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第二十五話 東方剣術

「さあいよいよ、一回戦も最終試合です! ジーク選手、キクジロウ選手! どうぞ!」


 声を張り上げ、サッと手を上げる司会者。

 その動きに合わせて、俺とキクジロウは控室を出て舞台に上がった。

 果たして、東方から来たとであろうこの浪人の実力はいかほどか。

 盛り上がる観客たちの熱気とは裏腹に、俺の心は少しばかり冷えていた。

 姉さんのおかげで大陸の剣術は一通り見知っているが、東方剣術には未知の部分も多いのだ。


「二人とも、今回の大会が初出場の新顔です! 若き天才たちは、果たしてどのような戦いぶりを見せるのか! それでは、試合開始です!!」


 互いに距離を保ったまま、剣を抜く俺とキクジロウ。

 いや、正確に言えば向こうは剣ではなく刀か。

 大振りの波紋が美しく、刀に無知な俺でもかなりの業物であることが伺える。

 

「……妙だな」


 人から譲り受けた刀なのだろうか?

 キクジロウの身長に対して、刀がいささか長すぎるように見えた。

 流石に本戦出場者なだけあって、振り回されているという印象ではないが……。

 構えにわずかながら違和感がある。

 ここは一気に間合いを詰めて、攻め立てるべきか。

 それともまだ様子見に徹するべきか。

 誘い受けの可能性もあるだけに、俺は少しばかり慎重になる。

 すると――。


「青天流・かまいたち!!」

「……くっ! 早いっ!」


 先にキクジロウの方が仕掛けてきた。

 飛撃と同じく、飛ぶ斬撃だ。

 しかし、その速度は飛劇よりも数段早い上に見えにくい。

 俺はとっさに剣でガードすると、キクジロウがこちらに飛び込んでくる。


「それなら……はあぁっ!!」

「なっ!? 炎が!?」


 剣に魔力を込めた瞬間、炎が吹き上がった。

 迸る熱気、舞い散る火の粉。

 危うく炎に巻かれそうになったキクジロウは、たまらず眼を剥くとすぐに俺と距離を取る。


「……驚いた! 魔術と剣術を組み合わせるのか!」

「面白いでしょ?」

「だが、小手先の技では拙者には勝てんぞ!」


 再びかまいたちを放ってくるキクジロウ。

 真空の刃が頬を掠め、うっすらと傷がついた。

 おいおい、さっきよりもさらに速くなってないか……?

 これを掻い潜ってキクジロウと距離を詰めるのは、かなり難しそうだ。


「まだまだ! 青天流・五月雨の舞!!」

「くっ!?」


 弧を描くように刀を振るうキクジロウ。

 直後、俺の全身を不可視の刃が襲った。

 まずいな……!

 威力は皮膚を斬る程度でしかないが、あまりにも速くあまりにも多い。

 これでは距離を詰めるどころか、まったく身動きが取れない。

 ガードを解けば、たちまち体中が血まみれになってしまうだろう。


「これは、ジーク選手が押されているようです! 果たして挽回できるのか!!」


 声を張り上げる司会者。

 控室の方へと眼を向ければ、クルタさんたちも心配そうな顔でこちらを見ている。

 どうにかしてこの状況を覆さなければ。

 だが、飛撃で遠距離戦に持ち込んだとしても手数で負けるだろう。

 加えて、東方の侍は総じて身軽で動きが早い。

 速度で劣る飛撃では、回避される確率がかなり高いな。


「こうなったら……天歩!!」

「上からか!」


 石畳を蹴り、俺は空へと飛び出した。

 キクジロウが狙いを合せてくる前に、距離を詰め切る!!

 俺はさらに空中を蹴ると、一気に加速した。

 大気を貫くさまは、さながら雷の如く。

 しかし、対するキクジロウも冷静だ。

 俺の着地点を読み、後ろに退く――。


「まだまだっ!!」

「なにっ!?」


 着地する瞬間、剣に炎を纏わせ魔法剣を放った。

 閃光、爆発。

 たちまち強烈な反動が身体に襲い掛かり、重力が反転する。

 こうして吹き飛んだ先は、キクジロウのいる方向であった。


「馬鹿な!?」

「おりゃあああっ!!」


 懐に飛び込み、剣を振り抜く。

 ――入った!!

 俺の剣はキクジロウのガードを抜けて、彼の着流しを切り裂いた。

 だが、致命傷を与えるまでには至らなかったらしい。

 空高く打ち上げられたキクジロウだが、そのまま猫のようにきれいな着地を決める。


「……惜しい!」

「油断した、思わぬ手を使うな」


 額に浮いた汗を拭うキクジロウ。

 その表情からはすっかり余裕が消えうせ、焦りが感じられた。

 よし、流れが大きくこっちに傾いて来たぞ……!!

 観客たちの声援も大きくなり、風が吹いて来たのを感じる。


「このまま一気に……! 炎よ!!!!」


 高まる魔力、燃え上がる剣身。

 キクジロウが態勢を整える前に、俺は最大威力の魔法剣を放つことにした。

 立ち上る火柱が天を焦がし、熱気が肌を焼く。

 そして――。


「豪炎斬!!!!」

「奥義・鏡返し!!」


 炎を纏った巨大な斬撃。

 さながら火の鳥のようなそれが、キクジロウに襲い掛かった。

 だがその瞬間、眼を疑うような光景が出現する。


「嘘っ!?」


 俺が放った炎の斬撃が、こちらに向かって跳ね返ってきたのだった。


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