第三十九話 出現
「はぁ……はぁ……! 何とか間に合いましたね」
「ああ。流石に、この状態で背負って登るのは骨が折れたぞ」
地下の洞窟へと通じる竪穴。
それを登り切ったところで、俺とライザ姉さんは小休止を取っていた。
お互いにまだ身動きの取れないクルタさんとアエリア姉さんを背負ってきたため、体力を大きく削られてしまっている。
特にライザ姉さんは、自身の回復もままならないというのによくやってくれたものだ。
「む、ここも危ないかもしれんな。アエリア、立てるか?」
「ええ、何とか」
「ボクもちょっとは動けそうだよ」
洞窟の崩壊は、その上に立つ闘技場にも影響を与えているようだった。
天井からパラパラと小石が降ってきたのを見て、ライザ姉さんは慌てて皆に動くように促す。
一方の俺は、洞窟の奥に置いてきてしまったゴダートのことを考えていた。
「姉さんたちは、先にここを出てください」
「どうした? 怪我が痛むのか?」
「そうじゃなくて、ゴダートを連れてこないと!」
「何を言っている! 今戻れば、お前まで生き埋めになるぞ!」
「そうは言っても、あいつには生きてもらわないと! ここで死なれたら何にもならない!」
俺は急いで洞窟の中へと戻ろうとした。
だが、その手をライザ姉さんががっしりと掴んで離さない。
「ダメだ! 行かせられない!」
「けど……!」
「て、天井が!?」
俺たちが言い争っていると、アエリア姉さんが天井を指さして騒ぎ出した。
見上げれば、そこかしこに亀裂が走って今にも崩れてきそうである。
さらに、四方を支える柱からもミシミシと嫌な音が聞こえてくる。
これはもう、一刻の猶予もないな……!!
俺は体力の十分回復していない姉さんたちを振り返ると、やむを得ずゴダートを諦めた。
そして彼女たちの手を握ると、全速力で走り出す。
「わわっ!? ちょっと!?」
「急いでください! もうもちませんよ!」
「げっ!? 落ちてきましたわよ!!」
こうして動き出したところで、いよいよ耐えきれなくなった天井が崩落を始めた。
巨大な瓦礫の塊が、俺たちの方に向かってゆっくりと向かってくる。
まずい、当たるっ!!!!
俺はとっさにクルタさんとアエリア姉さんを突き飛ばし、背中で彼女たちを守ろうとした。
だがここで、白い斬撃が岩塊を吹き飛ばす。
「ライザ姉さん!!」
「急げ、止まってる余裕はないぞ!」
「はいっ!!」
姉さんの援護を受けながら、そのままどうにか闘技場の外まで走り切った俺たち。
どうにかこうにか脱出することができたな……。
安全な場所に来られたという安堵からか、自然と大きな吐息が漏れた。
アエリア姉さんに至っては地面に横になってしまっている。
「もう駄目、身体が動きませんわ……」
「この程度で情けないぞ。運動不足だ」
「それは否めませんわね……。走り込みでもしましょうかしら……」
「おーーい、大丈夫か!?」
「ロウガさん? それにメルリア様まで」
声のした方へと振り返れば、そこにはロウガさんやメルリア様の姿があった。
闘技場が崩落を始めたのを見て、駆け付けてくれたらしい。
さらに、彼らの後ろにはメルリア様が連れてきたのであろう兵士たちの姿も見える。
「これはどういうことでしょうか? 闘技場が……」
「話は後です! 今すぐここに、ありったけの戦力を集められますか?」
「えっと、彼らだけでは足りませんか? 一応、我がエルバニアの精鋭なのですが……」
そう言うと、自らの連れてきた兵士たちを見やるメルリア様。
王女自らが精鋭というだけあって、全員がなかなかの強者に見える。
だが、あのジンを相手にするにはこの程度の戦力では心もとないだろう。
それこそ、今エルバニアに滞在している武芸者たちを全員集めるぐらいでなくては。
「きゃっ!?」
「まずいな、奴の気が一段と膨れ上がっている!
ここで、ひときわ大きな揺れが周囲を襲った。
闘技場の柱が倒れ、観客席が崩れ始める。
……この様子だとあと数分もしないうちにジンが地下から出てくるぞ!
そうなったときに、果たして消耗の激しい俺たちだけで食い止められるのか。
はっきり言って全く自信が無かった。
するとここで、アエリア姉さんが言う。
「うちの商会に闘技場で使っていた風の魔導具の予備がありますわ。あれを使って街中に呼び掛ければ、すぐに人を集められるはずでしてよ」
「それだよ! 姉さん、すぐに準備できる!?」
「ええ。姫様、ついてきてくださいまし!」
「は、はい! わかりました」
姫様を連れて、フィオーレ商会へと急ぐアエリア姉さん。
そうしている間にも、地下からどんどんと禍々しい魔力が沸き上がってくる。
そして――。
「はははは!! 解放だ、解放されたぞ!!!!」
「これが……ジンの本体か!!」
黒雲のような靄を纏った巨大な魔族が姿を現すのだった。




