの間からライザ姉さんが顔を出した。

 まさか、その身体で戦うつもりなのか……!?

 俺が動揺していると、姉さんは腰から古びた剣を抜き放つ。

 輝きが薄らいでいるが、それは紛れもなくあのアロンダイトであった。


「これで奴を斬る」

「待って! そんなことしたら、姉さんの方が死んじゃうよ!」

「安心しろ、自殺願望はない。皆の力をこいつに結集するんだ」


 そう言って、俺の手を握ってくる姉さん。

 俺はその眼を見て、しっかりと握り返すのだった。


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