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第六話 荒野の王

「でっかい……! なんですか、これ」


 翌日の早朝。

 南門の前の広場へ行くと、そこには見慣れない馬車らしき何かが止まっていた。

 角張った箱のようなそれは、どうやら金属製の板で覆われているようで黒光りしている。

 車輪がついていることからして馬車のようだが、肝心の馬が見当たらない。

 代わりに、パイプオルガンのお化けのような装置が取り付けられていた。


「こいつは自動車って言う最新のカラクリですよ」

「ああ、エルドリオさん」


 俺たちが見慣れない車を観察していると、エルドリオさんが声をかけてきた。

 へえ、こいつは自動車って言うのか……。

 そう言えば、火の魔石で動く車があるとかアエリア姉さんに聞いたことあるな。

 高価な魔石を大量に消費するので、まだほとんど普及はしていないらしいが。


「このカラクリは馬車よりも力があってね。こうやって装甲を貼ることもできるのさ」

「それで、今回の狩りのためにわざわざ引っ張り出してきたという訳か」

「ああ。こいつの装甲なら、襲撃されても少しはもつでしょう」

「……それがしには、気休めにしか思えんがな。丸呑みにされれば無意味だ」


 自動車の車体を叩き、怪訝な顔をするゴダートさん。

 彼の言う通り、装甲があったところで丸呑みにされてしまえばどうにもならないだろう。

 するとエルドリオさんは、分かってないとばかりに苦笑する。


「荒野には他のモンスターもいますから。全く意味が無いってことはありませんよ」

「ふむ、それもそうか」

「もう二台用意しているので、それらが到着したら出発しましょう」


 エルドリオさんがそう言ったところで、独特の音を響かせながら自動車が広場に滑り込んできた。

 爆音とでも言えばいいのだろうか?

 後方の装置から蒸気が噴き出し、車体全体が低い唸りを上げている。


「さっそく来ましたね。さあ、乗り込んでください!」

「どのカラクリに載ればいいですか?」

「皆さんはそうですね、最後尾でお願いしますよ」


 こうして、後方の入り口から車に乗り込む俺たち。

 たちまち大きな車体が軽快に走り出す。

 その力強い加速は、馬車とは比較にならないほど。

 なるほど、荒野を走り回るにはこれ以上のものはないだろう。

 前にランドドラゴンにも乗ったことがあるが、スピードではこちらが上回りそうだ。

 

「こいつはいいな! 俺たちも欲しいぐらいだ!」

「あとで、あのエルドリオって人に売ってくれないか聞いてみる?」

「買えたとしても、めちゃくちゃ高いと思いますよ」

「アエリアが前に買ったと聞いたが……。五千万ぐらいしたらしいぞ」


 ライザ姉さんのつぶやきを聞いて、たちまち意気消沈するロウガさんたち。

 あれば間違いなく便利だが、いくら何でもそこまで出すことはできない。

 みんなでお金を出し合ったところで、五千万も貯めるには数年かかるだろう。


「それがしは馬の方が好きだがな。我が愛馬錆風は、この車の倍は速く駆けるぞ」

「へえ、そりゃ大した馬だな」

「この地に連れてこれなかったのが、まことに残念であることよ」


 よほど気に入っている馬なのか、あれこれと語り始めるゴダートさん。

 こうしているうちに車はエルバニアの街を離れ、砂を巻き上げながら荒野を驀進する。

 やがて視界の前方にミーム荒野の入り口を示す岩山が現れる。

 赤茶けた岩塊は近くで見るといっそう巨大で、押しつぶされるような威圧感があった。

 崖の一部が大きく迫り出していて、どうやらそれが圧迫感の原因となっているらしい。

 

「いかにも、出そうな雰囲気であるなぁ」


 岩山を見上げながら、ゴダートさんがつぶやく。

 それに同意するように、ライザ姉さんが軽く頷いた。

 恐らくはこの辺りがサンドワームの出現ポイントであろう。

 肌に刺さるような気配に満ちている。


「始めるぞ! みんな降りて来てくれ!」


 エルドリオさんの声に合わせて、車から次々と降り立つ冒険者たち。

 最後に俺たちが降りたのを確認したところで、エルドリオさんはカバンから赤い筒を取り出す。

 ちょうど手のひらにすっぽりと収まるほどのそれには、細い紐のようなものがついていた。


「あれは……爆弾?」

「ニノさん、知ってるんですか?」

「ええ。シノビが使うものとは少し形が違いますが」


 思わぬ物体の登場に俺たちが少しざわついていると、エルドリオさんがパチンッと指を弾いた。

 それと同時に爆弾の導火線にポッと火が付く。


「さあ、狩りの始まりだ! みんな、耳を塞げ!!」


 気勢を上げると同時に、エルドリオさんが爆弾を投げた。

 ドォンッと激しい爆音が全身を揺らす。

 耳を塞いでいてなお、鼓膜が破れてしまいそうなほどだ。

 サンドワームを釣り出そうとしてるんだろうけど、ちょっと威力ありすぎじゃないか?

 今の爆発で、近くの岩がぶっ飛んだぞ!


「エルドリオさん! ちょっと荒っぽいですよ!」

「すまない、ちょっと火薬が多すぎたようだ。……お?」


 地面が震えた。

 幸か不幸か、威力過多だったことですぐに気づかれたらしい。

 地面の振動は次第に大きくなっていき、やがて立っていられないほどになる。


「おいおい! こりゃヤバいんじゃねえか?」


 バランスを崩し、地面に膝を突きながらロウガさんがぼやく。

 この揺れの大きさ、確かにただ事ではなかった。

 俺はすぐさま地面に手を突くと、魔力探知をして敵の様子を探る。

 すると――。


「げっ!? なんだこれ……!」


 想定される敵の大きさに、俺はたまらず眼を剥いた。

 さながら地面全体が魔力を反射しているかのようである。

 いったいどれほど巨大なモンスターならこうなるのか。

 まずい、このままここにいると……!!


「みんな逃げて! 丸呑みにされますよ!!」


 俺がそう叫んだ瞬間。

 荒野がさながら海のように波打ち、恐ろしく大きな影が鎌首をもたげる。


「サンドワーム……!?」


 視界を塞ぐような巨体。

 その大きさは、動く山脈とでも形容したくなるほどだった――。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんかエルドリオが持っているものにコンロンの臭いがぷんぷんしている気がします。
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