第二十一話 覇者の一撃
「さあ、栄えある大剣神祭本戦! 組み合わせが決定いたしました!!」
係員たちが運び込んできた黒板に、組み合わせを記載する司会者。
ええっと、一回戦第一試合がライザ姉さん対アンバー。
第二試合がネロウ対メイガン。
第三試合がゴダート対アルザロフ
そして、最後の第四試合が俺対キクジロウか。
とりあえず、ライザ姉さんとは決勝戦まで戦わなくてもいいってわけか。
けど、ゴダートと準決勝で当たるのはちょっと心配だな。
本戦に出場した以上、戦うことは避けられないわけだけれど。
「では、さっそく第一試合を始めたいと思います! アンバー選手、ライザ選手前へ! それ以外の選手の方は、いったん控室へお戻りください!」
司会者に促されて、舞台を後にする俺たち。
こうして控室に行くと、そこにはクルタさんたちが待ち構えていた。
「あれ? ここに入れたんですか?」
「うん。アエリアさんが便宜を図ってくれたみたいだよ」
「なるほど、それで」
大会のスポンサーであるアエリア姉さんなら、それぐらいのことは可能だろう。
昨日は出場を辞めろと言っていたが、何だかんだ気を利かせてくれたようである。
「そう言えば、アエリア姉さんは?」
「まだ来てないよ。忙しいんじゃないかな」
「あっちの方にいるんじゃねえか? ほら」
そう言うと、控室の窓から貴賓席の方を見るロウガさん。
あそこは王族と貴族専用だと聞いた覚えがあるけれど……。
アエリア姉さんぐらいの立場なら、あそこにいても不思議ではないか。
確か、どこかの国の名誉爵位などは持っていたはずだし。
「ジークの試合が始まるまでには来るんじゃないですか? すごく心配していましたし」
「まあ、邪魔してこないならむしろ好都合かな」
あれだけ言っておいて、こちらに来ないのはちょっと気にはなる。
てっきり、本戦が始まる前にああだこうだ言われると思っていたのだが……。
俺の決意の固さを見て、説得は困難だと判断したのだろうか?
アエリア姉さんがあの程度で引き下がるとも思えないのだけれど。
「それより、ライザの試合を見ようぜ! ほら、始まるぞ!」
俺があれこれ考えていると、ロウガさんがポンと背中を叩いた。
そうだった、まずはライザ姉さんの試合を見なければ。
舞台の上に眼を向ければ、ライザ姉さんとアンバーがすでに向かい合っていた。
その様子は、さながら美女と野獣と言ったところか。
肩幅だけでアンバーはライザ姉さんの三倍ぐらいはありそうだ。
「華奢な身体だなぁ。それでよく剣聖になれたもんだ」
「その私に、お前は前大会で負けたのだぞ?」
「俺は負けてねぇ! 準決勝でうっかり足に怪我をしなきゃ、決勝でお前を叩きのめしていた!」
「ふん、どうだかな」
ライザ姉さんに煽られ、アンバーはフンッと大きく鼻を鳴らした。
彼は背中から二本の剣を抜くと、顔の前で交差させるように構える。
なるほど、二刀流か……。
手数で押していける反面、片手で剣を扱わねばならないため使い手の筋力が問われる流儀だ。
見るからに筋力に優れるアンバーには、適していると言えるだろう。
ただの力自慢のように見えたが、意外とクレバーな戦い方をするのかもしれない。
「面白い。だが、スピードなら私も得意だ」
「ははは、我が二剣の速さについてこられるはずがない!」
自らを奮い立たせるように、雄叫びを上げるアンバー。
彼はそのままライザ姉さんに向かって突っ込んでいった。
そして二振りの剣を猛烈な速度で振るい始める。
流石、大剣神祭の本選出場者なだけのことはあるな……!!
目にも止まらぬ速さで二剣を振るいながらも、正確にライザ姉さんの急所を狙っている。
「ありゃとんでもねえな!」
「うわぁ……! あの大きさの剣をナイフみたいに……!」
アンバーの勢いに圧倒されてしまうクルタさんたち。
しかし、ライザ姉さんも負けてはいなかった。
二剣から繰り出される猛攻をすべて弾き、全く隙を見せない。
その様はまさしく鉄壁と言うのが相応しい。
「冷静だ、相手の出方を伺ってる」
「でも、防いでいるだけじゃ勝てないよ」
「大丈夫」
俺がそう言った瞬間、ライザ姉さんが大きく飛びのいた。
そしてアンバーの方を見ると、何とも挑発的な笑みを浮かべる。
「だいたい実力のほどは分かった。お前では私に勝てん」
「揺さぶりのつもりか? そっちこそ、俺の二刀に圧倒されっぱなしだったはずだ」
「剣が多ければいいというものではない。わからせてやろう」
そう告げると、ライザ姉さんはあろうことか剣を舞台の上に置いた。
嘘だろ、試合中に自ら剣を置くなんて……!!
あまりにも予想外の行動に、闘技場全体がにわかにどよめいた。
司会者も自体が呑み込めなかったのか、実況がワンテンポ遅れてしまう。
「……これはどうしたことでしょう! ライザ選手、剣を置いて降参か?」
「まさか。こいつ相手には、無刀流で十分というだけだ」
「何を言ってやがる! ふざけるな!!」
姉さんの奇怪な言動に、案の定、アンバーは激高した。
彼は再び二刀を構え直すと、ズンッと足を踏み出す。
途端に舞台の石畳が割れ、破片が舞い上がった。
おいおい、本当に人間か!?
大型モンスターもさながらのパワーに、俺はたまらず眼を向いた。
だが次の瞬間――。
「がら空きだ」
「ぐおあぁ…………!!」
刹那のうちに背後に回り込んだライザ姉さん。
彼女の放った手刀が、アンバーの意識を刈り取るのだった。




