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第二十七話 竜の谷の決戦

「気を付けてよ! 前も言ったけど、下手なことすると爆発するわよ!」

「ええ、わかってますって!」


 導師と魔法を撃ち合いながらも、俺に指示を飛ばしてくるシエル姉さん。

 彼女が以前にも言った通り、ゴールデンドラゴンの身体は膨大な量の魔力に溢れていた。

 魔結晶から抜いた魔力のほかに、ララト山の龍脈から吸い上げた分もあるのだろう。

 その量は一個の生物とは思えないほどで、もし暴発すれば山に大穴が開きそうだ。

 俺たちどころか、チーアンの街まで吹き飛ぶかもしれない。


「グオオオォッ!!」


 咆哮を上げ、爪を高々と振りかざすゴールデンドラゴン。

 それを回避しつつ距離を詰めていくと、谷の上空を旋回していたドラゴンの群れが動き始めた。

 まさか、一斉に俺たちへと襲い掛かってくる気か?

 俺は思わず動きを止めて空を見上げるが、そうではなかった。

 ドラゴンたちは統率が乱れたようにバラバラに動き始め、やがてその一部が東へと向かう。


「これは……!」

「王の誕生が近い証だ。カカカ、戦いの刺激で誕生が早まったか!」

「まっずいわね! あっちは街の方角じゃない!」


 ロウガさんたちを街に残してきたとはいえ、ドラゴンの群れが相手ではそう長くは持たない。

 一刻も早く決着をつけて、街に戻らなくては。

 俺の中で、強い焦りが生じた。

 しかし、ゴールデンドラゴンの攻撃はその心中を察したように激しくなっていく。


「グアアアアァ!!」


 吹き付けるブレス。

 迫る紅炎を飛び上がって回避すると、俺は一気にドラゴンとの距離を詰めた。

 魔族に操られた哀れなるモンスター。

 その境遇には同情すべきものを感じるが、今は構っている場合ではない。

 黒剣に鱗を貫けるだけの魔力を通し、狙いを研ぎ澄ます。

 そして――。


「グギャアアアアオオ!?」


 腕の付け根に刃を入れて、そのまま一気に切り上げる。

 飛び散る火花、響く不協和音。

 ドラゴンの鱗は剣に魔力を通した状態ですら硬く、鉄の塊でも斬っているかのようだった。

 恐ろしく頑丈なはずの黒剣が、あまりの抵抗の大きさに軋む。

 くそ、こりゃ思った以上だ!!

 腕に深い傷を負わせたものの、俺は切り落とすことができないまま一時撤退する。


「これがドラゴンの鱗……!」


 話には聞いていたが、まさかこれほどとは。

 もともと強靭な材質の上に、圧倒的な魔力で強化されているのだろう。

 これでは魔法がほとんど効かないのも納得である。

 これを斬れるとしたら、ライザ姉さんぐらいのものだろう。

 いや、魔力によって体を守っているので姉さんすら厳しいかもしれない。


「どこかしら弱点を突かないと、こいつを倒すのは無理だぞ……!」


 剣を見ると、一部が刃こぼれしてしまっていた。

 隕鉄を鍛えて作られたこの剣でも、異常な硬さと強さを誇る鱗を前にしては持たないらしい。

 何とか弱点を見つけ出さなければ、奴を倒す前に剣の方が折れてしまいそうだ。

 俺は攻撃をかいくぐりながら、ドラゴンの全身をくまなく魔力で探知する。

 すると――。


「……ん?」


 俺が与えた傷口に、体内の魔力が集中していた。

 魔力で細胞を活性化させて、治癒力を底上げしているようだ。

 先ほどまで血を噴いていたはずの腕が、いつの間にか動くようになっている。

 だがこの魔力の集中が、ドラゴンを制御する術式に思わぬ不具合を起こしていた。


「魔力が乱れて、術式が歪んでいる……! これなら……!!」


 ドラゴンの全身に刻み込まれた術式。

 それが、体内の魔力に乱れが出来たことで不規則に揺れていた。

 もともと、出産を控えたドラゴンが膨大な魔力を蓄えたせいで不安定になっていたのだろう。

 安定した状態ならば付け入るスキはなかったが、これならば……!!


「はあああああぁっ!!」

「むっ!? 貴様、まさか!!」


 剣を低く構え、呼吸を整える。

 臍下丹田に力を込めて、身体の奥底から気を引き出した。

 そしてそれを魔力と融合させ、黒剣へと通す。

 たちまち剣全体がぼんやりと青白い光を帯びた。

 それを横目で見た導師が、俺のしようとしていることを察して眼を剥く。


「そうはさせるか! 死ねえい!!」

「はっ! 私を忘れないでよね!」


 導師が放った魔弾を、シエル姉さんが見事に撃ち落とした。

 魔力の塊が空中ではじけて、大気をビリビリと揺らす。

 

「今のうちにやって!」

「小癪な! まとめて吹き飛ばしてくれる!」


 魔族の魔力は無尽蔵だとでもいうのだろうか。

 導師は人の頭ほどもある魔弾を次々と繰り出してきた。

 それに対抗する姉さんもまた、無詠唱で次々と魔法を繰り出す。

 光が点滅し、視界が白黒に染まっていくかのようだった。


「姉さん、ありがとう……!」


 俺はシエル姉さんに軽く頭を下げると、一気に深く踏み込んだ。

 ――ここで決める!

 気持ちを奮い立たせ、全身全霊を込めて剣を振るう。

 ビョウッと響く風斬り音。

 たちまち切っ先から見えない刃が放たれ――。


「魔裂斬ッ!!!!」

「グオオオオオォン!!!!」


 ドラゴンの身体に深く植え付けられた制御術式。

 それがたちまちのうちに切り刻まれるのだった――。


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