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第八話 消えた荷物

「よし……!!」


 血を激しく噴き出しながら、傾くサンドワーム。

 これに勢いづいた俺は、続けて斬撃を繰り出す。

 ――流れを見て、逆らわない。

 サンドワームの皮膚と硬い肉が、今度はさほど労せず切り裂かれた。

 どうにか、流れを見極めるコツを掴めたようである。


「どりゃああっ!!」

「ジークに続けェ!!」

「坊主に負けてられるかよ!!」


 俺が作った傷をめがけて、次々と攻撃が打ち込まれた。

 一流の冒険者が集められているだけあって、その勢いは凄まじい。

 もともと防御には優れていないサンドワームは、瞬く間にダメージを蓄積させていく。

 そして――。


「はああああぁっ!!」


 サンドワームの頭をめがけて、三度斬撃を放つ。

 なまくらのはずの剣は、灰色の巨体を軽やかに引き裂いた。

 ダメージが大きかったのだろう、サンドワームの巨体が痙攣して動きが鈍る。

 ――今しかない。

 そう直感した俺は、今度は斬るのではなく刺すことを意識した。

 剣の切っ先が肉をかき分け、深部にまで達する。


「グオオオオオォ……!!」


 響き渡る断末魔。

 文字通り山ほどもある巨体が、ゆっくりと地面に崩れる。

 ……どうにか倒せたな。

 俺はサンドワームの背中から地面に降りると、額に浮いた汗を拭った。

 思った以上に身体には負荷が掛かっていたのだろう。

 走り込みを終えた後のように、全身がじんわりと重く脈が速まっている。


「これは驚いた……! これほどの変異体をあっさり倒せるなんて」


 驚きも露わに、エルドリオさんがこちらに近づいて来た。

 彼はおっかなびっくりと言った様子でサンドワームに触ると、改めて死んでいることを確認する。

 

「もしかして、君も大剣神祭に参加するのか?」

「一応、そのつもりです」

「参ったな……。まさかこんな伏兵がいたとは」

「こりゃ、出場はやめとくか」


 あちゃーっとばかりに、頭を手で押さえる冒険者。

 他にも、何やら困惑したような声が次々と聞こえてくる。

 あれ、せっかくモンスターを倒したというのにどことなく雰囲気が暗いな……?

 皆の予想外の反応に俺が戸惑っていると、クルタさんがポンと手を叩いて言う。


「ま、ジークはこういう子だから。いちいち驚いてたらキリがないって」

「ですね、早くミスリルを取り出しましょう」

「へへ、十億あればこの人数で分けても大儲けだな」


 うきうきとした様子で、解体用の道具を取り出すクルタさんたち。

 彼女たちの落ち着いた様子を見たせいだろうか、他の冒険者たちもすぐに平静を取り戻した。

 俺としては、何となく釈然としないのだけれど……。

 まあ、みんなが落ち着いてくれたらそれに越したことはないか。


「……よし、俺たちも手伝うぞ!」

「十億のミスリルか……楽しみだなぁ!」

「言っておくが、勝手に抜いたりするなよ」

「んなことしねえって!」


 勝利の余韻に浸りながら、和気あいあいとした雰囲気で作業を進める俺たち。

 しかし、どれだけ腹の中を探してもミスリルのインゴットは一向に見つからない。

 いかにミスリルが希少な金属とはいえ、十億相当ともなればかなりの量がある。

 まさか、俺たちが討伐するまでの間に胃の中で溶けてしまったのだろうか?

 ミスリルの塊なんて、そうそう簡単に溶けるはずないんだけど……。


「見つからぬな。十億相当のインゴットなど、ただの噂だったのではないか?」

「そんなことはない。間違いなく積まれていたはずだ」

「だが、これだけ探しても見つからぬのはちとおかしいであろう」

「……ひょっとすると、事故で食われたことにして誰かが横領したとかかも」

「あー……」


 クルタさんの言葉に、俺たちは思わず顔をしかめた。

 モンスターや野盗に襲われたことにして、積み荷を横領してしまう者はまれに居る。

 十億相当のインゴットなら、欲に眼が眩んでしまったとしてもおかしくはない。

 

「ここまできてとんでもないオチがついたな」

「仕方あるまい。これだけのモンスターだ、報奨金ぐらいは出るのではないか?」

「わざわざ自動車まで借りているからね。それだと……」


 ライザ姉さんの問いかけに対して、すかさず金勘定を始めるエルドリオさん。

 たちまち彼の表情が厳しくなり、うーんと困ったように唸り始める。

 報奨金が入る程度では、どうにも足が出てしまうらしい。


「参ったな……」

「まだみんな余裕はありそうですし、いっそ他のモンスターでも狩りますか?」


 困った様子のエルドリオさんに、すぐさまそう提案をした。

 つい先ほど無茶をしたばかりの俺はともかく、他のみんなはまだ割と戦えそうである。

 周囲を見渡せば、クルタさんたちがこくんっと頷きを返してくる。


「そうだね、ここまできて赤字になるのも困るし」

「ですね。これだけの人数がいれば、かなりの大物でも行けるでしょう」


 戦い足りなかったのか、ずいぶんとやる気を見せるニノさん。

 クナイをくるくると回してアピールしてくる。

 他の冒険者たちも彼女ほどではないが力を余らせているようで、やる気に満ちた表情だ。


「よし、わかった! じゃあ、予定を変更して……」


 こうして、エルドリオさんが皆を連れて移動を始めようとした時だった。

 ドスンッと大きな縦揺れが俺たちを襲う。

 これは……まさか……!?

 猛烈に嫌な予感がして、背筋を冷たいものが走った。

 俺はとっさに魔力探知を行おうとするが、その直後――。


「……む、群れ!?」


 先ほど現れたサンドワーム。

 それに匹敵する個体が、次々と首をもたげたのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] デッッッッッ!!なサンドワームの群れとか……チョーヤベーイ(白目)
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