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第三十三話 封印

「ほう……お前があのシュタインか」

「シュタイン殿下と呼べ。私は王になる男だぞ」


 姉さんの発する殺気を受けてなお、尊大な態度を崩さないシュタイン。

 ゴダートが脇に控えているが故の余裕なのか、それともまた別に理由でもあるのか。

 本人はお世辞にも鍛えられているようには見えなかったが、ずいぶんと余裕綽々だ。


「ふん、このような騒動を起こしておいてお前が王になれるわけないだろう」

「それがなれるのだよ。なぁ?」

「その通り。我の言うことを聞いていればな」


 どこからともかく、低く威圧感のある声が聞こえてきた。

 独特の重みのある声は、さながら岩か何かが離しているかのよう。

 無機質で、およそ人が発しているものとは思えない。

 明らかに魔族かそれに類するものの気配がした。


「何者だ! 姿を見せろ!」

「あいにく、それはできん。封印されているのでな」

「……もしかして、この魔法陣が関係しているのか?」


 俺は壁一面に刻み込まれた魔法陣を見渡しながら、正体不明の存在へと問いかけた。

 するとたちまち、気味の悪い笑い声が響き渡る。


「ははははは、なかなか勘が良いではないか! そうとも、我はこの忌々しい魔法陣によって数百年にもわたって封じ込められておる」

「お前は、真の魔族なのか?」

「ほう、今の人間にしてはよく物を知っている。いかにも、我は古の血を引く真の魔族ジンであるぞ」


 驚くほどあっさりと、自らの正体を認めた真の魔族ジン。

 それに続いて、シュタインが冥途の土産とばかりに事情を簡単に説明する。


「この魔族は自らを封じた一族の末裔であるエルバニア王家を常に監視していてね。それでたまたま、冷遇されていたこの私に声をかけてきたという訳さ。自らの封印を解けば、王にしてやろうってね」

「馬鹿な! そんなもの、単に利用されているだけだぞ!」

「そうだよ! 仮にも王子様なのに、そんなこともわからないの?」


 とても約束を守るとは思えない魔族の甘言。

 それにあまりにもあっさり乗ったシュタインに対して、姉さんたちはたちまち非難の声を浴びせた。

 すると彼は、苛立たしげに声を大きくして言う。


「はっ!! 俺のことを認めようとしない父上や叔父上などより、ジンの方がよっぽどマシだ! そうだ、ジンだけが俺のことを分かってくれる……!」

「こいつ……取り込まれているな……!」

「うん、悪の心に付け入られたんだね。魔族のよく使う術だよ」


 自身が操られた経験があるからか、平静に語るクルタさん。

 彼女は一歩前に出ると、シュタインに向かって強く呼びかける。


「今ならまだ間に合うよ。すぐにアエリアさんを解放して!」

「平民風情が分かったような口を利くな! 剣聖ライザ、お前にはしばらく私の指示に従ってもらう。そうすればその女を解放すると約束しよう」

「魔族に操られた者の言うことなど、信用できん!」


 吐き捨てるようにそう言うと、ライザ姉さんはゴダートとの距離を詰めようとした。

 するとすかさず、ゴダートがアエリア姉さんの首元に手を添える。


「……これ以上近づけば、この女の首を折る」

「卑劣な……!!」

「ははは、剣聖といえども姉を人質に取られては何もできないか」


 勝ち誇ったような笑みを浮かべると、シュタインは懐から小さなマジックバッグを取り出した。

 そしてその中から、一本の剣を取り出す。

 柄に大きな宝玉のはめ込まれたそれは、美しい黄金色に輝いていた。


「それは……宝剣アロンダイト!」

「そうだ。お前にはそれでジンを斬ってもらう」

「どういうことだ? アロンダイトは、刃を持たぬ儀礼用の剣だぞ。それに、その魔族はお前の仲間ではないのか?」


 予期せぬ展開に、戸惑いを隠せないライザ姉さん。

 するとどこからか、ジンの楽しげな声が聞こえてくる。


「その剣は我の封印が解けた際に備えて作られた特別な剣よ。剣聖と認められた者だけが真の力を引き出せる上に、魔族以外は斬れぬから飾りと思われたのだろう」

「そうだとして、なおさらそんなもので貴様を斬ってどうする? 封印の身に飽きて、死にたくなったのか?」

「あながち、間違いではない」


 そう言うと、ジンは何やら含みのある笑いを響かせた。

 死にたくなったというのが、あながち間違いではない……?

 そう聞いた俺は、これまでの出来事を思い出してふとあることに気付く。


「……まさか、仮死状態になって封印を抜ける気か」

「然り! なかなか頭が回る小僧よ」

「どういうこと?」


 自体が呑み込めないのか、訝しげな顔で尋ねてくるクルタさん。

 俺はすぐさま、彼女と姉さんに理由を説明する。


「封印に使われる魔法陣の中には、封印対象の状態に応じて機能を変化させるものもあるんです。恐らく、ここの魔法陣もそうなんでしょう。ジンが活性化したのを感知して、その力を吸い尽くそうとしているんです」

「そっか! 私たちが今すっごく寒く感じるのは、魔法陣の影響ってわけか!」

「逆に、先王が調査をした時期にはまだジンは休眠していた。それに合わせて魔法陣も休眠していたため、特に何もなしと報告されたんです」

「これだけ冷えていれば、間違いなく異常に気付くはずだからな」

「ええ。加えてこの手の魔法陣は、封印対象が死亡したら機能を停止する。だから、それを狙っているってこと」


 俺がそう言うと、シュタインがパンパンと褒めたたえるように手を叩いた。

 そしてひどく歪な笑みを浮かべて、楽しげに言う。


「物分かりがいいね、嫌いじゃないよ。この魔法陣は、ジンの魔力が一定の値を下回ると完全に機能を停止する。そのために君にジンを斬ってもらい、その傷口から魔力を吸い出そうという訳さ」

「そんなもの、どうやって吸い尽くすつもりですか? とんでもない量ですよ」


 数百年にもわたって封印され続けている高位魔族である。

 その身に秘めた魔力は、恐らく途方もない量のはずだ。

 そんなものを無理やり吸い出せば、暴発して洞窟が吹き飛びかねない。

 するとシュタインは、分かってないとばかりに肩をすくめる。


「その程度、私が考えていないと思ったのかい? コンロンから大量の魔導具を買い付けた。旧式の魔砲から出来損ないの魔剣まで、これらに流し込めば問題ない」

「用意の良い奴め」

「さあ、早くアロンダイトを手にしろ! それは剣聖でなければ扱えんからな」

「……そんなことのために剣聖の称号を欲していたとは。剣聖の位も軽くなったものだ」


 どこか自嘲めいた声で呟きながら、姉さんは足元に投げられたアロンダイトを手にした。

 その瞬間、空間全体がぐらぐらと揺れ動き始める。

 これは……いよいよ黒幕がお出ましの様だぞ!!

 やがて地面から立ち上る瘴気を見て、俺たちはとっさに武器を構えるのだった。

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