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第二十七話 第十回お姉ちゃん会議

「三人しかいないけど、そろそろ始めましょうか」


 時はわずかに遡り、大剣神祭の本選が始まる前のこと。

 ウィンスター王都にあるノアの実家に、アエリアとライザを除く姉妹が集まっていた。

 毎度おなじみのお姉ちゃん会議である。

 今回はアエリアがすでに不在であるため、代わりにシエルが取り仕切っていた。


「エルバニアだと、そろそろ大剣神祭の本選が始まった頃かしら?」

「ん、時間的にはそう」

「……アエリア、連絡よこさないわねえ」


 姉妹を代表してエルバニアに向かうこととなったアエリア。

 通信球を使って家に中継すると約束した彼女であったが、昨日から連絡が途絶えていた。

 ノアの実力からすれば、本戦に出場していることはまず間違いないはずなのだが……。

 いったい何がどうなっているのか、姉妹たちは気が気でない。

 

「通信球が故障したのでしょうか?」

「アエリアのことだから、必ず予備を持ってるはずよ。それはないわ」

「アエリアの身に何かあった?」

「それもまずないと思うわよ。国賓待遇だから、警備は厳重なはずよ」


 今回、アエリアは大剣神祭のスポンサーとして出かけている。

 その身柄は大会の主催であるエルバニアがきっちりと保護しているはずだ。

 危険な場所に赴くような性格でもないため、アエリアの身に何かが起きたとは考えにくい。


「こんなことなら、何とかチケットを買えば良かったわ」

「買える当て、あったの?」

「これでも賢者よ。あちこち伝手を辿ればなんとかなったはずだわ。むしろ、エクレシアの方こそこっそり買って出かけると思ってた」


 エクレシアの方を見ながら、からかうように微笑むシエル。

 上流階層に多くの顧客を抱えるエクレシアは、その内向的な性格に反して顔が広かった。

 そのため、大剣神祭のチケットと言えども手に入れることは容易だったはずなのである。

 するとシエルは、しょんぼりとした様子で肩をすくめる。


「買おうとしたけど、吹っ掛けられた」

「へえ、いくらだったの?」

「一千万ゴールド」

「うわ、流石にそりゃ払いたくないわね」


 エクレシアの言葉に、たまらずシエルは眉をしかめた。

 いくら大剣神祭のチケットが高いと言えども、それは流石にやりすぎであった。

 しかし、エクレシアはブンブンと首を横に振る。


「一千万なら払った。けど、すぐに払うって言ったら今度は二千万って」

「あんた、いろいろと大丈夫? 金銭感覚もそうだし、カモにされてそうだし」

「ちなみに、それを言った人はどなたなんです?」

「王様」

「……そりゃ、聞いたあんたの方が悪いわ」


 怖いもの知らずが過ぎるエクレシアに、シエルはやれやれと肩をすくめた。

 可愛いノアのためとはいえ、まさか王様に頼みに行くとは。

 シエルにはある意味でできない芸当である。


「しっかし、アエリアはほんとにどうしたのかしら? これじゃ何にもわからないじゃない!」


 机の上に鎮座する通信球。

 先ほどから何の反応も示さないそれに、シエルはいら立ちをあらわにした。

 やがて彼女は球の側面をポンポンと叩き始めるが、やはり変化はない。

 むしろ、堅い水晶球を叩いたせいで少し手が痛かった。


「アエリアはエルバニアに良からぬ噂があると言っていましたが……。ひょっとすると、何か起きたのかもしれませんね」

「そう言えば、その件についてだけど……。最近、コンロンが魔導具を買い漁ってるから売らないようにって連絡が来たのよね」

「あら? あの商会が魔導具を買い漁るのはいつものことではありませんか?」


 シエルの言葉に、いささか怪訝な顔をするファム。

 武器商人が本業であるコンロンだが、その品揃えは幅広く魔法を使った兵器の類も取り揃えている。

 その彼らが魔導具を買い集めているのは、日常業務といって良かった。

 するとシエルは、言葉が足りなかったとすぐに付け加える。


「それがね、魔導具であればクズみたいな三級品でも買っていくのよ。かなりの高額でね」

「そんなものを買い集めて、いったいどうするのでしょう?」

「さあ? 魔石を取り出すにしては効率が悪いし。転売するにしても、利益なんて出るとは思えない。何をするつもりか、どうにもわからないのよ」


 賢者の頭脳をもってしても、コンロンの思惑は読み切れないらしい。

 シエルはさっぱりダメとアピールするように、両手を上げた。

 それを見たファムも頭を捻るが、心当たりなどあろうはずがない。


「こうなったら、私たちもエルバニアに行くしかないかもしれませんね」

「そうは言っても、流石に今からじゃ大会に間に合わないわよ」

「ううん……! もどかしいですね……!」


 危機に見舞われるノアの姿を想像して、居ても経っても居られなくなるファム。

 彼女は椅子から立ち上がると、そのまま部屋の中を右往左往し始める。

 その聖女らしからぬ憔悴しきった様子に、シエルはふとあることを呟く。


「落ち着いてよ。そうねえ……。物だけなら、送れるかも」

「え!? 本当ですか!?」

「まぁ、不確実な方法になっちゃうけどね」


 そう告げると、そそくさと準備を始めるシエル。

 こうして姉妹たちは、ノアに物資を届けるべく動き出すのだった。


 

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